ホントに信じて大丈夫?
―依頼者の説明に不適切な点があるにもかかわらず、これを看過した事例

本記事のポイント
  • 税理士は、依頼者の説明の誤りに気付き、また、容易に気付くことができる場合は、これを是正した上で、税務代理業務等を行う義務を負う
  • 上記義務違反による責任は、基本的に免責条項によって免れることはできない
  • 依頼者は税務の素人ですから、誤解により誤った説明をしたり、税務上重要な情報であるにもかかわらず重要であると思わずに、説明に抜け漏れが生じたりするということは起こり得ます。

    しかし、依頼者の説明の誤りや抜け漏れにすべて気付くことは現実問題不可能です。

    そのような場合に、税理士としては、依頼者の説明を信頼して、税務代理業務等を行えば、結果的に依頼者の説明に誤りがあって、依頼者が損害を被ったとしても、税理士は責任を問われないのでしょうか。

    それとも、税理士は、依頼者の説明内容を細心の注意を払って検証し、誤りがある場合は、誤りを正す必要があるのでしょうか。

    この点、依頼者の説明に不適切な点があるにもかかわらず、これを看過して税務代理業務等を行い、依頼者に損害を被らせた場合の税理士の義務や責任について判示した裁判例として、東京地判平成24年12月27日が参考になるので、本稿では本裁判例を解説します。

    なお、弊所では税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。

    1 事案紹介

    本件の事案の概要と経過は、以下のとおりです。

    1.1 事案の概要

    依頼者Xが税理士Yに対し、税務書類の作成等を委任した。

    ところが、Yが必要な調査を怠り、消費税課税事業者選択届出書を提出すべき時期に提出しなかったために、Xは消費税、過少申告加算税及び延滞税を納めざるを得なくなった。

    そこで、XはYに対し不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求を行った。

    1.2 経過

    平成20年5月頃

  • Xは土地を購入して賃貸用共同住宅を建築した。
  • Xはそこに自動販売機を設置することにより当該住宅の工事代金に係る消費税の還付を受けること(以下「本件方法」という。)を考えた。
  • 平成20年9月頃

  • Xは、本件方法による消費税の還付を受けるための税務書類の作成及び税務代理業務等をYに委任するため、Yの事務所を訪れた。
  • その際、YはXに対し給与以外の収入があるか尋ね、これに対し、Xは給与及び株式譲渡による収入以外に収入はないと回答した。
  • また、XはYに対しA社を実質的に支配している旨説明した。
  • 平成20年10月

  • Xは、平成20年10月1日、Yに対し、Xの消費税の税務書類の作成及び税務代理業務等を委任した。
  • A社は、同月17日、Yに対し、法人税等の税務書類の作成及び税務代理業務等を委任した。
  • 平成21年2月16日

  • YはXを代理して、飲料水の販売事業をXが平成21年1月1日に開始したとして、消費税課税事業者選択届出書及び消費税課税期間特例選択届出書を税務署に提出した。
  • 平成21年5月29日

  • Yは、Xを代理して、平成21年1月1日から同年3月3日(以下「本件課税期間」という。)に係るXの消費税の確定申告を提出した。
  • その後、当該確定申告により、本件課税期間中にXが支払った消費税のうち639万4847円の還付を受けた。
  • 平成22年6月30日

  • 税務署長は、A社からXに対して支払われた賃料をXの課税売上げと認定し、Xについて、平成20年1月1日から同年12月31日までの課税期間において、すでに課税売上げがあったと判断し、課税事業者選択届出書を提出した課税期間の翌課税期間である平成21年4月1日から同年6月30日までの課税期間から課税事業者となり、したがって、売上税額と仕入税額の差額のうち、本件課税期間に係る分については、消費税の還付を受けることができないとして、Xに対し、還付すべき税額は0円であるとする更正処分及び過少申告加算税93万3500円の賦課決定をした。
  • 平成22年7月~9月

  • Xは、平成22年7月6日に消費税639万4700円及び過少申告加算税93万3500円を、同年9月12日に延滞税28万6700円をそれぞれ納めた。
  • 2 解説:依頼者説明信頼の可否

    本判決の争点として判断された内容は多くありますが、特に参考にすべきポイントは以下の2つになります。

    ①税理士は、依頼者の説明内容を信頼して、税務代理業務等を行った場合、結果として依頼者の説明に不適切な点があったとしても、責任を問われないか。
    ②依頼者の説明の誤りに基づく不利益は依頼者が負担する旨の免責条項の適用可能性。

    税理士は依頼者に対して準委任契約に基づく善管注意義務を負うところ、裁判所は、その義務内容に関して、

      「税務代理を行うに際しては、税務に関する専門的知識が必要となり、しかも、適切な申告がなされないときは、過少申告加算税や延滞税が賦課されるなどの不利益が課されるおそれがあるから、税理士は、委任者の説明に基づき、その指示に従って申告書等を作成する場合にも、委任者の説明及び指示のみに基づいて事務処理を行えば足りるというものではなく、税務の専門家としての観点から、委任者の説明内容を確認し、それらに不適切な点があって、これに依拠すると適切な税務申告がされないおそれがあるときには、不適切な点を指摘するなどして、これを是正した上で、税務代理業務等を行う義務を負う」(傍線は筆者)

    と判示しました。

    なお、本判決は、上記義務は、報酬額の多寡によって程度が変化することはないし、また、委任契約で依頼者の説明の誤りに基づく不利益は依頼者が負担する旨の免責条項を設けていたとしても、免責することができないとも判示しています。

    (教訓・対策)

    依頼者は、通常、税務の素人であって、適切に必要な説明を行えるとは限りません。

    そのため、税理士は、税務の専門家としての立場から、依頼者から必要な情報を聞き出し、また、必要に応じて客観的な資料等の提出を求めることにより、依頼者の説明内容に不適切な点がないかを検証することが必要です。

    その上で、不適切な点がある場合には、これを是正した上で、税務代理業務等を行う必要があります。

    依頼者が税理士を積極的に騙そうとしているような場合は別論ですが、単に依頼者の誤解や失念等により、不適切な説明が行われているにすぎない場合に、税理士がこれに気付いていたり、他の客観的な資料等との照らし合わせにより容易に気付くことができるにもかかわらず、看過してしまったりした場合には、善管注意義務違反となります。

    どのような場合に依頼者の説明内容の不適切さに容易に気付くことができたかといえるかは、個々の事例ごとに、通常の税理士であれば、容易に気付けたかという観点から判断されるものと思われ、明確な基準を示すことは困難です。

    ただし、本件においては、

  • Xが、Yに対し、A社を実質的に経営していることを告げていた。
  • Yが、A社の本店所在地とXの自宅所在地が同じであることを認識していた。
  • Yが、A社の税務代理業務等の過程の中で、A社のXに対する賃料の支払が記載された経理データを受領していた。
  • といった事情があったため、Xに賃料収入があるのではないかと疑問を差し挟む余地があり、「Xの給与及び株式譲渡による収入以外に収入はない」との説明が不適切であると容易に気付くことができたと判断されており、1つの比較基準が示されたという意味で参考になります。

    3 まとめ

    以上、東京地判平成24年12月27日について解説しました。

    依頼者から税務代理業務等を行う上で通常必要な情報を聞き出したり、資料の提供を求めたりし、まずは依頼者の説明をフラットにみて、依頼者の説明に不自然な点がないかをチェックしましょう。

    その上で、不自然な点がある場合は、適宜、更に詳細をヒアリングしたり、追加で客観的な資料等の提供を求め、それと説明内容に矛盾がないかを確認したりするようにしましょう。

    本稿に関連して、税理士が負う「調査・確認義務」については、下記にも詳細に説明していますので、そちらもご参照ください。

    また、税理士が負う善管注意義務については、下記にも詳細に説明していますので、そちらもご参照ください。

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