職員のミスがあった場合の税理士の責任(帰責性の有無)

さて、今回も税理士損害賠償責任に関する記事になります。前回までは、損害賠償の根拠となる債務不履行責任の要件のうち、契約義務の違反の類型等についてその判断材料等含めて見てきました。今回は、2つ目の要件である税理士の「帰責事由」の要件について見ていきましょう。下記は、債務不履行の要件の復習です。

①契約義務の違反
・・・依頼者と税理士の間に契約関係があり、その契約に基づく義務を税理士が怠ったこと
②税理士の帰責性
・・・税理士に故意・過失またはこれと同視しうる事由があること
③損害の発生
・・・依頼者が実際に損害を被っていること
④因果関係
・・・①の義務違反によって、③の損害が発生していることが相当といえる関係があること

今回は、②帰責事由の話です。

 
なお、税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた私の経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。

1 帰責性の従来からの議論と実務

 

1.1 帰責性とは

従来からの債務不履行の要件として、帰責事由の存在が必要であると言われております。
ここでいう

「帰責事由」とは、税理士に故意・過失またはこれと同視しうる事由

と言われています。
そして、税賠についての解説本等では、この帰責事由について、債務不履行責任の場合、税理士が自分には「帰責事由がないこと」を立証しなければ、責任が認められるとされる一方で、不法行為の場合、依頼者が税理士に「帰責事由があったこと」を立証しなければ、税理士の責任は認められないとして、債務不履行の方が依頼者に有利であるという整理をされてきました。概念としての理論としては正しいのですが、税賠実務上ではこのあたり区別の意味は乏しいかなという感じです。

1.2 実務的な意味

上記の「帰責事由」の要件を見ると「故意・過失」となっていますよね。専門家である税理士が、わざと依頼者に損をさせるということはないかと思いますので、税賠では「過失」の有無が問題になるかと思います。そして、この「過失」は、本来行うべきだった注意を怠ったというような意味合いで使われています。
前回までの契約義務違反の記事をお読みいただいた先生であれば、「?」と思われたと思うのですが、税理士賠償責任の場合、契約義務違反の内容が善管「注意義務」違反ということになりますので、結局同じような話なのでは!?と。
実際にその通りで、税賠実務では、この帰責事由の「過失」の判断は、契約義務違反の有無の判断に内含されている(契約義務違反があれば認められる)と思っていただいて良いでしょう。
もちろん、「手段債務と結果債務の違いが〜」等々、細かい議論はありますが、税賠実務上はこのように考えていただいて問題ありません。

 

2 職員等のミスがある場合

税賠実務上は、あまり意味のない「帰責性」の議論ですが、私の方で、あえて2つ目の要件に残させていただいた意味は、会計事務所・税理士事務所の職員さんがミスをした場合に税理士さんが責任を負うのかという場面について、この要件の中で説明・整理されることが多いからです。すごく古い議論なのですが、自分が雇っている人がミスをした場合、自分がミスをしたわけではないから、「帰責性」がないので、自分は責任を負わないという主張が裁判でされることがありました。法律家の中では、「履行補助者の故意・過失」と呼ばれています。

結論から言うと、職員さんにミス(過失)があった場合、それは雇用している税理士先生にミス(過失)があったと同視されます。

つまり、職員さんのミスは、上記の「帰責事由」の定義でいうところの「これと同視しうる事由」として、税理士の先生にも「帰責事由」があったということにされてしまうのです。これは、報償責任の理論といって、「雇用している人を利用することによって、自分は利益を得ているのであるから、リスクも負担してくださいね」ということが理由となります。
ですので、職員さんにミスがあっても、税理士の先生は責任を負うということになります。

なお、不法行為責任においても、この「報償責任」の表れとして、使用者責任(民法民法715条)というものがあります。ここでは詳細には触れませんが、債務不利用と同じような話があるということをご理解いただければ良いと思います。

 

3 まとめ

以上が、税理士損害賠償責任における債務不履行の2つ目の要件である②税理士の帰責性についてでした。実務上は、上記の職員さんのミスがあった場合にも、税理士の先生が責任を負うということを押させていただければ良いかと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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