物権(契約)と債権(契約)の違い
さて、今回は、契約の中でも、物権に関するものと債権に関するものが存在しますので、それについて解説したいと思います。
民法も、その法典の目次を見れば分かるように、その第2編で「物権」を第3編で「債権」を定めています。ここからも分かるように、民法を理解する上で、この2つの意味はとても重要になりますので、是非お読みになっていただければ幸いです。
1 物権とは?
物権とは、「物に対する支配権」をいいます。税理士の先生がよくご存知のものですと、所有権、占有権、地上権、抵当権、留置権等があります。
物に対する権利ですので、「私の時計は私の物です。」ということを誰にでも主張することが可能です。
2 債権とは?
債権とは、「特定の人にある行為をさせる権利」をいいます。
例えば、お金を誰かに貸した場合に、その「お金を返してください。」と請求できる権利です。
お金を貸した特定の人にお金を返すという行為をさせる権利ということで債権になります。この場合、お金も「物」ではないかと思われる方も多いのですが、法律上は、通常お金自体には色がなく、価値そのものと考えますので、貸した瞬間にその所有権も、借りた人に移転します。
その他、税理士業務でいうと、お客さまが、「申告してくださいね」という債権を有していて、その代りに税理士の先生がお客さまに対して「お金くださいね」という債権を有しているということになります。
3 物権と債権の違い
さて、以上の説明でも、物権が物に対する権利、で債権が人に対する権利なんでしょ?もうわかったよという方も多いと思いますが、その違いについて少し専門的な表現を使って説明します(と言っても中身は簡単です。)。
3.1 直接支配性の有無
物権と債権の違いを説明する時に、法律の教科書等では、「直接支配性」の有無が異なるという解説がされています。
つまり、物権とは、人を介在することなく、物を直接に支配する権利であるから、物への支配が侵害されたときは、これを排除する請求権によって、その支配を回復することができることを意味しています。それに対して、債権とは、特定の人にある行為をさせる権利であるに過ぎないから、その目的物については、債権者は、債権による人を介した間接的な力しか及ぼすことができないということになります。
この両者の違いを、直接支配性と法律の教科書ではいっております。
3.2 排他性の有無
この「排他性」というのも、法律の教科書では、物権と債権の違いを説明するのに用いられます。
物権には、「同一の「物」の上に同一内容の権利は一つしか成立しない。」という「一物一権主義」という原理が導入されています。ですので、例えば、ある物についての所有権は1つしか存在せず、その他の者の所有権を認めません。これを物権には排他性があるというふうに言っています。
一方で、債権は、人に対する権利ですので、同一の内容の権利が複数存在することは何ら問題ありません。
3.3 絶対性の有無
この「絶対性」というのも、くどくなりますが、法律の教科書では説明されています。
つまりは、物権は物に対する支配権であるから、誰に対しても、絶対的にその存在を主張することができるのに対して、債権はある特定の人に対する権利に過ぎないので、その特定の人に対する相対的な権利に過ぎないというふうに説明されるのです。
4 売買は賃貸借を破る!?
売買と賃貸借は、いずれも「物」を買うというのと、借りるというので、両者とも「物」に関連する契約です。
ただ、売買は、買主に所有権という物権を与える契約である一方で、賃貸借は、借主に賃借権という債権を与える契約になります。
例えば、ある時計を、AさんがBさんに貸していました。その後に、AさんがCさんにこの時計を売ったとします。
以上の説明からわかる通り、Bさんの賃借権は、債権ですから貸主であるAさんにしか主張できません。一方で、Cさんが取得した所有権は、物権ですから売主であるAさんだけでなくBさんにも主張することができます。
つまり、この場合、Cさんは、Bさんに対して、その時計を「私に渡して下さい。」という請求をすることができ、Bさんはそれを拒むことができなくなります。これを、民法学の世界では、「売買は賃貸借を破る」という格言めいた表現で説明されています。
ただし、「ん!?」と思った税理士の先生もいらっしゃると思います。
その通りです。実務をしていると必ずしも、この格言が当てはまらない場合があります。不動産の賃貸借については、借地借家法というものが存在し、この格言とは違う結論になります。これは民法という一般法を借地借家法という特別法が塗り替えているからなんです(一般法と特別法に関する記事参照)。
この不動産に関しては、別途特集記事を書きますので、そちらを参照してください。
5 まとめ
今回の記事では、まず民法の大原則を押させていただいて、その応用として、借地借家法があるということ知っていただければ幸いです。
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