遺言事項(相続分の指定、遺産分割方法の指定、遺贈、相続させる旨の遺言など)の総論〜遺言の法務と税務④〜
今回からは、遺言事項について、解説したいと思います。この遺言事項の理解が、相続税申告には必要になりますし、税理士の先生からよく質問を受ける部分なので、数回にわたり、詳しく書きたいと思います。今回は、総論的な記事です。
【目次】
1 遺言事項とは?
遺言の内容は、遺言者が何でも自由にできるというように考えられがちですが、遺言は、贈与などの契約とは異なり、一方的に相続人等遺言者以外の人の権利関係を定めてしまうものですので、無制限に認められるものではありません。
つまり、遺言で定めることができる(厳密には定めて効力が発生する)ものは、法律により許されている事項に限られます。
2 遺言事項の内容
それでは、以下、法律上規定されている遺言事項について見ていきたいと思います。
2.1 特定の財産取得や相続分に関わるもの
まず、遺言事項を考えるにあたり、最も重要になるのが、財産を誰に取得させるか、誰がどれだけの相続分を持つのか?という相続財産の帰趨に関するものです。主なものとして、「相続分の指定」、「遺産分割方法の指定」、「遺贈」の3つが挙げられます。そして、それ以外に遺言の実務の混乱させているといわれる「相続させる旨」の遺言があります。
この4つには、その他にも詳細な論点があります。そのあたりは、今後の記事で記載しますので、今回は概要を説明します。
① 相続分の指定
(遺言による相続分の指定)
民法第902条 被相続人は、前2条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。ただし、被相続人又は第三者は、遺留分に関する規定に違反することができない。
2 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前2条の規定により定める。
相続分の指定は、特定の財産を誰に移転させるのかというようなものではなく、法定相続分の割合と異なった割合で相続分を定めることを言います。
例えば、「相続人Aに遺産の50%、相続人Bに30%、相続人Cに20%を与える。」というような内容です。
このような遺言がなされると、相続人の間では、相続財産に金銭債務がある場合には、その負担割合についても、この指定された割合になります。
なお、「Aに遺産の60%を与える。」などの遺言がなされることが稀にありますが、このような場合には、残りの40%の相続分について、Aを含めて法定相続人で、法定相続分で割るのか、それともAを含めない残りの法定相続人で、法定相続分を割るのかという争いになりやすいですので、しっかりと全体を指定することがポイントかと思います。
② 基本型の遺産分割方法の指定
(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)
民法第908条 被相続人は、遺言で、遺産の分割の方法を定め、若しくはこれを定めることを第三者に委託し、又は相続開始の時から五年を超えない期間を定めて、遺産の分割を禁ずることができる。
こちらは、相続人間で遺産分割協議が行われることを前提として、分割の方法(現物分割・換価分割・代償分割等の遺産分割の手段)を定めて、遺言で指定するものです。基本的には、遺言によって当然に個々の物や権利が各共同相続人に移転するわけではなく、遺産分割協議の成立により財産は、相続時に遡って移転することになります。
ただし、原則としては、そのように言われるのですが、下記の「相続させる旨」の遺言も、この遺産分割方法の指定として、有効と判断されており、その場合には、遺産分割協議等を必要とせず、相続開始時に特定の遺産を特定の相続人に移転させるものとされています。こちらの場合は、特殊型の遺産分割方法の指定などと呼ばれます。
③ 遺贈
(包括遺贈及び特定遺贈)
民法第964条 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。
遺贈には、2つの種類があります。特定遺贈と包括遺贈と呼ばれるものです。
特定遺贈は、「特定の財産」に対して、全部または割合を示して、遺贈するものです。この場合、特定の財産の所有権などが受遺者に移転します。
包括遺贈は、遺産の全部・全体に対する配分割合を示して、遺贈するものになります。
「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」(民法991条)ものとして扱われることになります。
④ 相続させる旨の遺言(特定財産承継遺言)_特殊型の遺産分割方法の指定
こちらについては、明確に遺言事項として、何に当たるのかという点が、実は明らかではありません。ただし、実務上は長期に渡ってこの「相続させる」旨の遺言が利用されてきており、その意味をどのように考えるのかについて、従来から激しい対立がありました。下記の判例がその法的意味を明らかにしたものとして有名です。
- 最高裁平成3年4月19日(太字部分と下線:筆者)
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◯遺産分割方法の指定なのか、遺贈なのか
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである。◯相続させる旨の遺言の効果
特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。
また、下記の判例のように、相続させる遺言は、相続分の指定も伴う解釈がなされるケースもありますので、相続税申告を行う場合の債務控除などの取り扱いに注意が必要です。
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最高裁平成21年3月24日(下線:筆者)
- 本件のように,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である
2.2 その他
その他の事項については、以下のものなどがあります。
認知(781条2項),未成年者の後見人指定(839条)と後見監督人の指定(848条)相続人の排除(893条)とその取消(894条2項),相続分指定の委託(902条),遺産分割の禁止(908条),担保責任の指定(914条),遺言執行者の指定とその委託,遺留分減殺の順序・割合の指定(1034条但書)(祭祀主催者の指定(897条1項)と持戻免除の意思表示(903条3項)も解釈で認められる)。
◯民法以外に定められたの行為
信託の設定(信託法3条2号),保険金受取人の変更(保険法44条),一般社団法人の設立(一般法人法152条2項)
税理士の先生には、保険金受取人の変更などが馴染みが深いかもしれません。
3 まとめ
以上が、法律上に規定がある遺言事項になります。例えば、一人にすべての財産を与えて、その他の一人にすべての債務を負わせるというような「債務」についての遺言は、遺言事項には含まれていませんので、その有効性に注意が必要です。
また、遺言の内容・解釈により、どのような遺言事項に当たると解釈されるかで相続税申告の内容も変わってくる部分がありますので、税理士の先生は、是非ご確認いただけますと幸いです。
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