税理士が依頼者の本税についても責任を負う場合がある?
―本税額の増加についても税理士の責任が認められた事例

本記事のポイント
  • 税理士の善管注意義務の範囲
  • 税理士による根拠資料の紛失等により本税の税額が増加した場合には、税理士が責任を負う
  • 確定申告において税理士のミスがあったこと等により、加算税や延滞税について税理士が責任を負うこととなるのが一般的な税賠訴訟ですが、今回紹介するのは、これらに加えて、本税の増加分についても税理士が責任を負うかという点が争われた事例です。

    なお、弊所では税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。

    1 事案紹介

    本件の事案の概要と経過は、以下のとおりです。

    1.1 事案の概要

    税理士Yが、税務顧問契約に基づき依頼者Xの確定申告業務を行ったものの、後にその確定申告における誤りを税務署から指摘され、依頼者は青色申告承認取消処分を受けるとともに、約1500万円の税額を追加で負担することとなった。

    1.2 経過

    平成12年

  • 依頼者Xと税理士Yは税務顧問契約を締結
  • 平成14年

  • 税理士Yが平成14年7月期の依頼者Xの確定申告書を作成し、申告
  • 平成17年

  • 依頼者Xは、売上を計上していなかったこと、架空の仕入金額を計上していたこと等の理由により、税務署長から平成14年7月期以後、青色申告承認を取り消す旨の処分を受けた。
  • 依頼者Xには、約1500万円の税額の増加が生じた。
  • 2 解説

    本判決の争点として判断された内容は多くありますが、特に参考にすべきポイントは以下の2つになります。

    ①税理士Yに善管注意義務違反があったか
    ②過大仕入の否認により増加した本税分についても税理士Yが責任を負うか

    2.1 税理士Yに善管注意義務違反があったか

    善管注意義務違反があったことについて、税理士Yは争っていたものの、結果的に裁判所が認定した事実によれば、本件は、善管注意義務違反があったことは明らかな事案といえます。

    裁判所が善管注意義務違反とした点の概要は、以下のとおりです。

    1. ① 売上金額の一部を売り上げに計上しなかった
    2. ② 取引事実のない仕入金額を計上していた
    3. ③ 過大な給与を減額するよう指導せずそのまま計上した
    4. ④ 雑収入として計上すべき受領金を収入に計上していなかった

    ①については、依頼者Xから売上伝票の送付を受けていたにもかかわらず、その数字を正確に入力していなかった、②については、領収書のファイルの送付を受けていたもののこれを紛失したことを隠すため、架空の仕入額を入力した、また、③については、税務署から指導がされていたにもかかわらずこれを放置していた、等の事実が認められています。

    (教訓・対策)
    善管注意義務違反が認められることについては明らかな事案ではありますが、注目すべき点として、①についての裁判所の判断内容が挙げられます。

    ①については、税理士Y側からは、売り上げ計上されていない部分については、依頼者Xから資料が提出されていなかったためである旨反論しています。

    しかしながら、裁判所は、税理士Yが依頼者Xの事務所を何度も訪問しており、仮に資料の送付がなかったのであれば依頼者Xに確認すべきであったと判断しています。

    実際に資料が送付されていたかどうかは不明であるものの、依頼者から資料が送られてこなかったというだけでは税理士が責任を負わないということにはならず、税理士としては、必要な資料の有無も確認したうえで、必要な資料が提出されていなければ依頼者に提出を求める、というところまでの対応が必要となるでしょう。

    2.2 過大仕入の否認により増加した本税分についても税理士Yが責任を負うか

    裁判所は、

      税理士Yが適正に確定申告手続を行っていれば、依頼者Xが青色申告承認取消処分を受けることはなく、修正申告により重加算税、延滞税を課税されたり、増加された本税を納付したりする必要もなかった

    と判断し、これらの税額の増加分を税理士Yの善管注意義務違反による損害として認めました。

    また、依頼者Xが負担することとなった弁護士費用についても、税額の増加分の1割程度に当たる金額を損害として認めています。

    (教訓・対策)

    本件では、本税の増加分についても税理士が責任を負うべきものとされています。

    税理士の善管注意義務違反があった場合であっても、善管注意義務違反の有無に関係なく本来負担すべきであった本税分については、税理士は責任を負わないものと考えられます。

    しかし、本件では、税理士Yが根拠資料である領収書のファイルを紛失したことにより、本来の仕入額を計上できなくなったことが考慮されているものと考えられます。

    税理士の資料紛失等が原因で本税分が増加することとなった場合には、その増加分についても税理士が責任を負う可能性もあるということも念頭に置いて、適切に資料の管理・保存を行う必要があるでしょう。

    3 まとめ

    本件において認められた善管注意義務違反については、単純な数字の入力漏れや資料の紛失など、税理士の側が責任を負うとの結論もやむを得ないものと考えられますが、本税の増加分についても税理士が負担することとなるケースは多くなく、本件は税理士が本税分についても責任を負うものと判断された事例として、参考になります。

    税理士の先生としては、本税分についても責任を負担する場合があるということは、覚えておいた方がよいでしょう。

    税理士が負う善管注意義務については、下記にも詳細に説明していますので、そちらもご参照ください。

    関連記事

    運営者

    税理士のための無料メールマガジン
    ページ上部へ戻る