証明(立証)責任とは何か?〜課税要件事実を証明する責任は誰にあるのか?〜

 前回、税務判断にとても重要なものとして、「課税要件事実」とは何であるのかという点について解説させていただきました。
 それとも大きく関連するので、今回は「税務調査」、「不服審判」や「裁判」等の場面で、納税者と国が争う場合にとても重要となる証明責任(立証責任や挙証責任なんで呼ばれたりもします。)というものを解説したいと思います。

 なお、課税要件が何であるか法律を解釈する場合には、この証明責任という概念はでてきません。あくまでも、課税要件事実に該当する具体的な事実の有無についての話になります。法律の解釈については、主張はもちろんしますが、あくまでも、裁判所の専権事項になります。

1 証明責任とは

 税理士の先生であれば、この証明責任という言葉を聞いたことがあると思います。端的にわかりやすくいうと、前回お話した「要件事実」に該当する事実について、どちらが証明する責任を負うのかという問題です。ここではもう少し詳しく見ていきましょう。なお、「要件事実「に該当する事実」」というちょっと事実が二重になっている点が気になる方はこちらの要件事実と主要事実の違いの部分をご参照ください。

1.1 証明責任とは何か?

 証明責任をより法律的に正確にいうと

 ある要件事実に該当する事実が真偽不明の場合に、その事実を要件とする自己に有利な法律効果の発生が認められないことになる一方当事者の危険または不利益

をいいます。つまりは、要件事実に該当する事実について、証明責任を負うものがその事実はあったことを証明できなければ、その法律効果(権利等)を認めてあげないよといっているのです。
なお、法律家は真偽不明の状態を「ノンリケット」と呼びたがります。。。。

1.2 証明責任の分配の基準

 では、その証明責任はわかったとして、その証明責任は誰が負うのかという問題があります。

ここに、民事上は、「ある法律効果を主張する者が、当該法律効果の発生を規定する法律の要件事実について証明責任を負う」

とされており、これを「法律要件分類説」なんて呼びます。

つまり

ある権利関係(法律効果)の発生を規定する権利根拠規定の要件事実に該当する事実
・・・権利の発生を主張する者
ある権利関係(法律効果)の発生につき、障害事由を規定する権利障害規定の要件事実に該当する事実
・・・権利の発生を争う者
ある権利関係(法律効果)の発生につき、その権利行使の阻止を規定する権利阻止規定の要件事実に該当する事実
・・・権利を阻止する者
既に発生したある権利関係(法律効果)の消滅を規定する権利消滅規定の要件事実に該当する事実
・・・権利の消滅を主張する者

が各々証明責任を負うということになります。

これを前回の要件事実の説明に使った例同様、お金を返してくださいという権利(法律効果)があるかないかで説明すると、

お金を返して下さいという権利(法律効果)の発生の要件事実である

① 返還約束
② 金銭の授受

は、権利根拠規定となりますので、権利の発生を主張する者、つまり、お金を返して下さいと主張する者が要件事実に該当する事実について、証明責任を負うことになります。

これに対して、返還すべき日がきていないから、お金を返しませんという主張が、権利阻止となり、

③ 弁済期の合意

を、お金を返して下さいと言われた側が証明しすることになります。
(なお、わかる人にわかるので無視していただいて良いのですが、現在の研修所に合わせていわゆる「貸借型理論」は採用していませんということで。)

2 税法における証明責任の考え方

 以上、長々と証明責任について説明しましたが、これを課税要件事実に当てはめるとどうなるのかということです。実はこの点について学者の先生たちは色々な議論をしている部分なのですが、上記の法律要件分類説に従って、端的に課税をする側(納税義務の発生を主張する側)、つまり国(課税庁)が、課税要件事実について証明責任を負うと考えていただければ問題ありません。
 判例も、「所得の存在及びその金額について」は、課税庁が証明責任を負うと考えています(最裁昭和38年3月3日)。

 ただし、法律の規定で例外的に納税義務を免れる場合、例えば、加算税を賦課する場面で、「正当な理由」(国税通則法65条4項)があることで、加算税を免れる場合には、この「正当な理由」について、法律要件分類説でいうところの加算税の納税義務を障害するものであるので、国民(納税者)側が証明責任を負うことになると考えられます(横浜地裁昭和51年11月26日等参考)。

3 まとめ

 以上が課税要件事実における「証明責任」の解説となります。
 日本では、申告納税制度の関係もあり、税務調査、不服審判、裁判の場面で、更正処分を争う(調査段階では更正処分をさせないようにする。)場合、その課税要件事実についての証明責任は、国側が負担することになります。
 ですので、税理士の先生が遭遇する「税務調査」の場面で、更正処分をほのめかす発言が調査官からあった場合には、まず何よりも、

 何を根拠にどういう事実認識でそうおっしゃるのですか?

と聞き返すというのが良い対応ということになります。
何でですか?と聞いて説明を求めましょう。

The following two tabs change content below.
弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

関連記事

運営者

税理士のための無料メールマガジン
ページ上部へ戻る