会計法人も履行補助者!?
ー収用等に伴う代替資産の買替取得期間に関して、税理士の履行補助者の説明義務違反を認めた事例

本記事のポイント
  • 税理士が運営する会計法人の従業員は、当該税理士事務所の履行補助者と判断される可能性があるため、職員の業務管理が重要である
  • 税理士業務において職員がミスをした場合、履行補助者のミスとして税理士に責任があるとされることはご存知かと思いますが、会計法人や会計法人の職員が税理士事務所の履行補助者であると判断された事例(大阪高等裁判所平成15年6月6日判決)があることはご存知でしょうか。

    今回は、事例を通じて履行補助者の範囲とその説明義務について解説していきます。

    なお、弊所では税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。

    1 事案紹介

    本件の事案の概要と経過は、以下のとおりです。

    1.1 事案の概要

    〈前提知識〉

  • X社は、不動産の賃貸等を目的とする会社である(なお、決算期は毎年9月末、申告期限は11月末)。
  • Y1はY1税理士事務所を経営し、X社との間で顧問契約を締結して、決算書類の作成と税務申告をしてきた。Y1税理士事務所には事務員はいない。
  • Y2社はY1を代表取締役として、記帳代行業務・経営コンサルタント業務等を行っていた会社で、X社と顧問契約を締結していた。Y2社はY1税理士事務所と所在地を同じくしていた。
  • Y3はY2の取締役で、X社の担当者をしていた。また、Y1税理士事務所の事務も担当していた。
  • 〈事案の概要〉
    Y3がX社に対し、租税特別措置法64条の2(平成13年法律7号による改正前のもの。収用等に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例(以下「本件特例」という。))の制度や同制度が適用される期間について誤った説明をした結果、X社が代替資産として取得した不動産の一部について本件特例の適用を受けることができず、更正処分を受けた。

    X社は、Yらに対して、同更正処分によって納付することになった過少申告加算税・本税・延滞税、弁護士費用等の約4億円の賠償を求めた。

    1.2 経過

    平成5年6月25日

  • X社の所有するA町所在の土地建物を、F住宅供給公社に対し、土地代9億5001万2000円・建物の移転立退補償金9985万1000円の約定で売却した。
  • 同売買契約では、11月30日までに同土地建物を立ち退くこととされていた。
  • この売却は、F受託供給公社が施行する特定市街地住宅整備事業に伴って行われたものであった。
  • 平成5年7月27日

  • X社は、K社から、収用されたA町の土地建物の代替資産として、B町所在の土地建物を1億2500万円で購入した。
  • なお、X社は同土地建物を取り壊して新たな建物を建築予定であったが、同建物の賃借人が立ち退きに応じず訴訟となり、同土地建物の引渡しを受けたのは平成8年2月末であった。
  • 平成6年10月7日

  • X社は、K社から、収用されたA町の土地建物の代替資産として、C町所在の土地建物を4000万円で購入した。
  • 平成7年11月29日

  • X社が本件特例の適用を受けるためには、やむを得ない事由がない限り、同日までに代替資産を取得する必要があった。
  • やむを得ない事由がある場合にも、平成8年11月29日までに代替資産を取得する必要があった。
  • 同時期にX社からY3が本件特例の制度及び適用される期間について質問された際、Y3は上記のような説明をしなかった。
  • 平成8年4月9日

  • X社は、購入したC町所在の建物を取り壊し、同土地上にビルを建築することとし、請負代金を3億3475万円、引渡しを建物完成時として請負契約を締結した。
  • 同ビルは平成9年9月2日に完成し、引渡しを受けた。
  • 平成8年11月13日

  • X社は、購入したC町所在の建物を取り壊し、同土地上にビルを建築することとし、請負代金を3億2960万円、引渡しを建物完成時として請負契約を締結した。
  • 同ビルは平成9年3月21日に完成し、引渡しを受けた。
  • 平成9年9月2日

  • X社は、Lから、収用されたA町の土地建物の代替資産として、土地を200万円で購入した。
  • 平成10年9月30日~12月28日

  • X社は本件特例に基づき、圧縮記帳を行って税務申告をしていたところ、本件特例の適用を受ける期間を過ぎて代替資産を取得しているとして、更正処分を受けた。
  • 2 解説

    本判決の争点は多くありますが、特に参考にすべきポイントは以下の3つになります。

    ①本件特例の適用を受けるための期間について、本件特例の適用を受けようとしていたことを知っていた会計法人の担当者(Y3)には同制度を説明する義務がある。
    ②税務申告を行う税理士(Y1)が経営している会計法人(Y2社)及びその従業員(Y3)は、当該税理士の履行補助者となる。

    2.1 税理士、会計法人、担当者の説明義務

    Yらは、訴訟において、Yらのいずれにも本件特例の説明を行う義務がないとして義務違反の有無について争っていました。この点について、地方裁判所と高等裁判所のいずれもYらに義務違反があるとしています。

    原審判決(大阪地方裁判所平成14年7月26日判決)は、Y1らの義務について以下のように判示しています。

    1. ・Y1は、税務に関する専門家としてX社の法人税等について適正な納税義務の実現を図るよう申告書を作成したり、これに付随する財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行等の事務を行う義務があるのみならず、X社に対し、その求めに応じて、その法人税の申告に関係する租税法規の要件等について正確に説明すべき義務がある。
    2. ・Y2社は、法人税の申告にも使用する会計帳簿類の記帳代行業務、税務指導等を行っていたのであるから、原告に対し、その求めに応じて、同様に正確な説明をする義務がある。
    3. ・Y3は、Y2社のX社担当として、記帳代行業務の遂行にあたり個別具体的なやりとり、説明等をしていたのであるから、積極的に誤った説明をしてはならないことは格別、X社から税務関係について質問等を受けた場合、自ら調査又はY1に聞くなどして、X社に対し、正確な説明をすべき義務があったといえる。

    原審判決は、Yらに上記義務があるとしたうえで、Y3がX社に対して、平成7年11月当時、本件特例の制度及び適用される期間について誤った説明をした説明義務違反があると認定しました。
    また、Y1及びY2社はY3を履行補助者として業務を行っていたものであるため、同様の債務不履行責任があるとしました。

    さらに、高裁判決は、上記原審判決を支持しつつ、Y3において、

  • X社が本件特例を利用する意図があることは分かっていたこと
  • 本件特例が定める圧縮記帳の処理可能期間は本件特例を利用するうえで極めて基本的かつ重大な事項であること
  • といった事情を考慮し、

      平成5年9月期、平成6年9月期の決算処理の時期においても本件特例の制度及び適用を受ける期間について正しい説明をすべき義務を有していたと判断し、各時期に本件特例について正しい説明をしていないY3に説明義務違反があり、Y3を履行補助者とするY1及びY2社にも同様の責任がある

    としました。

    (教訓・対策)

    上記判決では、X社が本件特例を利用することをYらが知っていたと認められる事情のもとにおいて、税理士であるY1のみならず、会計法人Y2社及びその担当者Y3にも本件特例の制度について正確に説明する義務があるとしています。

    つまり、税務申告を行うわけではない会計法人やその担当者にも、本件特例のような税制度を正確に説明すべき義務があるとしています。

    これはY1とY2社・Y3の関係も考慮した事例判断ではありますが、会計法人だから税制度の説明義務はないと安易に考えない方が良いと言えます。

    2.2 履行補助者の範囲

    裁判所は、

      Y2社は、Y1の節税の一環としての計算センター的なものであり、Y1には事務員はおらず、従業員はすべてY2社の従業員となり記帳代行当の業務をY1から受託しているという事情からすれば、Y1は、X社と締結した顧問契約において、Y2及びY3を履行補助者として使用していたとみるのが相当であるから、Y2社ないしY3がした説明義務違反行為により、Y1もまたX社に対し、債務不履行責任を負うべきである

    と判断しています。

    (教訓・対策)

    上記判決では、会計法人であるY2社は節税の一環としての計算センター的なものであるという認定のもと、Y2社はY1の履行補助者であるという認定をしています。

    税理士事務所が会計法人を設立して業務を分けるという形態は珍しいものではありませんが、税理士事務所と会計法人というかたちで法主体を分けたとしても、両者の関係性によっては会計法人が税理士事務所の履行補助者と認定されてしまう可能性があることには、注意が必要です。

    そのため、会計法人も経営している税理士の先生は、税務に関する事柄は税理士の先生に確認するような体制とするほか、従業員にも租税法規に関する正確な知識を理解してもらうように研修等をしていく必要があります。

    3 まとめ

    今回は、収用等に伴う代替資産の買替取得期間に関して、税理士の履行補助者の説明義務違反を認めた事例についてご紹介しました。

    本事案において、X社はYらの義務違反によって、将来の税負担を含めて4億を超える損害が発生したとして訴訟を提起し、結果として約2億5000万円の賠償義務が認められています。

    このように、履行補助者の説明義務違反により、税理士の先生にも多額の損害賠償が認められる結果になってしまうことがありますので、会計法人の担当者も含め、租税法規に関する研鑽を積むよう指導していただければと思います。

    履行補助者にミスがあった場合の税理士の責任については、下記にも説明していますので、そちらもご参照ください。

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