税理士が負う「説明・助言義務」

さて、今回は、税理士の先生が負う善管注意義務の類型の中でも、説明・助言義務について書きたいと思います(善管注意義務の類型についてはこちらの記事)。お医者さんでいうところの「インフォームド・コンセント」ですね。依頼者に税務に関する専門的な情報等をしっかり提供し、依頼者が適切に判断(自己決定)できるようにする義務です。

 どんな場面で説明・助言義務違反が問題となるのか、どのような事例で説明・助言義務違反が認められるのか、どんなことを考慮して裁判所が義務違反を認めるのかについて、分析して行きましょう。
 

 

1 問題になる場面

 税理士の先生が、税務に関する説明を一切しなければ当然、説明・助言義務違反にはなるのですが、専門家である税理士の先生がそんなことはしないと思います。
 裁判例で、説明・助言義務が実際に問題になるのは、

 ○ 選択の余地のある税務処理をする場合
 ○ 否認リスクがある税務処理をする場合

です。
 前者は消費税の課税方式の選択の場面等です。また、後者は、通達通りの処理をしなかった場合等です。なお、通達は国税内部の基準に過ぎないので、通達通りの処理をしなかったから税賠になるとかそういう意味ではないですよ。状況に応じて、通達とは違う処理をすること自体に問題があるわけではありません。

 

2 肯定例と否定例

 それでは、次に実際の裁判例で、裁判所が説明・助言義務違反を認めている例と否定している例を見ていきましょう。

2.1 肯定された例

 まずは、肯定例です。①消費税事例が選択の余地のある税務処理をする場面のもので、②法人税事例が、否認リスクがある税務処理をする場面の例です。

①消費税事例
 税理士は、依頼者が土地売却をする事実を認識しつつ、消費税及び地方消費税の計算方式について、個別計算方式と一括比例配分方式を選択できる場合があり、選択方法によって税額が異なる場合があること等を説明しなかった事例
※課税売上割合に準ずる割合の適用ができなかったものです。
②法人税事例
 金銭債権について担保がある場合には、その担保を処分した後でなければ貸倒損失として損金経理できない旨の通達は知っていたが、バブル崩壊等異常な経済状況であったため、リスクを説明することなく、担保物処分前に損金経理をした事例

 特に②法人税事例は、貸倒れについて通達による処理をしなかった事例ですが、これについて裁判所も、それが悪いといったわけではなく、通達とは異なる処理であり否認リスクがあることと、その場合には延滞税・加算税の負担があることの説明をしなかった点が義務違反だとしているだけですので、ご注意ください。この事例も結果修正申告をした上での損害賠償請求となっています。

2.2 否定された例

 次に説明・助言義務違反が否定された例です。

③相続税事例
 相続税申告の依頼を受けた税理士が、市街地にある宅地ついて、路線価方式による評価に基づく申告したが、特段の事情がない限り、依頼者から不動産鑑定士による評価を受けるべく説明・助言する義務は認められないとされた事例

 この事例は、依頼者さんが、相続税申告後に宅地を売却するにあたり、不動産鑑定士に鑑定を依頼したところ、不動産鑑定士の評価が相続税申告の際に採用された評価よりも低かったため、依頼者から不動産鑑定士による評価を受けるべく説明・助言する義務を怠ったとして税理士の先生が訴えられた事案です。裁判所は、あくまでも「特段の事業がない限り」という留保つきですが、税理士に不動産鑑定士による評価を受けるように助言する義務まではないといいました。

 

3 裁判所が考慮しているポイント

 上に挙げた裁判例も含めて裁判例(TAINSに掲載のある約30年分)を分析すると、説明・助言義務違反について、裁判所がどのような点を考慮して判断しているかというと以下のようになるかと思われます。

3.1 選択の余地のある税務処理をする場合

① 委任契約の対象事項の範囲が限定されているか
② 説明事項について、依頼者に生じる課税上の利害得失の程度
③ 前項の利害得失の大きさを税理士が知っていた、またはどの程度容易に推認できたか

① 委任契約の対象事項の範囲

 前回、前々回の記事から、少しくどいですが、税理士さんが負う善管注意義務の対象は、具体的に委任を受けた事項及びそれに付随する事項になります。
 説明・助言義務は、「付随する事項」に違反するか否かが問題となりますが、あくまでも「委任を受けた事項」に「付随する事項」が対象となりますので、顧問契約書で委任の範囲を明確にしておくことで、説明義務違反の範囲を限定することができます。

② 説明事項について、依頼者に生じる課税上の利害得失の程度

 結局は、説明・助言義務は、依頼者が自己決定をするために必要な説明・助言をする義務になります。ですので、依頼者に生じる課税上のメリット・デメリットが大きいほど、意思決定に重大な影響を与える事項になりますので、説明・助言する義務違反が認められやすくなります。
 例えば、消費税の課税選択は税理士の先生ならご存知の通り、かなり金額的なインパクトがありますよね。ですので、「2.1 肯定された例の①消費税事例」では説明・助言義務違反を認める方向に働きます。
 もちろん、「2.2 否定された例の③相続税事例」も、不動産評価の問題でしたが、明らかに財産評価通達の原則通りの路線価による評価をしたことで、不利益があまりにも大きいという場合には、上記「特段の事情あり」として義務違反ありとされるおそれはあります。

③ 前項の利害得失の大きさを税理士が知っていたまたはどの程度容易に推認できたか

 税理士の先生としては、依頼者に対して、税務上の利害得失が大きいということ知っていればそのことについて説明しなければなりませんし、知らなかったとしても簡単に予測できるようなことであれば、その利害得失の大きさに気がついて、しっかりと説明・助言しなければならないことになります。

 例えば、「2.1 肯定された例の①消費税事例」では、税理士の先生は、依頼者が土地売却をする事実を認識していたわけですから、消費税の課税方式の選択の問題が出てくる(課税売上割合が95%を下回ること)を容易に予測できたとして、課税上のメリット・デメリットを説明・助言すべきだったと考えられたのでしょう。

 一方で、「2.2 否定された例の③相続税事例」では、通常の不動産であれば不動産鑑定士による評価が路線価よりも必ずしも評価が低くなるわけではないことから、容易に推認できたとまではいえないとの判断となったのでしょう。
 ただし、裁判例では、事案に応じて、「一般に有意的に路線価が実勢価格を上回り、不動産鑑定士の鑑定に基づいて相続税の申告をすると税務署がこれを斟酌して相続税額を決定する実状にあったと認めるに足りる証拠がある」という「特段の事情」があれば、反対の結論になり得ることも示唆していますので、このあたりには注意が必要です。その他、明らかに異臭のする土地等であれば、そのまま何の説明もせず、路線価評価すればこの「特段の事情」が認められることになるでしょう。

3.2 否認リスクがある税務処理をする場合

① 否認リスクの程度
② 否認リスクについての説明の有無・程度

① 否認リスクの程度

 少しくどいですが、説明・助言義務は、依頼者が自己決定をするために必要な説明・助言をする義務になりますので、依頼者に生じる課税上のデメリット(否認リスク)が大きいほど、意思決定に重大な影響を与える事項になりますので、説明・助言する義務違反が認められやすくなります。

② 否認リスクについての説明の有無・程度

 また、否認リスクの説明としては、少なくとも否認される可能性が高い・低いという程度は説明した方が良いかと思われます。そして、否認された場合のリスクである延滞税と加算税がどの程度かかるのかについても説明すべきといえるでしょう。
 「2.1 肯定された例の②法人税事例」では、このあたりの説明をせずに、税理士の判断として、通達と異なる処理をしても否認されないと考え、実行してしまいました。この判断自体が本来間違いであったかというとわからない部分があるわけです。なので、説明をしなかった点が問題になります。

 

4 まとめ

 以上が、税理士の先生が負う説明・助言義務についての解説になります。これを前提として、当サイトでは、日常業務や顧問契約書作成における注意点もアップしていきますので、このような義務の類型なのだなという点だけでも、押さえていただければと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、100名以上の税理士の先生が会員となっている「メーリングリスト法律相談会」を運営し、日々税理士の先生の法律相談を受けている。そのほか、税理士に役立つ情報を配信する無料メルマガの運営も行っていますので、ぜひご登録ください。登録はこちらからどうぞ

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