事実の種類?〜主要事実・間接事実・補助事実〜

当サイトで以前、課税要件事実に関する記事証明責任に関する記事について紹介しました。
 法務実務を理解する上では、この事実の捉え方や整理がとても重要になってくるのですが、今回は、この「事実」を主張する場合に気をつける点について解説していきたいと思います。

 

 

1 要件事実と事実の主張

 要件事実については、こちらの記事で詳細は書いておりますが、例えば消費貸借契約を例にとると、

① 返還約束
② 金銭の授受

となります。

 ちょっと、概念的でわかりにくいのですが、この①、②は法律の条文から切り出される消費貸借契約を成立される要件になります。この要件に該当する事実があれば法効果が発生するということになります。これは、条文から見て、切り出される概念的事実が、要件事実になります。法律から見て、この要件事実が何であるのかといういわゆる要件事実論なんて呼ばれたりします。

 一方で、現実的にはこの要件事実に該当する生の事実があるわけです。この生の事実があるのかないのかが問題になるわけです。わかりにくいところですので、「生の事実」について、下の例を見ていただければと思います。

◯消費貸借契約の要件事実
 ①返還合意
 ②金銭授受
◯ここでいう「生の事実」
 ① AとBは、平成29年1月1日、200万円を返済する約束をした。
 ② Aは,Bに対して、平成29年1月1日、①に基づいて200万円を渡した。

というものがあります。今回の説明は、この要件事実に関連する「生の事実」についてのものだという風に理解していただければと思います。「生の事実」を「具体的な事実」と表現しているものも多いです。

 

2 事実の種類

 この「生の事実」については、タイトルにも記載がありますが、①主要事実、②間接事実、③補助事実という3つの類型化がされています。

2.1 主要事実

 主要事実とは、まさに要件事実に該当する具体的な事実を言います。
上記の例で挙げた「生の事実」は、主要事実ということになります。

◯消費貸借契約の要件事実
 ①返還合意
 ②金銭授受
◯主要事実
 ① AとBは、平成29年1月1日、200万円を返済する約した。
 ② Aは,Bに対して、平成29年1月1日、①に基づいて200万円を渡した。

つまり、立証の観点から言うと、この主要事実が認められれば、その法的効果の発生に必要な証明を責任を果たしたということになります。

2.2 間接事実

 次に、生の事実のうちの「間接事実」ですが、これは、「主要事実の有無を推認する具体的事実」ということになります。少しわかりにくいので、例を挙げると

◯主要事実
 ① AとBは、平成29年1月1日、200万円を返済する約した。
 ② Aは,Bに対して、平成29年1月1日、①に基づいて200万円を渡した。
◯間接事実
 Bは、平成29年1月2日、車を200万円で購入した。

 この間接事実がある場合、この間接事実は、返済の約束があった(主要事実①)かはわかりませんが、②のBが平成29年1月1日に200万円を手に入れたことを推認する事実になります。
 もちろん、この間接事実の存在のみで、主要事実②が認められるということではありません。間接事実の場合は、その他の事実や証拠と相まって、主要事実の存在を証明されたかが問題になります。
 実際にも、この間接事実のみでは、Bはもともと200万円以上の預金等を持っていて、車を購入したことも普通に考えられるので、証明としてはかなり不十分です。この間接事実の他に、「Bが平成28年12月31日の時点では預金や現金を持っていなかった」という間接事実があれば、この事実と相まって、②の主要事実が認めれる可能性が非常に高くなります。

 このように、間接事実は、その機能としては、主要事実を推認する証拠のような役割を果たします。そして、間接事実一つのみで、主要事実を認定できるものは、あまり多くなく(中にはあります。)その他の間接事実や証拠と総合して、主要事実を証明していくということになります。

2.3 補助事実

 補助事実とは、「証拠の証明力に影響を与える事実」をいいます。詳しくは証拠についての記事を書きたいと思っていますので、そちらに譲りますが、ここでは例を見てイメージをつかんでいただければと思います。

◯主要事実
 ① AとBは、平成29年1月1日、200万円を返済する約した。
 ② Aは,Bに対して、平成29年1月1日、①に基づいて200万円を渡した。
◯証拠
 ①と②と同一内容の契約書

この場合、契約書がありますので、主要事実が認められる可能性は非常に高いです。

 ただ、この証拠である「契約書」について、偽造の事実(例:AがBの印鑑を管理しており、Aがその印鑑を利用して勝手に契約書を作成したこと等)があれば、その証拠としての価値は無くなります。このように、証拠の価値を下げる事実を補助事実と呼ぶことになります。

 ここでは、上記の例でざっくりとしたイメージを持っていただければ良いかと思います。

 

3 まとめ

 以上が、主要事実、間接事実、補助事実の説明になります。要件事実と主要事実の違いが概念的でわかりにくい部分がありますが、要件事実は法律からみた概念で、個別具体的な事案で、何を証明しなくてはならないかという立証の視点からの整理が主要事実であると考えていただければ良いです。学者の先生によっては、「要件事実=主要事実」との考えを前提に論を進めている方もいらっしゃいますので、どの文脈で言葉が使われているか注意する必要がありますが、概ね同じものだという認識でも実務上の不利益はあまりありません。
 ここでは、要件事実に該当する具体的な事実が主要事実なのだなという点を抑えてください。
 また、間接事実、補助事実については、「証拠」について理解した方が理解しやすいところでもありますので、「証拠」についての記事で違う角度から説明しますので、そちらもご参考になさっていただければ幸いです。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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