物権(所有権・用益物権)の種類①
以前、このサイトで、物権と債権の違いについて記事を書きました。また、物権の設定や移転についての対抗要件についての記事も書いています。
今回は、これらの記事の中にでてきている「物権」について、その原則や種類等の内容をもう少し見ていきたいと思います。
【目次】
1 物権の種類と分類
物権の分類は、大きく分けると「本権と占有権」、本権のうち「所有権とそれ以外」、それ以外のうち「用益物権と担保物件」という段階があります。
1.1 本権と占有権
物権には、大きく分けて、「本権」と「占有権」という区別があります。「本権」とは、物の支配を根拠づける法的な権利があるものを言います。一方で、「占有権」とは、物を現実に支配しているという事実状態を尊重して、法律上認められている物権です。わかりにくいですが、ここでは、「占有権」は特殊なのだなということを抑えていただければいいです。例を言うと、「占有権」により、自分の所有権のある物を、他人がとってしまったとしても、その他人に占有権自体は認められるので、裁判等の法的手続きを経ずに勝手に奪い返すということはできないということになります。
この「占有権」は特殊なものですので、別記事に譲るとして、今回は「本権」について見ていきたいと思います。
1.2 所有権とそれ以外、および用益物権と担保物権
上記の通り、「本権」の中には、まず、所有権とそれ以外の物権(所有権と異なり制限がある物権という意味で、「制限物権」等と呼ばれます。)があり、それ以外の物権の中には、用益物権と担保物権があります。
用益物権とは、実際にその物を利用する権利であり、担保物権は、その名の通りある債権の回収を保全するためのものです。税理士の先生であれば、説明するまでもないですが、抵当権が担保物権の典型になります。
この担保物権は、種類の紹介だけでも、かなりのものになってしますので、今回の記事では、「所有権」と「用益物権」を紹介させていただいて、次回担保物権について紹介したいと思います。
2 所有権
まず、税理士の先生には、お話するまでもないかとも思いますが、物権の「王様」とも言える「所有権」です。ちょっと条文を見てみましょう。
(所有権の内容)
民法第206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。
2.1 使用
ここにいう「使用」とは、所有している本を読むとか、洋服を着る等の所有物を通常の用法に従って使用することを指しています。当たり前という感じですね。
2.2 収益
「収益」とは、所有物から生じる利益を得ることができるということです。この利益を法律的には「天然果実」とか「法定果実」と呼んだりします。
「天然果実」の例としては、「樹園で採取された果実」、「菜園で収穫した野菜」、「牝馬が出産した仔馬 」などがあり、これは樹園等の所有者が取得できますよということになります。
一方、「法定果実」の例としては、「不動産の地代や賃料」「利息」などがあります。
こちらも一応、条文を見ておきましょう。
(天然果実及び法定果実)
民法第88条 物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。
2 物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。
(果実の帰属)
民法第89条 天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。
2 法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。
2.3 処分
最後に「処分」です。「処分」には、所有物を変形、改造、破壊や消費等をする物理的な行為と、所有権を譲渡したり、所有物に下記の用益物権や担保物権を設定したりする法律的な行為が含まれます。自分の物だから、自分で好きなようにできる権利がありますよということです。
以上の3つが、所有権の代表的な機能ということになります。
3 用益物権
「本権」のうち所有権以外の種類として、用益物権というカテゴリーがあります。
民法上のものとしては、地上権、永小作権、地役権、入会権があります。
3.1 地上権
まず、条文からです。
(地上権の内容)
民法第265条 地上権者は、他人の土地において工作物又は竹木を所有するため、その土地を使用する権利を有する。
つまり、他人の土地について、「使用」する権利になります。土地の賃貸借と似ていますが、地上権は所有権を制限するととても重大な制約となる物権ですので、賃貸借と異なり所有者に対し、目的に適した状態に土地をするように請求はできません。
所有者との契約や取得時効により取得するケースが典型例ですが、その他、同一の所有者の土地と建物に抵当権が設定されており、その後、抵当権の実行により土地と建物が異なる所有者のものになってしまった場合には、その建物について土地の地上権が設定されたものとみなされます(法定地上権:民法388条)。
3.2 永小作権
(永小作権の内容)
民法第270条 永小作人は、小作料を支払って他人の土地において耕作又は牧畜をする権利を有する。
こちらは、日本の古い文化として、江戸時代の永代小作関係から生まれてきて、法定化された権利と言われています。畑を作っていくのは、長い期間と努力が必要です。ですので、20年以上50年以内という長いスパンで、支配力の強い「物権」を小作をする者に契約により設定できるようにしています。ただし、現在の民法では、時代と合わなくなってきていることもあり、上限を50年としています。
(永小作権の存続期間)
民法第278条 永小作権の存続期間は、20年以上50年以下とする。設定行為で50年より長い期間を定めたときであっても、その期間は、50年とする。
2 永小作権の設定は、更新することができる。ただし、その存続期間は、更新の時から50年を超えることができない。
3 設定行為で永小作権の存続期間を定めなかったときは、その期間は、別段の慣習がある場合を除き、30年とする。
3.3 地役権
(地役権の内容)
民法第280条 地役権者は、設定行為で定めた目的に従い、他人の土地を自己の土地の便益に供する権利を有する。ただし、第三章第一節(所有権の限界)の規定(公の秩序に関するものに限る。)に違反しないものでなければならない。
つまりは、自分の土地を利用するために他人の土地を使わせてもらうという物権になります。税理士の先生がイメージしやすいものとしては、自分の土地から公道にでるために他人の土地を通させてもらうという「通行地役権」があります。
4 まとめ
以上、今回は、物権のうち、「所有権」と「用益物権」について、民法上の規定があるものを紹介させていただきました。用益物権でいうと、その他の特別法で鉱業権(鉱業法5条、12条)なんてものも存在します。ただ、法律を理解するという意味では、民法上のものをまず押さえることが重要ですので、このようにさせていただきました。
次回は、物権の種類のもう一つの重要な類型である「担保物権」の紹介をしたいと思います。
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