税理士賠償責任(税賠)はなぜ騒がれるのか?

今回は、税理士賠償責任いわゆる「税賠」に関する記事を書きたいと思います。
税理士賠償責任というと、今年の5月末(平成28年5月30日)の東京地裁の判決で、税理士に約3億3000万円の賠償責任が認められた事例を思い浮かべる税理士の先生も多いのではないでしょうか。あの裁判例は、現在控訴中ですが、このサイトでもいずれ事案や分析等をご紹介したいと思っています。

なお、税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多く対応してきた私の経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。

さて、税賠ですが、税理士の先生向けにセミナーが結構な頻度で開催されたり、毎年「税理士界」等で、税理士会から税賠事例等が送られてくると思います。私も税賠に関するセミナーの依頼を受けることはままあります。「税賠に気をつけましょう!」ということですよね。

同じ専門家である弁護士については、弁護士賠償についてのセミナーや弁護士会から「弁賠に気をつけましょう!!」という話はあまり聞きません。もちろん、弁護士賠償保険には入っている方が多いとは思いますが、どちらかというと「非弁提携」に気をつけましょうという話ばかりが目立ちます。

では、なぜ、税理士賠償責任(税賠)ばかり取り上げられるのか・・について今回は書きたいと思います。それには3つの理由があると私は考えています。

 

1 専門性が高いこと

これは、もちろん弁護士等の他の士業も同じなのです。通常の業務委託等ですと多少のミスがあっても、契約が解約されることはあるにせよ「やれ損害賠償だ!」等にはあまりなりません。
やはり、そこは国家が認めた税務に関するプロフェッショナルであるということから、依頼者さんの税理士の先生に対する期待値はかなり高いです。まさか、プロがミスをするわけないと考えているわけです。
その分、ミスが発覚するれば、「賠償してもらいたい!」という気持ちも強くなるといえます。

 

2 損害の金額が明確であること

これが、税理士賠償責任(税賠)が怖い一番の理由だと思いますが、税理士先生のミスがあった場合、税額ベースでいくら損したのか?という点が明確に出てしまいます。
実際の損害賠償訴訟等でもよく問題になるのは、損害額がいくらなのかという点ですが、税賠の場合はその損害額が明確なケースが多いです。
例えば、弁護士に損害賠償の交渉を依頼したとします。現実としては、その弁護士に問題があり、交渉が決裂して依頼者にとって有利な内容にならなかったとします。しかし、他の弁護士に頼んだ場合と比較して、どれだけ不利になりどれだけの損害が生じたのか?それはいくらに相当するのか?という点に関しては、検証することは難しいです。裁判になっても、それを立証することはかなり困難でしょう。
しかし、下の「3」とも関連しますが、税理士の先生が税額計算をミスしていたとするとミスがなかった場合の税額と比較すれば、すぐに損害額というものがでてします。

 

3 詳細な通達やQ&Aの存在

税理士の先生は、日本で最も難しい税法を扱われています。難しいゆえに通達やQ&Aが比較的詳細にでていますので、「後」からミスを発見するのは容易です。
税理士の先生が申告期限があり、依頼者とのコミュニケーションをとりながら、業務を進めるのはかなりハードだと思いますが、それを後から見てミスを発見するのはそんなに難しくはないんです。余談ですが、予防や企業法務をやっている弁護士の仕事は似た側面がありますが、裁判等の業務中心にやっている弁護士さんだとこの辺りの感覚はわかりにくいかもしれません。
なので、税賠の起因となるのは、顧問税理士の変更があった時、法人税とその社長の事業承継(相続対策)の税理士さんが違う税理士になった時、調査官が税務調査で過去の申告について調査した時等、後から見た場合が多くなります。

 

以上が、税理士賠償責任(税賠)が怖いと言われる理由になっているのかと思われます。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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