税理士が負う事実の調査・確認義務

さて、今回は、前回解説した税理士が負う善管注意義務の類型のうち、事実の調査・確認義務についてお話したいと思います。
 以下では、どんな事例で事実の調査・確認義務違反が問題となるのか、どのような事例で義務違反が認められているか、どのようなことを考慮して裁判所が事実の調査・確認義務違反を認めているのかという点を分析してみたいと思います。

 

1 裁判例等で争いになる場面

 もちろん、税理士の先生が、依頼者の説明や提出資料を勘違いしたり、誤解したりした場合も、事実の調査・確認義務の問題になります。
 ただし、税理士賠償請求事案における裁判例で争いになることが多いのは、税理士の先生が「依頼者からの説明・提供資料にのみ依拠して、それ以上の調査・確認をしなかった場面」になります。

 

2 肯定例と否定例

 さて、では、どのような場合に実際の裁判所が事実の調査・確認義務違反を認めているのか見てみましょう。ここでは、一旦肯定例・否定例の紹介をしまして、「3」以降で分析してみたいと思います。

2.1 肯定された例

 まずは、肯定された例です。ここでは依頼者の説明や資料をもとに依拠して、税理士業務を行ったということを前提にしています。

①所得税事例
個人賃貸業を営む依頼者から、継続的に確定申告書等の作成業務を受任してた税理士が、依頼者から提供を受けた資料に不動産賃貸業であれば、通常は生じる礼金等が含まれていなかったが、その有無を確認することなく申告書を作成・提出した事例
②相続税事例
被相続人の海外における固定資産税に関する資料を受け取ったことがある税理士が、被相続人の海外資産については、依頼者(相続人)から何の説明等もなかったため、海外資産については、調査・確認することなく相続税申告書を作成・提出した事例

2.2 否定された例

 次に、否定された例です。

③所得税事例
 依頼者から、節税指導及び申告手続きを受任した税理士が、既に事業用資産買換特例の対象とされていた建物であることに気付かず、買換特例を適用すべき旨説明し、その回答に基づき依頼者が買換えを行い損害が生じた事例
 税理士は、過去に当該建物を譲渡した事実及び不動産譲渡関係資料の有無を確認したところ、依頼者は譲渡の事実も資料もない旨回答していた。

 この事例では、依頼者から、課税庁まで出向いて過去の申告歴等まで調査する義務があったとして訴えられましたが、裁判所は、税理士にはそこまでの義務はないとしました。

 

3 裁判所の考慮している事項の分析

 上に挙げた裁判例以外の裁判例(TAINSに掲載のある約30年分)も含めて、分析したところ、事実の調査・確認義務違反を裁判所が認めるか否かという点についての考慮していると思われる事情をまとめると以下のようになるかと思います。

① 委任契約の対象事項の範囲が限定されているか
② 依頼者の資料提供の不備等で、適正な申告を実施できないおそれの程度
③ 依頼者の説明・提供資料に不備があることを推測させる事情について、税理士が認識していたか、または、どの程度容易に推認可能であったか
④ 依頼者に対して、説明及び資料の提出を求めていた程度
⑤ 依頼者にかかる不利益の程度

① 委任契約の対象事項の範囲

 前回の記事でもご紹介した通り、税理士さんが負う善管注意義務の対象は、具体的に委任を受けた事項及びそれに付随する事項になります。
 事実の調査・確認義務では、この「付随する事項」に違反するか否かが問題となりますが、あくまでも「委任を受けた事項」に「付随する事項」が対象となりますので、顧問契約書で委任の範囲を明確にしておくことが重要となります。

② 依頼者の資料提供の不備等で、適正な申告を実施できないおそれの程度

 つまりは、依頼者側の説明や資料の提供の不備が、税務申告等に必要がある情報に関するものであればあるほど、税理士の先生はしっかりと調査・確認する義務があるとされる傾向にあります。

 上記「2.1 肯定された例の①所得税事例」では、不動産賃貸業であれば通常は生じる礼金等は税務申告の収入金額に当然インパクトを与えるところですので、この点が考慮されています。
 また、「肯定された例の②相続税事例」においても、上記には表記していませんが、海外財産額が大きかったため、この点も考慮されています。

③ 依頼者の説明・提供資料に不備があることを推測させる事情について、税理士が認識していたか、または、どの程度容易に推認可能であったか

 税理士の先生としては、依頼者の説明や提供資料に不備があることを知っていれば当然それを調査・確認しなければなりませんし、簡単に不備があることがわかるような事項であれば、その不備に気がついて、しっかりと調査・確認しなければならないということになります。

 上記「2.1 肯定された例の①所得税事例」では、継続的に申告をしていたこと、不動産賃貸業であれば礼金等は当然生じるものであり、資料にその記載が漏れていることは、税理士であれば容易に認識できるでしょうということで、肯定されました。
 また、「肯定された例の②相続税事例」でも、過去に被相続人の固定資産税に関する資料を受け取ったことがあったので、依頼者の説明に不備があることは容易に推認できたとされています。

 一方で、「2.2 否定された例の③所得税事例」では、継続的な申告はしていなかった点がありました。

④ 依頼者に対して、説明及び資料の提出を求めていた程度

 ここは当たり前かもしれませんが、依頼者の説明や提出資料に不備があったとしても、依頼者のすべてのことを知ることは不可能です。ですので、ある程度しっかりと依頼者に対して、説明や資料の提出を求めていれば、事実の調査・確認義務違反はなかった方向に働きます。この部分は、顧問契約書にしっかりと書いた方が良いでしょう。

 例えば、「2.1 肯定された例」では、依頼者の説明や提出資料をそのまま調査・確認をとらずに申告に利用していました(厳密には、調査や確認をしたことの証拠がなかった)。

 一方で、「2.2 否定された例の③所得税事例」では、税理士の先生は、過去に当該建物を譲渡した事実及び不動産譲渡関係資料の有無を確認したところ、依頼者は譲渡の事実も資料もない旨回答を得ており、ある程度しっかりと説明や資料の不備がないか確認していました。その中で、裁判所は課税庁まで出向いて過去の申告歴等まで調査する義務まではないと判断したのです。

⑤ 依頼者にかかる不利益の程度

 ここについては、裁判所の判決文等では、事実認定として、正面からは考慮していないようには見えますが、現実論として、裁判官は、心の中で(?)依頼者に不利益が大きい事項であれば、より事実の調査・確認義務違反を認める傾向があるかと思われます。

 

4 まとめ

 以上が、税理士の先生が負う善管注意義務の類型としての「事実の調査・確認義務」についての解説です。
 この考慮要素等を前提として、顧問契約書にどのような記載をすべきか、普段の業務の中でどのような点に注意したら良いか等については、今後、当サイトで記事にしていきたいと思っておりますので、そのあたりも是非参考になさってください。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、100名以上の税理士の先生が会員となっている「メーリングリスト法律相談会」を運営し、日々税理士の先生の法律相談を受けている。そのほか、税理士に役立つ情報を配信する無料メルマガの運営も行っていますので、ぜひご登録ください。登録はこちらからどうぞ

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