税理士が損害賠償請求を受けた場合の対応方法

今回は、税理士の先生が損害賠償請求をお受けた場合の対応方法について解説します。
筆者自身、税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応は、非常に多く対応してきましたので、その辺りも知見も含めて解説していきます。
なお、当サイトでは、税理士賠償責任の法的な要件なども詳細に解説してますので、こちらもご参考になさっていただければと思います。

1 事実関係の整理及び確認

まず、依頼者から損害賠償を受けた場合には、事実を確認し、整理することが必要です。
依頼者から税理士の先生のミスという指摘を受けている箇所や自らミスがあったのではないかと懸念している事項について、依頼者とのやりとりや申告した時期等、年月日と事実を記載して、時系列表を作成しましょう。

また、依頼者との契約内容がどのようになっているかという点も重要なポイントになりますので、契約書なども確認しましょう。

2 税務、税理士賠償責任、税賠保険に詳しい弁護士等に相談

「2」以降は状況に応じて、並行して行っていくことになるかと思いますが、私の経験上は「1」で事実関係をできる限り整理したら、税賠保険等との関係も含めて(「3」、「4」参照)、可能であればこの時点で税務・税理士賠償責任(税賠保険を含む)に詳しい弁護士等に相談することをお勧めします。

税理士の先生といえども、自らが損害賠償の請求などを受けると、冷静な判断ができるかという問題もありますし、本当にミスがあるのか、仮にミスがあったとしても、税理士が損害賠償責任を負う事例なのかの判断を第三者の視点から検証することが重要だからです。
(そのような弁護士がいないという場合、ミスがあったかという視点では、信頼できる他の税理士の先生の意見を聞くことも有益です。)

経験上は、安易に依頼者側の弁護士とやりとりすることで、後に会話内容を録音された等で、税理士の先生に不利になりうる状況(特に事実認定や評価が問題となる事例)になってしまった事案も知っていますし、「4」の税理士賠償保険における保険会社との交渉の関係でも、一度見通しを整理した上で対応した方がより良い解決に向かうケースが多いからです。

また、税理士の先生を訴える側(依頼者側)の弁護士の方の中には、税務や税理士賠償責任について詳しくない方も多いため、通知内容から税理士の先生が過度に不安になってしまっているケースや「3」の更正の請求などにより損害が回復できるケースなども含まれるため、どのように伝えれば良いのか(または反応しない方が良いのか)などの検討した方がベターだからです。

「1」の事実の整理し、共有の上で、税務、税理士賠償責任、税賠保険に詳しい弁護士に相談すれば、個別事案に応じて、複合的な視点からの今後の税理士の先生が取るべき行動ついて、アドバイスを受けることが可能でしょう。

3 損害の回復措置の検討

次に、依頼者に実際に「損害」が生じている場合、現時点で損害の回復措置がとれないかを検討します(なお、税賠保険の関係でも、損害の回復措置がある場合には、措置を講じることを求められます。)。

代表的な例を挙げると以下などがあります。

3.1(実質的な)過大申告等の場合

  1. ○更正の請求
  2. ○消費税の課税期間の特例、事業年度の変更など

なお、税賠保険の関係でも、一部でも損害の回復措置がある場合には措置を講じることを求められます。

3.2(実質的な)過少申告等の場合

  1. 加算税が損害となる場合の税務調査(事前通知)前の修正申告

3.3 依頼者との関係で自ら措置ができない場合

ただし、実際に依頼者との契約関係や一定の信頼関係が継続しているということであれば、税理士の先生自身がこのような措置を講じることは可能ですが、依頼者側に弁護士がついている場合など、税理士の先生自身が依頼を受けて損害回復措置を行うことが困難であるケースも多いです。

この場合でも、その時点で税理士の先生から、損害の回復措置が可能であることを説明した文書を内容証明郵便など証拠が残る形で通知することが重要です。

特に上記を見ても分かるように、税額等に関連する損害の回復措置は、時間の経過に応じてできなくなったり、措置が遅れることで損害が拡大することが多いです。

したがって、税理士の先生としては、損害の回復措置を講じることができるという説明責任を果たし、それでも依頼者側が対応しなかったため、損害が拡大したといえる状況を作っておく必要があります(また、これは依頼者側も損害が回復できるわけですからメリットがあります。)。

つまり、損害が拡大した部分(回復できなくなった部分含む)については、税理士の先生が説明したにもかかわらず、依頼者が応じなかったから生じた損害であり、税理士の先生の責任ではないという状況にするということが重要となります。

3.4 その他、回復措置の注意点

また、損害の回復措置については、私の経験上、税法上は本来、認められないような方法を取ってしまっていた税理士の先生も過去にいらっしゃいました(措置を講じた時点では税務署に指摘を受けていないが後に発覚。)
このような対応により、当初のミスは税理士賠償保険金の支給により解決できたにもかかわらず、税務署に発覚後に税理士賠償責任保険金の支払いが認められない原因となってしまうことがありますので、注意が必要です。

4 税賠保険会社への連絡

税理士が損害賠償請求を受けた場合には、税理士の先生の多くが加入している税賠保険会社に連絡するでしょう(保険約款上も遅滞なく通知することが必要とされています。)。

ただし、私の経験上、税理士の先生から連絡した際に、税賠保険会社の担当者から、このような事案では税賠保険の対象とならないといわれた事案であっても、その後、交渉の上、税理士賠償保険金の支給がされた経験も複数あります。

法的には保険約款内容により、保険金が支給されるかが決まるわけですが、その判断には、事実認定と評価の問題が含まれますし、民事上の「損害」を何と捉えるのか(税賠の損害の問題は必ずしも税額だけではありません。)などにより、保険適用の判断が異なってくることがあります(もちろん、明らかに対象とならない事案もあります。)。

制度として、適切なのかどうかの議論は別として、事実認定や評価の問題や民事上の判断が伴う以上、説明の仕方や提出資料など(提出の順番や何を説明して何を説明しないかを含む)により、やはり判断にブレが生じてしまうのはやむを得ない部分があるわけです。

私としては、このような側面もあるため、初動のタイミングで「2」の弁護士への相談を早めに行っていただきたいと考えています。

5 まとめ

以上が、税理士の先生が損害賠償請求を受けた場合の一旦の対応となります。
弁護士の感想としては、税理士賠償責任への対応は、税法の理解や税理士賠償責任の裁判例などの分析に加え税賠保険の実務との兼ね合いなど、複合的な視点から専門性が要求される分野だと思います。

もちろん、ご自身で対応される場合や上記の方法以外で対応するよという税理士の先生もいらっしゃるとは思いますし、それで結果として問題なかったということもあるでしょう。

ただ、私の経験上は、せめて今後の行動方針などの整理のためだけでも良いので、専門的な弁護士にご相談いただけると良いと考えています。

税理士法律相談会」の会員の税理士の先生方におかれましては、無料での面談(ウェブ面談含む)も可能ですので、少しでも気になることがあればぜひご活用ください。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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