否認と抗弁の違い〜税務調査で法的な反論をするには!?
さて、最近は、税理士の先生が抑えておくべき法的な事実の整理や証明責任等に関連する記事を書いております。
今回は、税理士の先生が税務調査において行う調査官への反論が法的な枠組みからすると何に当たるのかという点を解説したいと思います。例えば、調査の反論として、文章で反論することもあると思います。その際の文章の枠組みにもなる部分でもありますので、ご参考にしていただければ幸いです。
【目次】
前提として、証明責任に関する記事や事実の種類に関する記事が大切になりますので、こちらも合わせてご覧ください。
1 法律解釈についての反論
まず、法的な反論として、イメージしやすいと思うものは、法律解釈についての反論です。
1.1 反論の説明
例えば、武富士判決で、高裁と最高裁で結論が別れた「住所」の解釈がこれに当たります(この点の詳細ついては、こちらの記事の借用概念についてご覧ください。)。課税庁側は、相続税法上の「住所」の解釈について、居住意思という「主観的な要素」も加味して判断される概念であると主張したのに対して、納税者側は、「住所」の意味は、民法と同じように、あくまでも、「客観的に」生活の本拠たる実体を具備するかで「住所」に当たるかを判断すべきという反論をしました。最終的には、最高裁は、納税者側の主張と同じ法律解釈を支持しました。
つまりは、課税要件事実の「有無」ではなく、課税庁が前提としている課税要件事実の「内容」の解釈やその法律が規定している法的な効果についての解釈等が誤りであるという主張が法律解釈についての反論となります。
1.2 税務訴訟では!?
あくまでも裁判になればとなりますが、この法律の解釈内容等の決定は、「裁判所」の専権事項になります。当事者(税務訴訟の場合は、国と納税者)の主張に裁判所は拘束されません。なので、当事者が法的解釈に関する主張・反論をしても、それとは違う解釈を裁判所が行うこともあります。
ただし、一般の民法領域の訴訟と比べて、税務訴訟の場面では、専門性の高い分野になります。必ずしも、その裁判官が税法に精通しているかどうかは分かりません(もちろん、しっかりは調べてくれますが。)。
ですので、現実論としては、税務訴訟の場合、弁護士としては、裁判所に対して、法的な解釈もこのように考えるべきなんだよという資料を提出することになります。専門性の高い分野では、裁判所におけるいわば前例や常識が作られていない領域も多いので、自分たちの法的な主張や反論が正しいことを基礎付ける資料等は提出すべきです。その説明や資料の提出が適切に行われれば、裁判官もこちらが主張している解釈が正しいのではないかと考えてくれる可能性が高くなります。
1.3 税務調査では!?
では、税務調査という場面ではどのようにするかという点を見ていきましょう。税務調査の場面では、裁判所という中立な解釈人がいるわけではありません。ですので、課税庁の法律解釈がおかしいと考えられる場合には、前例等の調査もしつつ理由もつけて反論すべきです。
過去の裁決や裁判例で、こちらの解釈を前提にしたもの(または課税庁の解釈と異なるもの)等があれば、それを反論の根拠とすることもありでしょう。
2 事実に関する反論
上記は、法律解釈という概念的なものについての反論でした。次に事実に関する反論があります。そうです。課税要件事実に該当する事実(主要事実)の「有無」に関する反論になります。
この事実に関する反論には、「否認と抗弁」というものが存在しますので、そのあたりも含めて解説します。
なお、ここを理解するには、
この2つの記事を合わせてお読みいただくことを強くお勧めします。
2.1 否認とは!?
否認とは、相手方が証明責任を負う事実を否定する反論方法をいいます。例えば、このサイトでよく利用する例である消費貸借契約を前提に解説すると、
①返還合意 ②金銭授受
◯主要事実
① AとBは平成29年1月1日、200万円を返済する約した。
② Aは,Bに対して、平成29年1月1日に①に基づいて200万円を渡した。
「返済する約束はなく贈与な(もらった)んです。」という反論は、消費貸借契約の存在を主張するものが証明責任を負う主要事実①に対する反論になりますので、否認ということになります(なお、同時に②の事実については、自白(認める)になります。)。
このような、「贈与(もらった)」というように理由が付された否認を「理由付否認」ないし「積極否認」なんて呼んだりします。
否認の場合は、下記「2.2」の抗弁の場合と異なり、反論する側が証明責任を負うわけではないので、消費貸借契約の存在を主張する側の主要事実①を真偽不明(どっちか分かんないよねということ)に追い込むことができれば、反論成功と言えます。
ですので、相手がかなり強い証拠や間接事実の立証に成功している場合には、より積極的に真偽不明においこむための間接事実の主張と立証が必要になりますし、一方で、相手がそんなに強い証拠や間接事実の立証ができていないのであれば、単に反論していれば良いということも十分にありえます。
税理士の先生が、反論される場面は、もちろん税法領域ということになると思います。前述の課税要件事実についての証明責任に関する記事でも記載しましたが、課税要件事実に該当する主要事実については、原則として、納税義務の発生を主張する課税庁が証明責任を負うことになりますので、税理士の先生の事実に関する反論は、この抗弁ということになります。ですので、課税庁側の主要事実の立証の程度によって、こちらもどの程度の反論が必要かというのは変わってきます。
2.2 抗弁とは!?
否認の説明を見て、もうわかっている方が多いと思います。
抗弁とは、相手方の主張を排斥させるため、相手方が主張する事実と両立し得る事実による反論方法を言います。具体的には、相手方が主張する事実と両立し得るということになるので、自分が証明責任を負う相手の主張する法律関係を消滅や障害させる主張を言います。くどいですが、上記の課税要件事実に関する証明責任に関する記事記載の「1.2 分配の基準」で言うところの権利障害規定、権利阻止規定や権利消滅規定の要件事実に該当する主要事実に対する新たな主張がそれに当たります。
消費貸借の例でいうと
① AとBは平成29年1月1日、200万円を返済する約した。
② AはBに対して、平成29年1月1日、①に基づいて200万円を渡した。
に対して、
BはAに対し、平成29年2月1日、上記主要事実①の約束に基づいて、200万円を弁済した。
という事実の主張は、上記主要事実①、②と両立し得る自己が証明責任を負う事実による反論といえます。この事実に関しては、反論する側が証明責任を負いますので、この事実を証明しなければ、反論として成功しません。
この事実を証明することができれば、消費貸借契約に基づく金銭返還の請求権が消滅している(すでに返済義務は果たした。)という法律関係を生じさせることができますので、上記の分類でいうと権利消滅規定の要件事実に該当する主要事実の立証に成功したことになります。
税務分野でいうと、抗弁が問題になる場面は、例えば加算税についてに関する「正当な理由」に該当する具体的事実の主張が挙げられます。
これは、加算税の正当な理由(国税通則法65条4項等)に関する規定を見ていただければと思いますが、あくまでも、原則として加算税の要件が満たされていることを前提として、その特例として第4項で例外が定められています。そのような法律の作りから、この「正当な理由」については、納税者が証明責任を負うものと考えられます。
2.3 税務調査の反論では!?
税務調査の場面では、特に「否認」という反論をする場面が多いと思われます。今ではそんなことないとも言われますが、実際に調査官自身が証明責任を負うということを理解していないこともまだあると個人的には思っています。
ですので、税務調査において、書面等で反論する場合には「その事実は課税庁が証明責任を負っている」旨の説明も加えた方が良いでしょう。
また、もうお分かりかと思いますが、税務調査において、「一筆とる!」という調査官の行為は、この証明責任を果たしたとは言えないときに往々にしてなされます。つまり証明が不十分なので、追加で証拠を残しておきたいということです。ですので、「一筆」には基本的には応じる必要はないでしょう。むしろ、相手が焦っていると考えた方が良いです。
3 まとめ(具体的な反論書面の項目)
以上をまとめると、課税庁に対する反論文
2 事実についての反論
(1)証明責任の所在
(2)反論内容
(3)以上より、「〇〇」事実は存在しない(または証明不十分)であるから・・・
3 最後に
は、このような項目を含んだものに自ずとなるでしょう。
今回は解説しませんが、法律的な文章を書くには、ある程度お作法があります。芸術的な文章を書くわけではないので当たり前なのですが、実際のところ、お作法がわかれば誰でも、法律的な文章を書くことができます。
いずれこのサイトでもその辺の記事も書ければ良いかなと思っていますので、楽しみにしていただければと思います。
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