養子と相続人の数 ~養子がいる場合の相続関係~

 前回は、相続人が誰なのか、その相続人の相続分はどれだけなのか、という点に解説しました。
 今回は、少し特殊な類型である「養子」がいる場合について解説したいと思います。この部分は、税理士の先生にとって、相続税対策や申告をする場合に重要な意味を持ちますので、是非ご参考にしていただければ幸いです。

1 養子とは!?

 養子の制度は、民法792条以下でその要件等が定められています。
ざっくりいうとイメージ通り、親子関係のない者同士を、事後的に法律上の親子関係を生じさせることを認めようという制度です。
 つまり、血縁上は、親子ではない者でも、法律上の親子とすることができる制度ということです。
 さらに、養子の制度には、普通養子縁組と特別養子縁組というものがあります。

1.1 普通養子縁組

 普通養子縁組は、養子となる者の実の親との親子関係も維持しつつ、新たに、養親とも親子関係を生じさせるものです。
 養子にとって、実の親との親子関係が消えるわけではなく、リスクも少ないため、特別養子縁組に比べて、緩やかな手続きで認められます。
 基本的には、養親と養子となる者の間で養子縁組をする意思の合致があることと届出をしていることで成立します。なお、詳細な要件については今回はテーマとの兼ね合いで省略して、別の記事で書きたいと思います。

1.2 特別養子縁組

 一方、特別養子縁組(民法817条の2以下)とは、養子となる者の実の親との親子関係を消滅させて、新たに養親と親子関係を生じさせるものです。
 実の親子関係を消滅させてしまう点で、養子となる人についてリスクも大きいためかなり厳格な手続きを経なければ縁組をすることはできません。
 こちらについても、細かい要件は別記事とさせていただきますが、特別養子縁組は、縁組をする意思の合致等ではなく、養親となる者が家庭裁判所に請求をして、裁判所の審判によりそれが認められれば、成立することになります。
 審判で、養子と認めれれるためには、養子となる者は、上記請求時に6歳未満でなければなりませんし、裁判所が、特別養子縁組をする必要性があると判断しなければできません。

2 養子の効果と相続

(嫡出子の身分の取得)
民法第809条  養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。

とされており、養子縁組が成立するとその日から、養子は養親の子となりますので、相続との関係でいっても、相続人となる地位を取得することとなります。つまり、相続人と相続分についての前回の記事でいうところの養親の「子」となるということです。
 なお、普通養子縁組の場合には、上述の通り、実の親との親子関係が継続していますので、実の親の「子」としての相続権も有することになります。

3 養子と相続税法上の相続人の数

 このように、養子となると養親の子として相続する権利を有することになります。ただし、税理士の先生ならご存知の通り、相続税法上は、相続人の数によって税額が変わるということがあります。ですので、相続税法上は、その相続人の数の計算について、養子の場合には、特別な配慮をしているわけです。
 具体的には、

 ①相続税の基礎控除額(相続税法15条)
 ②相続税の総額の計算(相続税法16条)
 ③生命保険金の非課税限度額(相続税法12条1項5号)
 ④死亡退職金の非課税限度額(相続税法12条1項6号)

で、養子がある場合の相続人の計算について相続人の数についての規定があります。今回は①の相続税の基礎控除額を例として見ていきましょう。

3.1 養子と基礎控除額

 税理士の先生がご存知の通り、相続税総額の計算は、相続により財産を取得した者是認の課税価格を合計して、「課税価格の合計額」を算出し、「課税価格の合計額」から、基礎控除額を差し引いて「課税遺産総額」を算出します。
 具体的には、

 ◯平成26年12月31日以前に相続開始
 課税遺産総額=課税価格の合計額ー基礎控除額(5,000万円+1,000万円×法定相続人の数)
 ◯平成27年1月1日以以後に相続開始
 課税遺産総額=課税価格の合計額ー基礎控除額(3,000万円+600万円×法定相続人の数)

となります。

3.2 養子の数の制限

 そうすると、養子縁組をすれば、この法定相続人の数が増えるわけですから、相続税計算上有利となるというになりそうです。
 しかし、これをすべての場合に認めてしまうと租税回避が容易に認められるため相続税法上は、この相続人の数の計算において、養子の数を制限しているのです。
 具体的には、

 被相続人(死亡した人)に実子がいる場合・・・1人
 被相続人(死亡した人)に実子がいない場合・・・2人

までが、相続人の数に入れて計算することを認めるということにしています。

3.3 数の制限の対象とならない養子

 ただし、以下の場合には、相続税法上、実子とみなされ養子の数の制限はかからないということにしています。実質的に租税回避とならない場合であれば、制限をかける必要がないので、それを類型化しているものとなります。具体的には

 ① 特別養子縁組により、養子となった者
 ② 被相続人(死亡した人)の配偶者の実子で、被相続人の養子となった者
 ③ 被相続人とその配偶者との婚姻前に、特別養子縁組によりその配偶者の養子となった者で、婚姻後に被相続人の養子となった者
 ④ 被相続人実子若しくは養子またはその直系卑属が相続開始前に死亡または相続権を失ったため、相続人となった者の直系卑属 ※「直系~」の解説はこちら

は、養子の数の制限を受けません。 

4 まとめ

 以上が、養子と相続との関係についての解説になります。今回は、養子と相続人の数について詳しく解説してきました。養子と相続の問題でいうと、その他、相続人の地位の重複という問題もあります。次回はその点について解説していきたいと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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