距離感注意!
-クライアントと不動産取引上密接な関係を有する税理士が当該不動産の重要事項について告知義務を負うと判断された事例
税理士は、立場や業務の性質上、クライアントどうしの需要と供給をマッチングさせやすい立場にあります。
そのため、税務サービスの提供に付随して、クライアントに他のクライアントを紹介することもあるかもしれません。
紹介にあたっては、税理士が当該紹介に利害関係を有する場合には注意が必要です。
本稿では、税理士が、クライアントと不動産取引上密接な関係を有する場合には、当該不動産の重要事項について告知義務を負うと判断された事例として、東京地判平成10年5月13日を解説します。
なお、弊所では税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。
1 事案紹介
本件の事案の概要と経過は、以下のとおりです。
1.1 事案の概要
Xは、Y1銀行から融資を受け、昭和63年5月30日、Y4から土地・建物を購入した。
そして、Xは、同年9月頃に当該土地の幹線道路側の一部を税理士Y3に売却した。
ところが、上記建物は雨漏りのひどい欠陥建物であり、補修不能であることが判明した。
そこで、Xは、このような欠陥建物であることを知りながら、それを告知せずに売却させることについて(後記Y9を除く)Yらが共謀したとして、Yらに対し、約2億1247万円及び遅延損害金の損害賠償を求めた。
裁判所は、約2億1247万円の限度で一部認容の判決を出した。
1.2 関係者
本件の関係者は、後記第1売買契約締結時である昭和63年5月30日現在において次のとおりです。
【Y側の関係者】
1.3 経過
昭和62年末~昭和63年1月頃
【第1売買契約】昭和63年5月30日
【第2売買契約】昭和63年9月頃
【訴訟の経緯】
2 解説:税理士の不動産取引上の告知義務
本判決の争点として判断された内容は多くありますが、特に参考にすべきポイントは以下のとおりです。
Xは、上記請求に関し、税理士X3との関係では、次のような主張を行いました。
② Y3は、Xの顧問税理士として、Xの相続税対策について委任を受けていたから、前記のような瑕疵のあるN建物を購入しても相続税対策にならない以上、N建物の雨漏りの状況を買主であるXに告知すべき義務がある。
③ Y3は、第1売買契約締結に関してXとY4を結び付けた実質的な仲介者として、N建物の雨漏りの状況を買主であるXに告知すべき義務がある。
④ X3は、第1売買契約と実質的に一体である第2売買契約の買主として、信義則上、N建物の雨漏りの状況を第1売買契約の買主であるXに告知すべき義務がある。
これに対し、裁判所は、以下のとおり、判示しました。
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「Y3は、実質的な共同購入者としての地位、買主であるXに売買を勧めて契約交渉を主導した仲介者的地位及びXから売買の動機となった相続税問題についての相談を受けていたという地位に鑑み、Xに対して、第1売買契約の締結に先立ち、自己の入手した前記のような重要な情報を告知すべき義務があるというべきである。
しかるに、Y3は、第1売買契約締結の席上でのY6による極めて不十分な、むしろXをしてN建物の雨漏りの状況について誤った認識を形成させるような説明を聞いていたにもかかわらず、これを正そうともしなかった
重要事項の説明は第1次的には当事者双方の仲介を担当するY6の役割であるとしても、Y6による説明が不正確であり、むしろ事実に反する認識をXに与えかねないものであった以上、Y3が積極的にこれを正す説明をしなかったことは告知義務違反に当たるといわねばならない。」
(教訓・対策)
言うまでもないかと思いますが、一般には、税理士は、不動産取引にあたり、買主に対し職責上特段告知義務を負っていません。
しかし、本裁判例では、取引上買主と一定以上の密接な関係を有している場合には、税理士といえども、買主に対し取引上重要な事項について告知義務を負うことがあると判示されました。
本判決は、税理士の告知義務違反を導く事情として以下の事情を挙げています。
単に税理士のアドバイスがきっかけとなって、クライアントが不動産を購入したのみでは税理士は特段当該不動産の取引上重要な事項について告知義務を負いませんが、それを超えて、クライアントを当該取引に誘導したり、当該取引に税理士の利害が生ずる関係にあったりなど、諸般の事情を考慮して、クライアントとの間に密接な関係が認められる場合には告知義務が生ずるおそれがあるため、注意が必要です。
3 まとめ
本件の事案自体はそこまで汎用性のある事案ではありません。
しかし、税理士は、立場や業務の性質上、クライアントどうしの需要と供給をマッチングさせやすい立場にあり、税務サービスの提供に付随して、クライアントに他のクライアントを紹介することもあるかもしれません。
紹介にあたり、税理士が何らかの経済的利益を受けるなど、紹介の目的となる取引に強い利害関係を有することとなる場合には、業法規制(例えば、宅建業法12条等)の有無に留意するとともに、本判決のように一定の取引上の義務を負う可能性があることにも留意すべきです。
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