課税要件事実とは何か?

 税理士の先生におかれましては、「課税要件事実」という言葉を耳にされたことがあるかと思います。ここ数年で、税理士向けのセミナーでもよく言われるようになりました。
では、この「課税要件事実」とは何なのでしょうか。
 
 私たち弁護士は、司法試験合格後に司法修習というものに行くのですが、この「要件事実」という言葉を聞かない日はないというほど、法律を理解するためにとても重要な事項になりますので、ぜひ、抑えていただきたいと思います。

1 要件事実とは?

 まず、「要件事実」とは何なのかという点からお話します。

要件事実とは、

「ある法律効果が発生するために必要な事実」

をいうと考えてください。
これだとよく分からないという方も多いと思うので、お金を貸した相手にお金を返せという権利(法律効果)があるかないかという例で説明します。

 まず、お金を返してくださいという権利(法律効果)が生じる契約は、税理士の先生もご存知の通り、「消費貸借契約」ですよね。では、消費貸借契約の民法上の規定を見てみましょう。

(消費貸借)
民法第587条  消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

 どうでしょうか。「消費貸借・・・・その効力を生じる。」とされています。そうつまりは、消費貸借契約に基づくお金を返してくださいという権利(法律効果)が発生するために必要な事実(要件事実)は、この「・・・・」の部分に書かれています。つまり

①種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して・・・返還約束
②金銭その他の物を受け取ること・・・金銭授受の事実

が要件事実であり、これが満たされれば消費貸借契約(お金を返してくださいという権利(法律効果)が発生することになります。

これが、「ある法律効果が発生するために必要な事実」が「要件事実」であるということの説明になります。

2 課税要件事実とは?

 では、課税要件事実とはなんでしょうか。上記の「要件事実」に「課税」が加わっただけで、要件事実の意味は一緒です。課税要件事実とは、要件事実の「ある法律効果が」の部分が、「ある課税効果が」となるだけです。

つまり、課税要件事実とは、

ある課税効果が発生するために必要な事実

をいうのです。

 例えば、所得課税の場合は、所得発生の起因になる事実であり、実定法でいうと、「課税標準等または税額等の計算の基礎となった事実」(国通則法23条2項1号、71条1項2号等)が課税要件事実に相当します。つまりは、所得税法上の収入金額を基礎付ける事実、所得分類、税額控除を発生させる事実等、税額計算に法律上必要な事実が課税要件事実ということになります。
 民法等の法律に比べて、課税要件事実の場合、税効果(当該金額の税金を支払う義務)の発生に必要な事実ということになりますので、1つの条文で全ての要件事実が記載されてるわけではありませんが、計算の過程で適用していった条文の要件事実が、課税要件事実となります。

3 まとめ

 以上が、「課税要件事実」の説明となります。
この課税要件事実は、言うまでもないですが、税務判断をする場合にとても重要となります。
いわゆる税務判断とは、この課税要件一つ一つの有無を判断するというものだからです。 

 そして、税務調査や裁判等で、国側と税務効果を争う場合には、

○ 課税要件は何であるのか(課税要件の法律解釈)
○ その事案で、課税要件事実に該当する事実の存在が認められるか(課税要件事実の認定)

という2点を納税者と国で争うことになります。

 さて、次回は、この課税要件事実に関連して、実際に税務調査や裁判の場面でとても意味を持ってくる「立証・証明責任」について解説したいと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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