非税理士に対する名義貸しとは?

 最近、税理士さんから税理士法に関する質問を受けることも多いので、今回は、質問に対する回答という形というこのサイトでは、初の形式で税理士法について書きたいと思います。
 主なテーマは「名義貸し」になるのですが、法律の条文の読み方を学ぶという点でも良い題材かと思うので、ちょっとくどくなりますが、条文の読み方の解説も含めて書きたいと思います。また、盲点になる日税連会則等についても書きたいと思います。

 

1 税理士の先生からの質問

 ◯Aさんは、長年、会計事務所(税理士ではない)に勤務していた。
 ◯現在Aさんは、5社の会社の経理のパートを掛け持ちしている。
 ◯Aさんは自身の負担で会計ソフトや税務ソフトを購入しており、各社税務申告書まで作成
 ◯5社の会社から税務申告料として、税理士報酬を受け取る予定

 質問:このようにAさんにより作成された申告書を確認して署名・押印し、申告代理をすることは、税理士法上問題がないのか?

 

2 税理士法上の問題点1〜名義貸し〜

 この質問で、税理士の先生は、「名義貸し」(税理士法37条の2)を思いついた方が多いと思います。法律を読みこなすという意味も込めて、「名義貸し」にあたる場合はどのような場合なのか条文の流れも含めて、今回の事例はどのように判断される可能性が高いのかという点を解説します。

(非税理士に対する名義貸しの禁止)
税理士法第37条の2  税理士は、第52条又は第53条第1項から第3項までの規定に違反する者に自己の名義を利用させてはならない。

 条文上は、このような規定になっています。つまり、①「第52条又は第53条第1項から第3項までの規定に違反する者」に対して、②「自己の名義を利用」させる行為が、違法な名義貸しになるということです。以下、より具体的に各要件を見ていきましょう。

2.1 ①「第52条又は第53条第1項から第3項までの規定に違反する者」とは!?

 それでは、まず①の要件を見ていきましょう。「法律の読み方→今回の事例へのあてはめ」という流れで見ていきましょう。

法律の読み方

(税理士業務の制限)
税理士法第52条  税理士又は税理士法人でない者は、この法律に別段の定めがある場合を除くほか、税理士業務を行つてはならない。

 ①「第52条〜の規定に違反する者」とは何かというと、このような規定があります。つまり、①の要件は「税理士または税理士法人でないにもかかわらず、税理士業務を行っている者」ということになります(53条や別段の定めがある場合の説明は便宜上省略します)。

 次に、①の要件は「税理士または税理士法人でないにもかかわらず、税理士業務を行っている者」にいう「税理士業務」とは何か?という話になるわけです。

(税理士の業務)
第2条  税理士は、他人の求めに応じ、租税(・・・省略・・・)に関し、次に掲げる事務を行うことを業とする。
一  税務代理(・・・省略・・・)
二  税務書類の作成(・・・省略・・・)
三  税務相談(・・・省略・・・)
2 税理士は、前項に規定する業務(以下「税理士業務」という。)のほか、税理士の名称を用いて、他人の求めに応じ、税理士業務に付随して、財務書類の作成、会計帳簿の記帳の代行その他財務に関する事務を業として行うことができる。ただし、・・・省略・・・
3 ・・・省略・・・

 この第2条2項を見ていただくと、「税理士業務」というものが登場しています。つまり、第2条2項から見て、「前項」つまり第1項に規定のある業務が税理士業務にあたるということです。
 つまり、

ⅰ「他人の求めに応じ」かつ「業」として

ⅱ・税務代理
 ・税務書類の作成
 ・税務相談
   のいずれかの行為を行うこと

 が「税理士業務」にあたるということです。
 上記の①の要件「税理士または税理士法人でないにもかかわらず、税理士業務を行っている者」→「税理士または税理士法人ではないのにもかかわらず、「他人の求めに応じ」かつ「業」として、税務代理、税務書類の作成または税務相談を行っている者」ということになります。

 ここまでを、まとめると名義貸し①の要件は、

①「税理士または税理士法人ではないのにもかかわらず、「他人の求めに応じ」かつ「業」として、税務代理、税務書類の作成または税務相談を行っている者」

ということになります。つまりは、一般的にいうところの非税行為をしている者をいいます。

今回のあてはめ

 法律の読み方が長くなってしまいましたが、以上を前提に今回の質問を見ていきましょう。

 まず、Aさんは税理士でも税理士法人でもないにもかかわらず、税務書類である税務申告書を作成していることは間違いないでしょう。

 ただし、形式上は、Aさんはパートとして、各社に雇われているということですので、「他人の求めに応じ」ではなく、あくまでも各会社の使用人が「自己の」行為として行なっているとして、①の要件を充足せず、①の要件には該当しないのではないかとも思われます。

 しかし、この「他人の求めに応じ」て、というのは単なる契約書の形式ではなく実質的に判断されるところだと考えられます。
 5社を掛け持ちしており、さらに自己の負担(普通雇われている人は自分で購入しない。)で税務ソフトを購入して、申告書の作成行為をしているということですと、実質的には、税理士の先生しか行えない「他人の求めに応じ」ていると法的には判断される可能性が極めてに高いと考えられます。
 なお、「業」としてとは、各行為を反復・継続して行う意思があるものをいい、複数社にわたり行っていれば、この要件も充足するでしょう。

 以上から、Aさんは①の要件を充足するでしょう。

2.2 ②「自己の名義を利用させ」とは!?

 次に、②の要件を見ていきましょう。こちらも「法律の読み方→今回の事例へのあてはめ」という流れで見ていきます。

 Aさんが、①の要件を満たす者だとしても、次に税理士の先生が、非税行為を行うAさんに対して「自己の名義を利用させ」たといえなければ、名義貸しとはいえません。

法律の読み方

 それでは、この「自己の名義を利用させた」とはどのようなケースを想定しているのでしょうか。この名義貸しに当たるか否かについても、事情から総合的に判断でしていくことになります。つまりは、非税行為を表面上適法なもののように見せる行為と評価できる場合には、「自己の名義を利用させ」たと評価されると考えられるでしょう。これまでの懲戒事例等を見ていくと概ね以下の要素が重要となるかと思われます。

 ・税理士が自らの判断で申告書を作成しているか
 ・納税者から直接業務の委託を受けているか
 ・報酬を直接税理士が受け取っているか
 ・税理士の先生の非税行為に対する認識
 ・非税行為への関与の程度etc

あくまでも、これらの事情を総合的に考慮することになりますので、1つが問題がないからといって適法になるというものではないのでご注意ください。

今回のあてはめ

 今回のご質問では、各会社から税務申告料として、税理士報酬を受け取る予定であるということですので、会社から直接業務の委託を受けていることや報酬を税理士が直接受け取っているといえるかと思います。これは、「名義を利用させ」たとはいえない方向に働く事実かと思います。
 しかし、今回は、税理士の先生は、申告書の確認はするものの基本的には、Aさんが作成したものに署名・押印するということですので、「自らの判断で」作成したとは言い難いところがあります。また、Aさんの非税行為(非税行為に当たるという法的評価ではなく、Aさんが複数社にわたり申告書を作成していたという事実)を認識しています。さらにこの税理士の先生は、Aさんが税務申告書を作成している5社の会社全てにおいて、署名・押印及び申告をするということですから、非税行為への関与の程度は非常に強いということになります。

 以上の事情を勘案すると、今回の事例では、「名義を利用させ」たと評価される可能性が非常に高いと思われます。

 

3 税理士法上の問題点2〜会則違反(税理士法39条)〜

 税理士の先生は、日税連や各税理士会に所属しており、各々各種内部規則が存在します。
そして、税理士法39条は、税理士の先生が会則を守る義務を負うと定めております。ですので、会則違反は、税理士法39条違反の行為ということになってしまいます。以下では、今回の質問に関連するであろう会則を見ていきたいと思います。

3.1 日税連会則

(非税理士との提携の禁止)
日税連会則第61条 税理士及び税理士法人は、法第52条又は法第53条第1項若しくは第2項の規定に違反する者から業務のあっ旋を受けてはならない

 上記の名義貸しの法律の読み方を見ていただければ、お分りかと思いますが、この会則違反の要件は、①非税行為をしている者から、②「業務のあっ旋」を受けることということになります。
 今回の事例でいうと、上記の通り、Aさんの行為は非税行為にあたると考えられるので、①の要件を満たします。また、Aさんは、自分が税務申告書を作成している全ての会社について、依頼者と税理士さんの間の申告②業務をあっ旋していると評価できるのでしょう。

 したがって、この行為は、日税連会則違反行為ということなり、税理士法39条に違反するということになります。

3.2 各税理士会則

 これは、すべての税理士会に全く同じ規定があるわけではないのですが、基本的には同趣旨の規定が入っている会が多いです。
各先生方所属の税理士会の会則をご確認頂ければと思います。

〇〇税理士会会則
(非税理士との関連排除)
第〇〇条 会員は、直接であると間接であると又は有償であると無償であるとを問わず、法第52(非税行為の規定)条又は法第53条第1項若しくは第2項の規定に違反する者又はその疑いのある者と次の関係を結んではならない。
(1)税理士業務を行うための事務所を共同使用し又は賃貸借すること。
(2)業務上のあっ旋を受け、又は紹介すること。
(3)実質上の使用人となり、又は雇用すること。
(4)業務を代理し、又は業務に関与すること。
(5)業務上の便宜を与えること。

 今回の事例では、Aさんは非税行為(少なくともその疑いがある)をしている者と言えるでしょう。また、(2)の業務上「あっ旋」を受けているとも評価できるでしょうし、少なくとも、(4)「業務に関与すること」と言えるでしょう。
 したがって、このような規定が所属税理士会に存在する場合には、会則違反であり、税理士法39条に違反するとされてしまいます。

 

4 まとめ

 以上が、名義貸しに関連する質問に対する回答になります。この事例は、事実認定を含む判断になる難しい事例にはなりますが、法的にはこのように判断される
リスクが非常に高い行為かと思われます。ですので、このような事例事態に関与しないということが対策になるかと思います。
 ただ、この事案よりも微妙な事案(名義貸し等に該当しなさそう)で、どうしても受任しなければならない場合でも、税務申告書等の税務書類については、Aさんの立場にある人からは一切受け取らず、会計書類のみ受けとり、税理士の先生の方で、税務申告書を自己の判断で作成し、申告すべきでしょう。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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