離婚による財産分与と贈与税・譲渡所得税・不動産取得税等

今回は、離婚により夫婦の片方が、もう一方に財産分与をした場合における課税関係について解説します。

1 財産分与請求権

民法では、夫婦が離婚する場合、一方は他方に対して財産の分与の請求ができるものとされています(民法768条)。
一般的に、財産分与請求権には、①夫婦が共同生活の中で協力して形成した財産の清算、②離婚後の一方配偶者の生活保障および③離婚の原因を作ったことへの損害賠償(慰謝料)の性質があると解されています。そのうち、①の「潜在的な共有」となっている夫婦の財産の清算がメインとなります。

2 財産分与と分与を受けた者の贈与税

財産分与請求権は、あくまでも夫婦の潜在的な共有と
なっている財産の清算等のために、離婚を条件として一方配偶者に分与義務を生じさせ、その義務の履行として財産を他方配偶者に移転させるものです。

したがって、原則として、分与を受けた者 には、「対価を支払わないで~利益を得た」(相続税法9条)とは評価できないため、贈与税は課税されません。ただし、実質的に財産分与を仮装した不相当に高額な財産の移転などがなされた場合には、例外的に贈与税の課税対象となりえます。この点、「相続税法基本通達9ー8」は以下のように定めています。

(婚姻の取消し又は離婚により財産の取得があった場合)
相基通9-8 婚姻の取消し又は離婚による財産の分与によって取得した財産(民法第768条((財産分与))、第771条((協議上の離婚の規定の準用))及び第749条((離婚の規定の準用))参照)については、贈与により取得した財産とはならないのであるから留意する。ただし、その分与に係る財産の額が婚姻中の夫婦の協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮してもなお過当であると認められる場合における当該過当である部分又は離婚を手段として贈与税若しくは相続税のほ脱を図ると認められる場合における当該離婚により取得した財産の価額は、贈与によって取得した財産となるのであるから留意する。(昭57直資2-177、平17課資2-4改正)

3 財産分与と分与した者の譲渡所得税

一方で、財産を分与した者に対しては、分与した財産が「譲渡所得の基因となる資産」(例:不動産、株式などの会社持分等)である場合には、その資産の分与時の時価により、その資産の譲渡があったものとして、譲渡所得が課税されます(所得税法33条1項)。これは、財産分与は、分与義務を消滅させるものであり、分与により消滅させる義務(対価)は、分与時における分与資産の時価と解されているからです(最判昭和50年5月27日)。
(もちろん、理論上は本当にこのように解することが適切なのかという問題はありますが。)

なお、所定の要件を満たしていれば、居住用財産の特別控除の特例等(租税特別措置法35条)の適用を受けることができますので、その点の考慮も必須でしょう。

4 分与財産が不動産の場合の不動産取得税

また、財産分与により不動産の分与を受けた者に対して、不動産取得税が課税されるのかという問題があります。

不動産取得税の課税要件事実は、地方税法73条の2第1項に定められた「不動産の取得」に該当するかという点にあります。

ただし、相続や共有物の分割による不動産の取得(当該不動産の取得者の分割前の当該共有物に係る持分の割合を超える部分の取得を除く。)等の一定の場合の形式的な所有権の移転等に対しては、非課税措置が講じられています(地方税法73条の7)。

一方で、財産分与については、明文で非課税措置が規定されいるわけではありません。

しかし、上記「1」のとおり、財産分与は、①「潜在的な共有」となっている夫婦の財産の清算という性質も有します。そこで、不動産の財産分与が、この潜在的な共有の清算と解される場合には、実務では課税しないものとして取り扱われています。

    東京地判昭和45年9月22日

  1. 不動産の取得が婚姻中の財産関係を清算する趣旨の財産分与による場合には、それが夫婦いずれに属するか明らかでないため夫婦の共有に属するものと推定される財産(民法762条2項)についてなされたものである限り、形式的に財産権の移転が行われることはあっても、当然の所有権の帰属を確認する趣旨にすぎず、これによって実質的に財産権の移転が生じるものではないと解するのが相当であるから、地方税法73条の2第1項所定の課税原因には該らないというべきである。
    これに対し、不動産の取得が離婚に対する慰籍または将来の扶養を目的とする財産分与による場合には、これによって実質的にその不動産所有権の移転が生じるものと解するのが相当であるから、前記課税原因に該当するといって妨げない。そして、夫婦の一方が婚姻前から所有し、または婚姻中自己の名で取得した財産を財産分与に供したときは、特段の事情がない限り、離婚に対する慰籍または将来の扶養を目的としたものと認めるのが相当である

①「潜在的な共有」となっている夫婦の財産の清算に当たるか否かで、結論が分かれることになります。これについては、厳密には、個別事情の下の事実認定及び評価になりますので、財産分与という名目で行われたからといって必ず非課税となるわけではないことに注意が必要です。

特に、上記裁判例のとおり、例えば、夫婦の一方が婚姻前から所有している不動産や相続により取得した不動産などのいわゆる「特有財産」を、財産分与をした場合には、特段の事情がない限り、②離婚後の一方配偶者の生活保障または③離婚の原因を作ったことへの損害賠償(慰謝料)の性質のものであると解されてしまう点には、注意が必要です。

The following two tabs change content below.
弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

関連記事

運営者

税理士のための無料メールマガジン
ページ上部へ戻る