「言わざる・聞かざる・許されざる」
-消費税の控除税額の方法についてアドバイスしなかった税理士の責任が問題となった事例
消費税の申告においては、課税期間中の売上高が5億円を超えるか、課税売上高が95%未満の場合には、課税売上に対応する部分を控除する計算方法として、個別対応方式と一括比例配分方式の2種類が存在します。
依頼者がいかなる方式によって税額控除の計算を行うかは、専門的な知識に基づく判断が必要になり、税理士の適切なアドバイスが必要不可欠といえるでしょう。
本記事では、依頼者が消費税の税額控除の計算方法について、税理士が聞き取りを全くせずに一括比例配分方式を選択して消費税申告をした結果、翌年に過大な税額を納付しなければならなくなったとして、税理士の債務不履行に基づく損害賠償責任が認められると判断した事例(平成15年11⽉28⽇判決)を参考に、「消費税の控除税額の方法についてアドバイスしないことのリスク」についてご説明いたします。
なお、弊所では税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。
【目次】
1 事案紹介
本件の事案の概要と経過は、以下のとおりです。
1.1 事案の概要
税理士Yは、Xと税務申告につき委任契約を締結していた。
Xは、平成11年度までは、課税売上割合が95%以上であったため、消費税額及び地方税額(以下、単に「消費税」という。)の控除税額は全額控除方式によって計算していた。
Xの平成12年度の課税売上割合は94.9%であったが、税理士Yは、消費税の控除税額の計算について個別対応方式を利用できることを何ら説明・質問せず、一括比例配分方式を選択した。
Xは、平成12年度の消費税の確定申告において、一括比例配分方式を選択したため、よく2年個別対応方式を利用できなくなった(消費税法30条5項)。
これにより、Xが平成13年度に納付すべき消費税額は、控除税額を個別対応方式で計算すると、1678万7000円となるはずであったのに、一括比例配分方式により計算した3046万1100円を納付せざる得なくなった。
Xは、3016万1100円と1678万7000円の差額である1367万4100円の損害を被ったとして、税理士Yに対し損害賠償請求訴訟を提起した。
1.2 経過
平成11年度まで
平成12年度
平成13年度
2 解説
本判決の争点として判断された内容は多くありますが、特に参考にすべきポイントは以下のとおりです。
②一括比例配分方式の2年縛りにより翌年度に多額の納税をせざるを得なくなった税額が善管注意義務違反と因果関係のある損害とされた点
2.1依頼者に対し、税額控除の計算方法として個別対応方式と一括比例配分方式を選択することを説明しなかったことが善管注意義務違反とされた点
裁判所は、税理士Yが、X社が将来土地売却を行う可能性があることを知っていたことを前提に、
- 「それまでは選択の余地のなかった控除税額の計算方法について選択できるようになったこと、その選択によって当年度に納付すべき税額が変わること、また、原告が今後一定期間内に土地の譲渡等の非課税取引をした場合には、他方を選択した場合よりも、多額の税金を納付しなければならなくなる可能性があることなどを原告に対して説明すべき委任契約上の義務」に違反した
として、税理士Yの責任を認めました。
なお、裁判所はX社があたかも本件不動産が平成12年度の時点では売却されていないかのような話をしていたことなども考慮し、請求額の7割(957万1870円)を損害として認定しています。
ちなみに、税理士Yの言い分(上図)である、課税売上割合が94.9%で、わずか0.1%のために個別対応方式を利用することは、コスパ的に常識では考えられないですよ…との言い分は全く聞き入れてもらえませんでした。
(教訓・対策)
上記裁判例は、税理士は個別対応方式と一括比例配分方式の双方が選択できる場合には、税理士は必ず説明をしなければならない、とまでは言っていません。
しかし、X社が近いうちに土地の譲渡(非課税取引)を行うことを予測し得たことなどの、従前のX社と税理士Yの関係性等を考慮して、委任契約上の義務に反したと認定しています。
そのため、結局は事例判断ということになりますが、一括比例方式の2年縛りは消費税法30条5項の知識がなければわからない専門事項になります。
つまり、
などといった説明を怠った場合には、裁判所から、善管注意義務違反があるとして、責任が認められる蓋然性はかなり高いと考えられます。
なお、ちゃんと説明を行ったか否かは、証拠として残しておくために、メール等の形に残しておき、しっかりと証拠化しておきましょう。
また、裁判所は、「自らの事務を軽減するために簡便な方式を選択する場合には、その旨を委任者である原告に説明すべき」としています。
要するに、一括比例配分方式は2年縛りもあるし多額の非課税取引をした場合には税額が個別対応方式よりかなり高くなるけど、楽したいから一括比例配分方式を使っていいですか?と説明しなさい、と言っているわけです。
もっとも、そのような説明が依頼者に受け入れられるわけがないですよね。
結局、本件の裁判所は、事務処理を理由に控除方式を税理士主導で決めることはできないと考えているといえるでしょう。
2.2一括比例配分方式の2年縛りにより翌年度に多額の納税をせざるを得なくなった税額が善管注意義務違反と因果関係ある損害とされた点
裁判所は、
- 税理士Yが平成12年度申告の際にX社に説明、問い合わせをしていれば、X社が本件不動産を売却していたことが伝えられ、消費税額を少なくするために個別対応方式が選択されたことは明白である。
と認定し、税理士Yが平成12年度の確定申告の際に税額控除方式にについて説明しなかったせいで、X社が平成13年度に個別対応方式を利用できなかったとして、善管注意義務違反と個別対応方式をとっていれば納税せずに済んだ額(1367万4100円)との因果関係を認めました。
(教訓・対策)
裁判所の理屈は、要するに「聞けばわかるでしょ!」というもので、税理士にとっては厳しい判断となっています。
裁判所は、税務の専門家ではない依頼者本人が、どの控除方式を利用するか意思決定ができるだけの情報を与える必要があると考えていることが読み取れますので、特に依頼者から質問がなくとも、個別対応方式と一括比例配分方式の双方が選択できることや、その選択によって当年度に納付すべき税額が変わることの説明は、怠らないようにしましょう。
3 まとめ
ここまでで、消費税の控除税額の方法についてアドバイスしなかった事例についてお話しさせていただきましたが、税額控除の方式については、特定の方式が選択できるのかできないのか、その選択によって税額控除がどう変わるのかを、依頼者が理解している状態にしておくことが必要です。
もしも、この記事をお読みいただいている方の中に、今まさにこの点で悩んでいる!という方がいらっしゃいましたら、税倍に関する他の記事(リンク)もご参照ください。
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