消費税課税制度の選択に当たって注意すべき点とは?
ー消費税課税制度の選択における注意義務違反を認めた事例
選択の余地がある課税制度に関するトラブルは、届出の失念や調査・説明義務が問題となることが多いです。
このうち、調査・説明義務についてどの程度まで調査・説明すべきかは悩ましい問題といえます。
今回は、消費税課税制度の選択における注意義務違反を認めた事例(東京地裁平成13年10月30日判決)を通じて、調査・説明義務の範囲について解説していきます。
なお、弊所では税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。
1 事案紹介
本件の事案の概要と経過は、以下のとおりです。
1.1 事案の概要
〈前提知識〉
〈事案の概要〉
X社は、第3期事業年度から消費税の納税義務を負うことになった。
そこで、Yは、消費税課税事業者届出書を提出するとともに消費税簡易課税制度選択届出書(以下「本件選択届出書」)を提出した。
簡易課税制度を選択した結果、X社は第3期事業年度分として470万9500円、第4期事業年度分として336万3800円の各消費税の納税義務を負担した。
なお、X社が一般課税制度を選択していた場合、第3期事業年度分として138万4300円、第4事業年度分として187万8800円の消費税を納税すれば足りるはずであった。
また、Yは、本件選択届出書にもかかわらず、第3期事業年度の税務申告において、一般課税制度を前提とした消費税申告書を提出してしまったため、X社は修正申告を余儀なくされ、過少申告加算税、延滞税の納税義務を負担することとなった。
X社は、Yに対し、上記加算税・延滞税の金額はもとより、YがX社の帳簿等を精査すれば、一般課税制度の方が有利になることは分かったため、Yが課税制度の選択に関する注意義務を怠ったとして、簡易課税制度に基づく税負担額と一般課税制度に基づく税負担額の差額に関して損害賠償請求を行った。
1.2 経過
平成8年1月初旬
平成8年9月30日
平成8年11月19日
平成9年9月末
平成10年11月24日
平成11年1月19日
平成11年1月21日
平成11年3月1日
平成11年9月末
2 解説:税理士の調査・説明義務
本判決の争点は注意義務違反の有無と損害額になりますが、特に参考にすべきポイントは以下の点になります。
Yは、訴訟において、X社から事情聴取を行ったうえで、X社に対して一般課税制度と簡易課税制度について説明し、簡易課税制度を選択することとしたため、Yに善管注意義務違反はないとして争っていました。
この点について、裁判所は以下のような判断をしてYに注意義務違反があるとしました。
- ・X社は、設立当初から、製造業ないしは加工業に相当する業務を行っていた。
- ・顧客から委任を受けた税理士としては、消費税法第37条1項に規定された簡易課税制度を選択すべきかどうかを判断するに当たっては、顧客からの事情聴取や調査等を行い、事実関係を把握する必要があり、特に簡易課税制度においては、課税売上をいくつかの業種に分類した上で、それぞれに対して異なるみなし仕入率が適用されることに鑑みれば、簡易課税制度の採用が納税額を減少させるか増大させるかの検討のため当該事業者の課税売上が属する業種や、実際の仕入率について十分な調査を遂げる必要があるというべきである。
- ・Yにおいて、少し時間をかけて取引先の請求書や売上台帳を点検したり、X社に対する質問や調査を行えばX社の主たる業務が製造業又は加工業に区分されるものであることを容易に判断し得た。
- ・Yの行った調査及びX社の主たる業務を卸売業と判断した行為は、不十分かつ不適切なものである。
- ・加えて、Yは平成9年3月時点で、X社が製造業ないし加工業に区分されるような業務を行っていることを認識していたものであり、平成9年9月30日までの間に、一般課税制度を選択した方が有利であると判断し、本件選択届出書の取下げを行うことができた。
判決は、上記のような認定をし、Yが適切な調査をすれば、X社の主たる業務と課税売上が属する業種を判断することができ、簡易課税制度と一般課税制度のどちらを選択した方がX社にとって有利かを判断できたとし、Yの注意義務違反を認め、Yに債務不履行責任があるとしました。
(教訓・対策)
上記判決では、消費税の課税制度の選択において、税理士は、納税者の課税売上が属する業種や実際の仕入率について十分な調査を遂げる必要があるとして、調査義務があることを認めています。
そして、適切な調査をすれば、簡易課税制度ではなく一般課税制度を選択した方が消費税の負担が少なく済んだとして、本件選択届出書を取り下げることができる時期までに一般課税制度を選択しなかったことにつき注意義務違反があるとしました。
上記判決のように注意義務違反と言われないようにするため、消費税の課税制度の選択を含めて依頼を受けた税理士としては、依頼者の業種や実際の仕入率等を十分に調査したうえで、選択の余地のある税制度やリスクを説明し、依頼者の意思決定の前提となる情報を提供する必要があります。
具体的な対策としては、契約書等において、委託業務に消費税申告に関する相談や手続が含まれる場合には、その選択に影響が及ぶ恐れのある事項を事前に報告してもらうことや、課税制度を説明したことを確認する規定を設けることが挙げられます。
また、具体的な説明はメールや書面等の証拠に残るかたちで行い、その結果として課税制度の選択を依頼者の判断で行ったことも書面等で残しておくべきと言えます。
なお、上記判決では、損害についても争われており、一部損益相殺も認められていることなど、損害の認定についても参考になる部分がありますので、興味のある方は判決文全文をご一読いただければと思います。
3 まとめ
今回は、消費税課税制度の選択における注意義務違反を認めた事例についてご紹介しました。
消費税課税制度の選択にあたっては、税理士に資料の精査を含めた調査義務、調査の結果の説明義務が課されており、それを怠ると、税理士報酬を超えるような多額の損害賠償が認められる結果になってしまうことがあります。
そのため、税理士の先生は、選択の余地のある税務処理を行う場合には、十分な調査・説明を証拠に残る形で行っていただければと思います。
税理士が負う「説明・助言義務」については、下記にも詳細に説明していますので、そちらもご参照ください。
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