共有持分権の放棄に関する課税関係〜共有の税務①〜

 前回は、共有(準共有)の法的な性質等の法務についての記事を書きました。今回からは、税理士の先生向けの記事ということもありまして、共有の場合の税務の注意点等を書いていきたいと思います。
 共有についての税務というと、なかなか深いテーマなのですが、法務の記事でも取り上げらていた「共有持分権の放棄」と「共有物の分割」についての課税関係を書きたいと思います。

 まず、今回は、「共有持分権の放棄」の税務について書きますので、ご参考にしていただければ幸いです。

 

1 共有持分権の放棄

 まずは、前回の法務の記事の復習にもなりますが、

(持分の放棄及び共有者の死亡)
民法第255条  共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。

 法的には、共有者が持分権を放棄したときと死亡したが相続人がいないときは、その持分権が他の共有者に移転するというそのままの内容です。なお、共有者が死亡して、相続人がいる場合には、普通の相続税の問題になります。

 共有者が持分権の放棄をした場合、民法255条に効果によって、その持分権について、無償で放棄した者から他の共有者に移転することになるので、以下のような課税関係が生じることになります。以下では、持分を放棄した者を「持分放棄者」、その持分権を取得することとなった他の共有者を「持分取得共有者」とでも呼ぶことにします。

 

2 課税関係

2.1 個人から個人に移転する場合

 この場合には、持分放棄者から持分取得共有者への「対価を支払わないで・・・利益を受けた場合」にあたり、持分取得共有者の持分の取得は、「贈与により・・・取得したものみな」されます(相続税法9条)
 ですので、持分取得共有者への贈与税が発生するということになります。

2.2 個人から法人に移転する場合

①個人(持分放棄者)について

 この場合、持分放棄者には、みなし譲渡課税の適用(所得税法59条1項1号)が一応問題にはなりえます。なぜなら、共有持分の放棄の場合、その放棄という意思表示によって行うことができますので、資産のキャピタルゲインに対する無限の課税繰延べ防止を趣旨とする所得税法59条の適用があるのではないかという議論もあるのです。

(贈与等の場合の譲渡所得等の特例)
所得税法第59条  次に掲げる事由により居住者の有する山林(事業所得の基因となるものを除く。)又は譲渡所得の基因となる資産の移転があつた場合には、その者の山林所得の金額、譲渡所得の金額又は雑所得の金額の計算については、その事由が生じた時に、その時における価額に相当する金額により、これらの資産の譲渡があつたものとみなす。
一  贈与(法人に対するものに限る。)又は相続(限定承認に係るものに限る。)若しくは遺贈(法人に対するもの及び個人に対する包括遺贈のうち限定承認に係るものに限る。)
二  著しく低い価額の対価として政令で定める額による譲渡(法人に対するものに限る。)

しかし、「税法解釈の方法」の記事からもわかる通り、税法の解釈では、租税法律主義により、文言の拡張解釈はすべきではなく、文理解釈を優先すべきです。そうすると、「持分放棄」と「贈与」は、経済効果は同じであったとしても、法的には明らかに異なる行為ですので、個人である持分放棄者にみなし譲渡課税の規定の適用はなく、課税関係は生じないと考えるべきでしょう。

②法人(持分取得共有者)について

 こちらについては、持分取得共有者の持分権の取得については、「その他の取引」(法人税法22条2項)に該当して、その益金が生じることになります。
 ここでいう「その他の取引」というのは、法律上の契約を意味するものではなく、あくまでも会計上の取引の意味であると説明されてたりします。

2.3 法人から個人に移転する場合

①法人(持分放棄者)について

 法人には、法人税法22条2項の「無償による・・・取引」に該当して、時価譲渡として益金が生じます。取得費等は、損金になります。つまり、譲渡益が生じるということになります。
 放棄の理由によって、時価相当額について、寄付金認定か、損金かという問題になりえます(無償取引における二段階取引説を前提にしています。)

②個人(持分取得共有者)について

 こちらについては、その放棄の理由により、一時所得(所得税34条1項)または給与所得(所得税法28条1項)の課税関係が生じます。特殊な事案でない限りは、一時所得になるでしょう。

2.4 法人から法人に移転する場合

①法人(持分放棄者)について

 「2.3-①」と同様に譲渡益が生じます。

②法人(持分取得共有者)について

 こちらについては、「無料・・・取引」によって、益金が生じることになります。

 

3 まとめ

 以上が、持分権の放棄が生じた場合の各関係人別の課税関係となります。普段はあまり問題にならないかもしれませんが、税理士の先生のご参考にしていただければ幸いです。
 次回は、「共有分割」についての税務上の注意点等を書きたいと思いますので、そちらもご参考になさってください。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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