見て見ぬふりはできない!
-依頼者主導の不適切な税務申告に対する税賠責任を認めた事例

本記事のポイント
  • 税理士には脱税に該当しそうな行為について指摘する義務があり、これを欠けば賠償責任を負う
  • 税理士は自分が脱税を薦めたわけではないと立証しても賠償責任からは逃れられない
  • 今回は、税理士が依頼者に脱税を薦めたわけではなく、依頼者が自らの意思で脱税を決意し、適切な資料を共有しないなど依頼者主導のもとに行われた脱税事案にもかかわらず、税理士に過失割合1割の損害賠償義務が認められた事例について解説していきます。

    なお、弊所では税理士の先生のご相談を年間400件以上受けており、税理士賠償責任(税理士側)の実務対応を多くしてきた経験から、以下の記事で、税理士の先生の税賠対応について整理していますので、そちらもぜひご参考にしていただければ幸いです。

    1 事案紹介

    本件の事案の概要と経過は、以下のとおりです。

    1.1 事案の概要

    依頼者X1とX2は、税理士Yに平成6年度の所得税等確定申告をそれぞれ依頼した。
    税理士Yは、確定申告書作成のために、職員であるAに、依頼者Xらの自宅を訪問させ、必要な資料を提示することを求めた。

    しかし、依頼者X2はこれを拒んだうえ、平成5年度の申告書の控えと保険料の控除証明書のみを提示して、平成5年度と同様に申告するよう要請した。
    職員Aは、資料の開示を断念し、平成6年度の確定申告手続を依頼者Xらの求める内容で行った。

    依頼者Xらは、平成7年度以降の確定申告手続きも税理士Yに依頼して、職員Aが平成6年度と同様の対応で確定申告書を提出した。

    国税庁は、依頼者Xらの上記各申告に係る所得税及び消費税に脱税があるとして、依頼者Xらに対し、強制調査を実施した。その結果、依頼者Xらは、それぞれ、重加算税や延滞税等の追加納税の賦課決定を受けたため、X1は2118万9600円、X2は262万4100円の金額を全額納付した。

    Xらは、職員Aのなした申告が委任の趣旨に反した違法なものであったため、加算税及び延滞税相当額の損害が発生したとして、Yに対し、委任契約の債務不履行に基づく損害賠償金(X1は2118万9600円、X2は262万4100円)及びこれに対する遅延損害金の支払を求めた。

    1.2 経過

    平成7年3月9日

  • Xら→Y:平成6年度分の所得税等の確定申告手続を依頼
  • 平成7年3月13日

  • A→Xら:Xらの自宅に赴き、必要な資料を要求
  • Xら→A:資料の提供を拒む
  • Xら→A:平成5年度と同様に申告するよう要請
  • ※Aはこの際、指示通り申告すると脱税を指摘される可能性について説明しなかった
    平成7年3月14日

  • A:資料の開示を断念し、Xらの求める内容で確定申告手続を行う
  • 平成8年以降

  • Xら→A:平成7年度以降も同様の内容で依頼
  • その後

  • 国税庁→Xら:強制調査を実施し、重加算税や延滞税等の追加納税の賦課決定
  • 2 解説

    本判決の争点として判断された内容は多くありますが、特に参考にすべきポイントは以下の2つです。

    ①税理士が関与する確定申告で「知らなかった」は通じないこと
    ②否認リスクがある税務処理をする場合の説明責任

    なお、本判決では、上記の他にも、過失相殺についても言及されています。「過失相殺」については、下記にも詳細に説明していますので、そちらもご参照ください。

    また、履行補助者の過失については、下記をご参照ください。

    2.1 税理士が関与する確定申告で「知らなかった」は通じないこと

    ●裁判所の判断

    1. ・税理士は、税務に関する専門家として、独立した公正な立場で税務処理を行うべき
    2. ・申告納税制度の理念にそって、納税義務の適正な実現を図ることが使命であること
    3. ・業務を行うに当たって、委嘱者が税の課税標準等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい、仮装している事実があることを知ったときなどは、直ちに、その是正をするよう助言しなければならない公法上の義務を負っていること

    (教訓・対策)
    この裁判例から得られる教訓としては、依頼者に脱税の意図があった場合、税理士が税務申告を行う以上、その意図を知らなかったでは済まされないということに尽きます。

    税務申告業務は、依頼者の委任を受けて税務処理を行うという図式で業務を行っているため、どうしても依頼者の意向を無視することはできませんし、依頼者の裏の意図まで汲み取ってアドバイスをするのは、必ずしも容易なことではありません。

    一方で、本件の場合のように、あきらかに不適切な税務申告を指示される場合もあるでしょう。

    少なくとも、これからできる対策としては、不自然な依頼が来た場合には断ること、提出された資料について、依頼者の説明を鵜呑みにせず、しっかりと事実関係を把握することに努めることで自衛するように心がけてください。

    2.2 否認リスクがある税務処理をする場合の説明責任

    裁判所は、

    1. ・税理士は、税理士法所定の使命を担うほか、依頼者との間には委任関係があるから、受任者として委任の本旨に従った善良な管理者としての注意義務を負っている
    2. ・依頼者の希望や要請が適正でないときには、依頼者の希望にそのまま従うのではなく、税務に関する専門家としての立場から、依頼者に対し不適正の理由を説明し、法令に適合した申告となるよう適切な助言や指導をするとともに、重加算税などの賦課決定を招く危険性があることを十分に理解させ、依頼者が法令の不知などによって損害を被ることのないように配慮する義務がある

    と判示し、否認リスクがある税務処理をする場合に説明責任が生じることを示唆しています。

    本件は、典型的な「否認リスクがある税務を処理する場合」に該当します。この場合に裁判所が考慮していると思われるのが、

    ① 否認リスクの程度
    ② 否認リスクについての説明の有無・程度

    になります。

    本件の事例だと、証拠資料に基づかない申告内容となっているので、否認リスクは相当程度高いと言えます(①の充足)。
    また、職員Aも否認リスクについて一切説明していなかったと認定されており(②の充足)、税理士側の善管注意義務違反が認められる結果となっています。

    このように裁判では、税務に関する専門家である税理士としての立場から、依頼者に対し不適正の理由を説明するなどして依頼者が法令の不知などによって損害を被ることのないように配慮する義務があると認められることが多いので注意が必要です。

    税理士が負う「説明・助言義務」については、下記にも詳細に説明していますので、そちらもご参照ください。

    (教訓・対策)
    本件は、依頼者側が収入などの資料を出さず、やむを得ず依頼者側の口頭の指示内容とおりに申告書を作成したというかなり特殊な事案かと思います。

    ただ、本件の教訓とすれば、このような場合であっても、税理士側としては、否認リスクがあることを依頼者側に説明して、その証拠を残しておくべきでした。

    依頼者とのやり取りはメールや意見書等の文書としてやり取りを残しておくことを普段から心がけてください。

    また、依頼者側が収入などの資料を出さない場合には、依頼者との委託契約を解約して、税務代理を行わないというのも選択肢の一つとして考えられるところです。

    3 まとめ

    本件は、依頼者側が収入などの資料を出さず、やむを得ず依頼者側の口頭の指示内容とおりに申告書を作成したというかなり特殊な事案です。
    しかしながら、日常的なやり取りをメールで残すことや、適切な資料を提供しない依頼者からの依頼を断るといった対策は、業務全般にわたって有効なものです。
    依頼者の要望に全て応えようとしないという姿勢も大事であるということを頭の片隅においていただけるとよろしいかと存じます。

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