提出を忘れてしまった!
-定率法選択の届出を怠った場合の損害額が問題となった事例

本記事のポイント
  • 損害は税理士の怠った行為(債務不履行行為)と因果関係のあるものが認められること
  • 依頼者の依頼事項・依頼の趣旨を確認し、業務を確実に行う必要があること
  • 税理士は、依頼者の委任の趣旨に従って業務を行わなければなりません。
    委任の趣旨に従わなかった場合、ときには依頼者の意思に沿わない申告となり、結果として依頼者に損害を与えてしまうことがあります。

    例えば、減価償却費計算において「定額法」でも「定率法」でも、減価償却期間全体を通してみると、償却費の総額に差異はありません。しかし、「定額法」と「定率法」にいずれをとるかによって、毎年の償却額が異なることとなり、各年度の収入額によっては、所得税等にも影響することになります。

    今回は、税理士賠償が問題となった過去の裁判例のうち、税理士が定率法を選定する旨の届出を怠ったため修正申告による税金の追納付が生じた場合に、税理士が賠償する額が問題となった事例(大阪地方裁判所岸和田支部平成19年5月14日判決)を解説していきます。

    なお、弊所では税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。

    1.事案紹介

    本件の事案の概要と経過は、以下のとおりです。

    1.1 事案の概要

    本件の事案は、定率法の届出を怠った税理士に対し、依頼者が損害賠償を求めた事案です。

    依頼者Xら

  • 依頼者Xら(X1・X2)は、定率法に基づく確定申告を依頼したが、税理士Yは定率法を選定する旨の償却方法の届出を怠った。
  • 依頼者Xらは、定額法の減価償却費計算による修正申告を余儀なくされ、税金の追納付をした。
  • 依頼者Xらは、税理士Yに対し、委任契約の債務不履行による損害賠償請求権に基づく損害賠償を請求した。
  • 請求した金額は、所得税、延滞税、過少申告加算税、及び住民税の合計額及び遅延損害金。(X1は、総額1524万3000円。X2は、総額2044万4000円。)
  • 税理士Y

  • 届出の提出を怠ったことは確かだが、上記合計額全額を賠償する必要はないとして、損害額を争った。
  • 裁判所

  • 依頼者Xらの主張する損害の一部を認容した。
  • 認められたのは、延滞税、過少申告加算税、及び所得税・住民税の追納付額に対する金利相当部分。(X1については164万3180円。X2については243万9155円)
  • 1.2 経過

    平成13年12月1日

  • 依頼者らが共同経営の形でスーパー銭湯を開業した。
  • 平成16年

  • 依頼者らは、平成13年度から同15年度までの所得税・住民税の確定申告手続きを税理士Yに委任した。
  • その際、依頼者らは、税理士Yに対し、2号資産について定率法に基づく計算した金額を減価償却費として税務署に申告するように依頼した。
  • 税理士Yは、過失により、定率法を選定する旨の償却方法の届出書の提出を怠った。
  • ※本件当時、2号資産については、定率法を届け出たときは定率法によるが、届出のない時は、通常、定額法によって計算した償却限度額が必要経費に算入されることになっていた。
    平成16年12月

  • 依頼者らは、税務署に対し、定額法から定率法に変更する旨の届出を税務署に提出した。
  • 平成17年3月

  • 税理士Yは、依頼者らに、損害の賠償として100万円ずつを支払った。しかし、依頼者らは訴訟を提起した。
  • 2 解説

    本判決の争点として判断された内容は多くありますが、特に参考にすべきポイントは以下の2つになります。

    ①延滞税、過少申告加算税は、損害にあたるのか。
    ②追納付した所得税・住民税は損害にあたるのか。

    2.1 (延滞税・過少申告加算税は損害にあたるのか)について

    裁判所は、

    1. 延滞税・過少申告加算税は、税理士Yが委任の趣旨に従って定率法の届出をしていれば、償却期間全体を通してみても、依頼者らが支出する必要は全くなかったものであるから、因果関係のある損害と認められる。
    2. 所得税・住民税の追納付額に対する金利相当部分も相当因果関係にある損害である。

    と認定して、延滞税・過少申告加算税と追納付額に対する金利相当部分は税理士が賠償すべきとしました。

    (教訓・対策)

    そもそも損害として賠償が認められるものは、債務不履行行為と因果関係のある損害に限られます(民法415条1項等)。

    本件の事例でも、延滞税や過少申告加算税は、税理士Yの債務不履行によって修正申告をせざるを得ず、これにより納付しなければいけなくなったものです。
    裁判所も、「定率法の届出をしていれば償却期間全体を通してみても支出する必要性がなかったものは、因果関係にある損害として認められる」として、延滞税や過少申告加算税については、税理士Yの債務不履行と因果関係があるとして損害と認めました。

    したがって、税理士が依頼者の依頼どおりの業務を行っていれば、発生しなかった費用は、賠償することになります。
    税理士のミスにより依頼者に延滞税や過少申告加算税等の余分な費用がかからないようにする必要があるといえます。

    税理士損害賠償責任における損害の発生と因果関係ついては、下記にも詳細に説明していますので、そちらもご参照ください。

    2.2 (追納付した所得税・住民税は損害にあたるのか)について

    裁判所は、単一年度の追納付のみを捉えて損害が発生したとする依頼者Xらの主張を認めませんでした。

    裁判所は、損害について、

      所得税等の追納付に対応する依頼者らの損害とは、税理士Yが委任の趣旨に従い定率法で計算した場合に発生する償却期間全体を通しての所得税額の総額(①)と、Yの過失により定額法による修正申告を余儀なくされた償却期間全体を通して発生する所得税の総額(➁)の差額と捉えるのが相当である、

    としています。

    理由として、償却期間全体を通して償却費相当額は、定額法、定率法で差異はなく、法が税金負担という面で基本的に公平な立場にあると解されることをあげています。

    また、上記の損害の捉え方を前提に、本事例で差額が出ているかについては、

    1. 減価償却期間を通しての将来の収入、所得控除額等は現時点において確定することはできないから、所得税総額①及び②を算出することは不可能であり、差額を認定することは理論上できない
    2. 定率法又は定額法のいずれでも、償却期間全体を通してみれば、納付する所得税額の総額に差異はない可能性も十分ある
    3. 各年度の収入によっては、定額法による方が所得税額の総額が少なくなる可能性もある

    として、原告の主張を認めませんでした。

    (教訓・対策)

    本事例では、裁判所は、結論としては、差額を認定することは理論上できないこと等から、差額があるとはいえない(損害が発生しているとはいえない)と判断しています。

    確かに、減価償却において、定額法で計算した場合は毎年の償却額は等しくなります。しかし、定率法で計算した場合は、償却額は初め大きく年の経過とともに小さくなり、その年の収入額との関係で単年で見れば所得税額にも影響することになります。
    本事例においても、依頼者らも「営業の利益が当初は大きくて次第に逓減することを見越して定率法を選定して税理士Yに依頼した」と主張していました。

    本事例では損害が認定されませんでしたが、そもそも税理士の届出を提出を怠らなければ、このような訴訟になりません。
    依頼者らは、定額法での修正申告をしなければいけなくなっていることは事実です。

    税理士の届出を提出しなかった債務不履行行為がなければ、このような事態にはならなかったのですから、まずは、委任の内容を確認し、提出を忘れることがないように注意を払うほうがよいでしょう。

    税理士が負う「調査・確認義務」については、下記にも詳細に説明していますので、そちらもご参照ください。

    3 まとめ

    今回は、税理士が定率法を選定する旨の届出を怠ったため、定額法の減価償却費計算による修正申告を余儀なくされ税金の追納付が生じた場合の、税理士の賠償する責任が生じる額について問題となった事例について、紹介しました。

    損害は、税理士が行った行為と因果関係のある損害しか認められないのが原則ですが、そもそも、依頼者に委任された業務の内容を確認し、書面の提出や手続きの履行を怠らないように注意を払うことが望ましいでしょう。

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