共有(準共有)の法務

 最近の2回の記事では、物権の種類について見てきました。所有権と用益物権に関する記事担保物権に関する記事はこちらになります。

 今回は、税理士の先生もよく遭遇すると思われますが、「共有(準共有)」についての記事を書きたいと思います。今回は、民法の視点から書きたいと思います。

1 共有とは!?

 一つの物の上に共同で所有権を有することをいいます。なんだが当たり前の説明になってしまいますが、税理士の先生には説明するまでないかもしれません。共同で所有権を有すると言っても、それぞれに完全な所有権があるというわけではなく、それぞれ「持分権」というものがあるという状態になります。例えば、夫婦で金銭を出し合って、1個の建物を買ったという場合に、夫と嫁がそれぞれ持分権を有することになり、これを「共有」と呼んでいますよね。
 なお、共有と一緒に並べられる「準」共有ですが、これは、所有権以外の物権や株式等の財産権を共有している場合にそのように呼ばれるものです。原則として、共有と同じ規律がされることになります。

 

2 持分権とは!?

 上で見た「持分権」について、より詳しく見ていきましょう。
 「持分権」とは、各共有者が共有物に対して有する権利で、その効力は共有物全体に及ぶといわれます。その意味はあとの「共有物の利用」を見ていただきたいと思いますが、例えば土地であれば、物理的にどこからどこまでがある共有者の土地で、どこからどこまでがある共有者の土地等ということではなく、あくまで、物全体に対して、持分権を有しているということになります。

2.1 持分割合

 持分割合は、各共有者が共有物に対して有する持分権の割合をいいます。この割合は、共有者間の合意や法律の規定により決まりますが、それで決まらない場合には、持分割合は共有者全員が等しいものと推定されます。

(共有持分の割合の推定)
第250条  各共有者の持分は、相等しいものと推定する。

例えば、遺言や遺産分割がある場合を除き、相続によって相続人間で共有状態となった場合は、持分が等しくなるものとして、税務申告をすることになるのはこの規定によるからということになります。

2.2 持分権の放棄と共有者の死亡

(持分の放棄及び共有者の死亡)
第255条  共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。

 条文そのままですが、共有者が持分を放棄したり、死亡して相続人がいないときは、その共有物は、他の共有者に帰属することになります。このあたりは、税務とも関係する部分ですので、次回の「共有持分権放棄の課税関係」の記事で詳しく書きますが、この条文が関係するよということになりますので、ここで触れさせていただきました。

 

3 共有物の利用

 それでは、各共有者は、物全体に「持分権」を有するとはいっても、どのように物を利用することができるのか。共有物の利用規律を見ていきましょう。

3.1 共有物の使用

(共有物の使用)
第249条  各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。

 共有物の「全部」について、その「持分に応じた」使用とは何を言うのか難しいところです。
 この意味するところとしては、基本的には共有者間の協議により、共有物の使用ができると言われます。
 ただし、共有者間で協議がない場合には、一人の共有者が物の全てを利用していたとしても、当然にはその物の引渡し等を請求できるわけではない点に注意が必要です。各共有者は、共有物の「全部」を使用することができるとされているからと説明されます。

3.2 共有物の管理・保存

(共有物の管理)
第252条  共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

 共有物の管理に属する事項は各共有者の持分の価格により、その河畔するで決定するとされています。この「管理」の意味ですが、共有物の変更に至らない程度の利用または改良行為をいうとされています。
 抽象的でわかり難いので、具体例を挙げると、共有物について賃貸借や使用貸借などの利用契約締結やこれらの契約を解除すること等は管理行為にあたるとされています。なお、「借地権」の設定については、その強力さ故に制限物権の設定と同様に処分行為と解するべきという議論も強いので、注意してください。 

 一方で、この条文の「ただし」以下の「保存行為」にあたる行為は、各共有者が単独で行うことができるとされています。
ここでいう「保存行為」とは、財産の現状ないし価値を維持する行為とされており、例を挙げると目的物の修繕、公租公課の支払、不法占有者への明渡請求等があります。

 管理行為である改良と保存行為である修繕は、資本的支出と修繕費の区別と似たような議論になります。

3.3 共有物の変更

(共有物の変更)
第251条  各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

共有物の管理行為を超えて、「変更」と評価される場合には、他の共有者の同意が必要となります。
これには、物理的に共有物を変化させること(山林の伐採や田畑を宅地に変える等)や共有物を法律的に処分すること(共有物全部の売却や制限物権の設定等)も含まれます。

3.4 株式の議決権行使

 税理士の先生も頻繁に遭遇するケースとして、株式は、相続が生じた場合に準共有状態になります。そこで、株式の議決権行使が上記の行為のうち何に当たるのかをちょっと紹介します。
 この点について、判例は、これを「管理行為」に当たると考えています。

 最高裁平成27年2月19日判決
 共有に属する株式についての議決権の行使は,当該議決権の行使をもっ て直ちに株式を処分し,又は株式の内容を変更することになるなど特段の事情のな い限り,株式の管理に関する行為として,民法252条本文により,各共有者の持分の価格に従い,その過半数で決せられるものと解するのが相当である。

 

4 共有物の分割

 さて、共有の法務に関する記事の最後に共有の解消方法である「分割」について書きたいと思います。

(共有物の分割請求)
第256条  各共有者は、いつでも共有物の分割を請求することができる。ただし、五年を超えない期間内は分割をしない旨の契約をすることを妨げない。
2  前項ただし書の契約は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から五年を超えることができない。 

 各共有者は、原則として、いつでも共有物の分割を他の共有者に請求することができます。

 分割の効果としては、共有関係の消滅ですが、それに遡及効(当初から共有でなかったことになる効果)はなく、分割の時から共有者は取得した部分について単独所有者になります。これは、遺産分割に遡及効があることとの大きな違いと言えるでしょう(民法909条)。
 以下、簡単に分割の手続きと方法について見ていきましょう。

(裁判による共有物の分割)
第258条  共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。
2  前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

4.1 協議による分割

 上記の民法258条の通り、共有物の分割は、まず共有者の協議によって行うことになります。「協議が調わないとき」は裁判できるとなっているからです。
 協議による分割の場合、共有者全員の協議がまとめるのであれば、特段分割方法に制限はありません。
 主なものとしては、①土地等を共有者の数だけ分けて、1筆ずつ取得するようにする現物分割、②土地等を第三者に販売してその代金を各共有者で分ける換価分割、③共有者の1人が共有物を単独所有して、そのほかの共有者に金銭を支払う代償分割があります。このあたりは、税務判断にも影響を及ぼすところですし、遺産分割でも同じ議論がありますよね。今回の記事は「法務」ということで、方法について抑えていただければと思います。

4.2 裁判による分割

 上記の民法258条の請求となりますが、これは共有物分割の訴えと呼ばれる裁判になります。上記の通り、「協議が調わないとき」にできるのですが、これは共有者全員で協議し不調に終わった場合のみならず、共有者の一人が協議に応じないため全員で協議できない場合も含まれるとされてます。
 裁判による分割の場合、分割方法は、原則として「現物分割」になります。ただし、上記民法258条第2項の通り、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命じ、代金が分割される(ある種の換価分割)ことになります。

 ただし、最近では、柔軟に処理する判例も増えてきています。ですので、裁判による分割だからといって簡単に諦める必要はないでしょう。

 

5 まとめ

 以上が、共有に関する「法務」的な話になります。次回以降、共有に関する「税務」について書きたいと思います。具体的には、共有持分権の放棄についての課税関係共有物の分割の課税関係について書きたいと思いますので、ご参考にしていただけると嬉しいです。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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