相続の開始〜「死亡」とは〜

 さて、前回からは相続についての記事を書いています。今回は相続の開始につい書きたいと思います。

 相続は何によって開始するかというと、民法に規定があります。

(相続開始の原因)
民法第882条  相続は、死亡によって開始する。

となっております。相続は人の「死亡」により開始することになります。
一度、この「死亡」とはどんな場合をいうのかをご確認ください。

1 自然死

 まず、最もオーソドックスなものから見ていきましょう。

1.1 自然死とは

 これについては、特に問題なく感覚的にお分かりと存じます。病気や事故、寿命等で人が亡くなった時を言います。
事実上は、医師等により死亡が確認されたことになります。この事実は、医師等の診断書から戸籍に記載されています(戸籍法86条)。

 なお、昨今では、「脳死」等の場合について議論はありますが、税理士業務を行う際に問題になるケースは稀だと思いますので、ここでは詳細は省略します。

1.2 相続開始時期

 自然死の場合の相続開始時期ですが、上記の民法882条から実際の「死亡時」となります。
実務上は、上記の医師等の診断書に記載された死亡日時を持って、相続の開始とされます。

2 失踪宣告

 次に自然死以外の場合に、相続の開始原因となる「死亡」とされる場合を見ていきたいと思います。まずは、「失踪宣告」という制度が民法上定められています。

(失踪の宣告)
第30条  不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。
2  戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。

(失踪の宣告の効力)
第31条  前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。

2.1 失踪宣告とは

1 普通失踪(民法30条1項)
 従来の住所または居所を去った者(不在者)が生死不明となった場合に、その状態が7年間継続した時に、家庭裁判所は、利害関係人の請求に応じて、失踪宣告をすることになります。これによって、その不在者は、死亡したものとみなされます。

2 特別失踪(民法30条2項)
 戦争に行った人や沈没船に乗っていた人等の死亡の原因となる危難に遭遇した人の生死が、その危難が去った後、1年間明らかにならない時に、家庭裁判所は、利害関係人の請求に応じて、失踪宣告をすることになります。これによって、その危難に遭遇した者は、死亡したものとみなされます。

2.2 相続の開始時期

 1 普通失踪・・・生死不明の状態となってから、7年が満了した時点
 2 特別失踪・・・危難が去った時点

で、民法31条により「死亡したもの」とみなされますので、その時点から相続が開始したということになります。

3 認定死亡

 次に、認定死亡というものがあります。

3.1 認定死亡とは

 水難や火災等の風水害により死亡した事実が確実視される場合に、死体の確認に至らなくても、その取調べをした官公署が死亡地の市町村長に死亡を報告し、それに基づいて戸籍に死亡を記載する制度です。この官公署の報告には、医師等の診断書や検案書が添付されて、死亡についての情報が載ります。
 ただし、この認定死亡は、あくまでも、行政手続上の便宜的な取扱いですので、生きている証拠が見つかれば当然に効力を失うことになります。この点が、失踪宣告とは違うところです。

3.2 相続開始時期

 相続の開始時期は、死亡した時ですが、実務上、報告に添付されている医師等の診断書に記載されている死亡日時を持って相続が開始したものとして扱います。

4 まとめ 

 以上が、相続の開始原因となる人の「死亡」があったといえる場合とその相続開始時期になります。
 今一度ご確認いただければ幸いです。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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