甘い話にご用心?
―考案した節税対策が否認された場合に、税理士の責任を認めた事例
税理士の皆様は、顧客の要望に応えて税務申告書類を作成するだけでなく、なるべく税額を少なくすることを求められることもあると思います。
具体的な方法は様々ですが、中には積極的な節税対策として顧客に実施を進めることもあるでしょう。
では、そうして考案した節税対策が否認されてしまった場合には、税理士は責任を負うのでしょうか。
今回は、税理士賠償が問題となった過去の裁判例のうち、税理士が顧客に対して相続税の節税対策を勧め、顧客が実際に実施したところ否認されたことが、税理士の注意義務違反の結果であると争われた事例(東京地裁平成10年11月26日)をとりあげ、税理士の先生が注意すべきポイントを解説していきます。
なお、弊所では税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。
1 事案紹介
1.1 事案の概要
本件の事案の概要は、以下のとおりです。
相続人であるXらは、税理士であるY1が経営する株式会社Y2より、相続税について以下のような節税対策をとることにより、株式の贈与について贈与税はかかるが、相続発生時に課される相続税を少なくすることができる旨教えられた。
2.被相続人は、当該株式を一定期間保有し、財産を多く相続させる相続人に贈与する。
3.受贈者の相続人は、当該株式を一定期間保有し、Y2が紹介した業者に時価で売却する。
Xらは上記を実施し、上記2に際して受贈者となるX1が株式を配当還元方式で評価し、贈与税申告を行った。
当該贈与税申告は否認され、X1に対して更正処分及び加算税の賦課決定処分がなされた。
その後X1らは、異議の申立て、審査請求の申立てを行ったがいずれも棄却された。そして、XらはY1及びY2に対して、損害賠償請求をした。
1.2 経過
平成4年12月24日
平成5年12月15日
平成6年3月
平成8年2月16日
2 解説:税理士は自ら進めた節税対策が否認された場合に責任を負うか
本判決の争点として判断された内容は多くありますが、特に参考にすべきポイントは以下になります。
裁判所は、税理士が節税対策を勧める場合に、いかなる義務を負っているかについて
- 租税立法の趣旨に反せず、課税実務において認められる内容の相続税対策を考案し、これをもって税務相談をすべき義務を負う
と判断しました。
すなわち、税理士は、租税立法の他、通達及び課税実務について専門的知識を有するのであるから、課税実務において認められる節税対策を考案して相談する義務があり、仮に形式的には通達にしたがっていても、課税実務上否認されるリスクがある場合には、注意義務違反を生じ得ることを判断したものです。
(教訓・対策)
本件では、裁判所は形式的に通達にしたがった節税対策が勧められていても、実務上否認されるリスクがある場合には当該否認について予見可能性があったことを認め、それを前提に本件における税理士の損害賠償義務を認めました。
税理士が依頼者に対して節税対策を勧める以上は、理論的に可能であっても実務上否認されるリスクがある場合には、注意義務違反を生じ得ると判断したものです。
本件を参考に、税理士ができる対策としては、否認されるリスクが高い場合にはそもそも勧めるべきではないことはもちろんですが、そこまでリスクが高くなくとも、最低限リスク説明を行っておくべきものといえるでしょう。
依頼者との契約書の作成方法については、下記にも詳細に説明していますので、そちらもご参照ください。
3 まとめ
今回は、税賠において節税対策が否認された場合の損害賠償が問題となった事例を紹介しました。
節税対策に限らず、依頼者に生じ得る全てのリスクを排除することは難しいですが、最低限の備えとして、説明をしておくことが重要です。
説明をし、その証拠を残しておくことで、税理士の先生としては最低限説明義務を果たしたことを主張することができます。
本件で言えば、税理士としては自らの身を守るため、節税対策を勧める場合には、生じ得るリスクについても十分に説明しておくことが必要でしょう。
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