合理的意思解釈とは!?〜契約内容が不明確な場合の契約内容の特定〜

 さて、これまで当サイトでは、契約の整理や契約書の重要性等を説明してきましたが、今回は、そもそも、契約書がない場合や契約書はあるが、内容が不明確や2つの意味で解釈できるというような場合に、どのように契約の内容を特定していくのかという問題について解説していきたいと思います。

 このような場面は結構あります。契約書を作ったけれども、揉めたりするケースはほとんどこのような場合です。

意思表示の解釈

 当サイトでは、耳タコだと思いますが、契約は意思表示と意思表示の合致で成立します(詳細は、契約の基礎について書かかれた記事を御覧ください。)。
 この意思表示の内容が不明確だった場合、つまりは、
 契約書がない場合や契約書はあるが、内容が不明確や2つの意味で解釈できるというような場合に、どのように契約の内容を特定するかというと、証拠による事実認定により、その意思表示の「表示」が当事者間でどのような意味でなされていたのかという点を推認していきます。

 これを、法律家の世界では、契約の「合理的意思解釈」と呼んだりします。ちょっと硬い言い方で説明すると、「意思表示の内容が一義的に明らかではない場合には、その表示内容(契約内容)を客観的な事実から合理的に確定させる」ことになります。

合理的意思解釈

 では、実際にどのように合理的意思解釈を行っていくのか、今回はも例を使って解説します。
今回の例も、契約の基礎という記事で利用した例をサイト全体でのわかりやすさという意味で利用します(あくまでも、考え方を理解するという意味での例ですので、あしからず。)

Aさん:「たばこ10カートンを41,000円で買いましょう。」
Bさん:「たばこ10カートンを41,000円で売りましょう。」

というAさんの申込みの意思表示、Bさんの申込みの意思表示があったとします。

 前の記事の例では、「たばこ」という部分が、「マイルドセブン」という風に特定の銘柄を表していましたが、今回は単に「たばこ」という商品の種類のみが表示されています。これでは、どのような銘柄の「たばこ」についての意思表示、つまり売買契約があったとのか不明確ということになります。  

 このような場合に、ではその意思表示の内容である「たばこ」というは何を意味しているのかを、客観的な事実から合理的に確定させることになります。

 今回の例でいうと、例えば、下記の事実があった場合には、「たばこ=マイルドセブン」であると意思表示を解釈することになるでしょう。

① Aさんは、いつもBさんから「たばこ」を購入していること
② Aさんは、その都度、自分が消費するためにマイルドセブンを買っていること
③ Aさんは、自分が消費するために「たばこ」を購入したこと
④ Bさんが、①、②、③の事実を認識していること

というのは、Aさんは、Bさんからいつも「たばこ」購入しており(①の事実)、その都度、自己消費のためにマイルドセブンを購入していた(②の事実)とすれば、今回のAさんとBさん売買契約もマイルドセブンを対象としてものであるのではないかと推認できます。
 ただし、例えば、今回に限って、Aさんは友達のCさんのために「たばこ」を買ったという場合もありえますので、それに加えて、Aさんが今回も自己消費のために「たばこ」を購入した(③の事実)があればその部分もクリアーできるでしょう。さらに、意思表示は、AさんBさん相互になされて合致の有無を判断するものですから、Bさんが①、②、③の事実を認識していることまで言えれば、完璧でしょう。

 このように、「たばこ」という意思表示を、その他の客観的事実から合理的に推認して、

「たばこ」=「マイルドセブン」

というように意思表示の内容を確定させていく作業が、意思表示の「合理的意思解釈」となります。

3 まとめ

 このあたりで、どこまでの事実があれば認定できるのかという部分は、自由心証主義や「証拠」というものの考え方を理解していないと判断が難しいとは思いますが、これについては当サイトで、別の記事を書きますので、少々お待ちください。今回の記事はあくまでも、意思表示の「合理的意思解釈」とはどういうものなのかという点をご理解いただけますと幸いです。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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