憲法?税法?民法?〜法律の体系とは〜

 こんにちは。今回は税理士の先生が普段扱っている「税法」を含めて、法律とはどのような体系になっているのかというお話をしたいと思います。
 

1 法体系の王様:憲法

 まず、すべての法律の王様となるのは、税理士の先生もご存知の「憲法」です。
すべての法律は、この憲法に違反することはできません。憲法の基本は、国を縛るものですので、憲法上の権利を侵害する立法行為(法律)や行政対応は、許されません。

 これを税理士の先生の馴染みの深いいわゆる「税法」分野について説明すると、
 国民が支払う税金について規制する、いわゆる「税法」や実際の行政の徴収行為は、国民から金銭を徴収するですから、「財産権」に一定の制約をするものです。
ですので、「憲法」は、特にその点について定めを置いています。

憲法
第84条  あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。 

みなさまご存知の「租税法律主義」ですね。

この規定は、何がいいたいかというと、

○租税賦課行為は、国民の権利である「財産権」を制約するものである。
○とすれば、行政が恣意的にこの行為をすれば、「財産権」を侵害することになる。
○だから、国民(主権者)がきっちり選挙で選んだ国民の代表である国会によって、国民の意思による多数決原理の下で作られた「法律」によらなければ、租税賦課行為は行ってはいけません。

ということをいっています。

ですので、この憲法の規定により、国税通則法、各税法は作られています。 
 

2 公法と私法

法律の体系のうち、その規律対象(Who)を区分する機能を持つもので、法律学上「公法」と「私法」という区分が存在します。

2.1 公法と私法の説明

両者の違いは、

公法・・・国や公共団体等の公的機関と私人(個人や企業等)を規律する法律
     例:憲法、租税法等の行政関連法
私法・・・私人と私人との関係を規律する法律
     例:民法、商法、会社法

ということで、私人と私人を規律するのか、公的機関と私人を規律するのかという点です。

2.2 税法でいうと?

 税理士の先生方の馴染みの「税法」は、行政と私人である納税者についての規律となりますので、「公法」ということになります。

3 実体法と手続法

次に、法律体系のうち、「実体法」と「手続法」という区分があります。

3.1 実体法と手続法の説明

両者の違いは、

実体法・・・法律関係それ自体の内容を定める法律 
      例:民法、商法、刑法等
手続法・・・実体法が定める法律関係を実現するための手続を定める法律
      例:民事訴訟法、刑事訴訟法、行政不服審査法、行政事件訴訟法等

ということで、法律関係(例えば、「お金を返してくれという権利」)が生じる要件を定めたものが、「実体法」で、その法律関係(お金を返してくれという権利)を実現するための手続(裁判等)について定めたものが「手続法」ということになります。

3.2 税法でいうと?

 これを税法でいうと、少しややこしいのですが、
所得税法で、納税者にどのような納税義務(法律関係)が生じるかということが定められている部分(所得分類の規定等)が「実体法」で、
その納税義務をどのように果たすのか、または国の処分を争うのかを定めた国税通則法の部分や徴収するための手続を定めた国税徴収法が「手続法」
ということになります。

  

4 一般法と特別法

さらに、法律体系のうち「一般法」と「特別法」という区分があります。

4.1 一般法と特別法の説明

これは、規制対象領域が同一のもので、それぞれ違う定めをしているというものをいいます。これは相対的なものとなります。抽象的な説明だと理解しにくいので具体例を挙げて説明します。

一般法・・・ある法領域において、より広い規定をしているもの
特別法・・・一般法と同一の法領域内の一部について、一般法が規定していない事項や一般法と異なる事項を規定しているもの

をいいます。

上の私法の例でいうと、民法が私人と私人を規律する最も大きな法律(一般法)です。ただし、私人と私人を規律する法律でも、
「私人」が株式会社の場合には、会社法の定めで、特別な手続(取締役会の承認等)が必要となる場合があります。
この部分を見て、民法と会社法の関係が、一般法と特別法の関係にあるされます。

これ以外に私法で例を言うと

民法と借地借家法、民法と商法、民法と消費者契約法、民法と労働契約法律

等があります。

4.2 税法でいうと?

 税法の例でいうと、例えば、税務訴訟をする場合、これは行政訴訟なので、行政事件訴訟法という法律がその手続や要件について定めています。

しかし、国税通則法は、その「第8章 第2節」において、国税に関する法律に基づく処分については、行政事件訴訟法に加えて、
不服申立てを事前にしなければ訴訟提起できないですよと定めてます(通則法115条)。

つまり、行政訴訟という範囲内では、一般法である行政事件訴訟法が適用になるのですが、国税通則法という特別法がその行政事件訴訟法の領域のうち「国税」に関するものについては、適用されて、訴訟提起できる要件が増えますよというふうに言っているのです。

4.3 一般法と特別法の関係

では、この一般法と特別法の関係をいうと、

特別法は、一般法を破る!!

というルールがあります。

 特別法は、上記を見ていただいてもわかるように、一般法が定めた法領域(「行政事件」)について、特殊性があるより狭い法領域(「国税に関する事件」)について、政策性の観点から別の規定を置いたものなので、そのより狭い領域については、特別法の適用が優先するということになります・ 
 

5 まとめ

 このように、法律は、その機能によって分類されます。
ややこしい分類もありますが、法律を理解するには、どれもその前提として知っておかなければならない事項になりますので、ご理解いただき、何かのお役に立てていだだければ幸いです。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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