相続放棄をする際の税務上の注意点
前回、法務的な相続放棄の効果・方法とその注意点についての記事を書きました。今回は、相続放棄をする場合の税務上の注意点を書きたいと思います。税理士の先生からすれば当然すぎる内容かもしれませんが、改めてご確認いただく趣旨も含めて書きたいと思います。
【目次】
1 相続放棄と相続税基礎控除額の計算
前回の記事でも説明した通り、民法上、相続放棄の効果として、相続放棄をした相続人は、続開始時(死亡時)にさかのぼって、初めから相続人ではなかったことにすることになります(民法939条)
とすると、相続税基礎控除の計算における人数(基礎控除額の計算方法はこちら)についても、当初からいないものと扱うというようになるのか。。。。とも考えられます。
しかし、相続「税」法上は、民法とは異なり、基礎控除額の相続人の数の計算においては、「相続放棄」がなかったものとして扱われます(相続税法15条2項本文)ので、ご注意ください。
つまり、法定相続人が、被相続人(死亡した人)の「配偶者」、「長男」、「次男」という場合に、「次男」が相続放棄をした場合であっても、基礎控除額の計算における相続人の数は、「配偶者」「長男」のみならず、相続放棄をした「次男」も含み、3人ということになります。
2 相続放棄とみなし相続財産関係
2.1 みなし相続財産とは
みなし相続財産とは、分かりやすく言うと民法上は「相続財産」に含まれない(被相続人の財産でない)ものであっても、被相続人が死亡したことを契機に相続人等が財産的価値を取得した場合で、そこで担税力を見出せるものは、特別に相続税法上は相続税計算の対象とするものです。相続税法第3条第1項各号に規定があり、
「退職手当金等」(2号)
「生命保険契約に関する権利」(3号)
「定期金に関する権利」(4号)
「保証期間付きの定期金に関する権利(5号)
「契約に基づかない定期金に関する権利(6号)
が規定されています。なお、これらに該当するかについては、相続税法第3条第1項各号の規定をお読みいただければと思います。
例えば、前回の記事でも、説明しました通り(「相続放棄の注意点 3.3生命保険金と死亡退職金」)、生命保険金や死亡退職金は、民法上、受取人が直接保険会社等に請求できる固有の権利になります。ただし、相続税法上の計算としては、みなし相続財産としてその対象となるということになります。
2.2 相続放棄と生命保険金等・退職金等の非課税規定の適用
相続税法は、「生命保険金等」や「退職手当金等」について、みなし相続財産として相続税計算の対象する旨定めているのは、上記の通りですが、この両者については、非課税枠というものを定めています(相続税法12条1項第5号、6号)。
2.2.1 非課税限度額の計算
具体的にいうと、「生命保険金等」や「退職手当金等」の非課税限度額は、
とされています。つまり、結局は、非課税限度額を超えた部分についてを相続財産とするということになります。
そして、相続放棄がある場合の法定相続人の人数についてですが、相続税法12条1項第5号イ、6号イが、上記の基礎控除の相続人の数の計算を定めた「15条2項に規定する相続人の数」としてます。したがって、相続放棄があった場合でも、この限度額の計算については、相続放棄をした者も1人と数えることになります。
2.2.2 取得者が相続放棄した者である場合
ただし、「保険金等」、「退職手当金等」を実際に受け取った者が、相続放棄をした場合、上記非課税規定は、「相続人の取得した」場合のものとなっています。少しわかりにくいですが、相続放棄をした者は、「相続人」では当初からなかったことになりますので、その者自身は、この非課税制度を利用することはできません。受け取った「保険金等」、「退職手当金等」については、遺贈により取得したものとして扱われますので、注意してください。
3 まとめ
以上が、相続放棄の際の、相続税法上の注意点となります。実務的によくやられる方法として、相続放棄の法的な手続きをするのではなく、遺産分割協議によって、特定の者が相続する財産を「0」とすることがあります。
この記事における法的な意味で「相続放棄」をした者についての記事になりますので注意してください。遺産分割により相続財産を取得しないとした場合では、上記の問題は出てきません。
また、相続放棄をすべきか、遺産分割で財産を取得しないとすべきかについて、税務上のメリットが異なってきますので、税理士の先生は相続放棄のルールをよくご理解いただいた上で、お客様にごアドバイスをいただければと思います。税金の部分だけでなく、事案ごとに相続全体のバランスをとりながら、対策等されることをお勧めします。
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