相続人と法定相続分 ~誰が遺産を相続するのか~

 今回は、相続が開始した場合に、相続人になる人は誰なのかという視点で記事を書きたいと思います。相続が開始された場合には、まず相続人を確定させることから実務的にはスタートしますので、税理士の先生にご参考にしていただければと思います。 

 また、基礎控除にも関連する部分ですので、この記事では基本的な部分を、養子(養子と相続人の数について記事)や相続人資格の重複等特別な問題については、後日別の記事で書きたいと思います。

以下の記事は、法律から説明しているので、結論だけ知りたいよという方は、

に表がありますので、そちらだけご覧ください。

1 相続人

 税理士の先生は、ご存知の通り、相続にあたっては、相続人(財産を包括承継する者)が誰になるのかについて民法で定められています。以下、関連する法文を見ながら確認していきましょう。

1.1 配偶者

(配偶者の相続権)
民法第890条  被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。

このように、被相続人(死亡した人)の配偶者は、常に相続人になります。この「配偶者」の意味ですが、

(婚姻の届出)
民法第739条  婚姻は、戸籍法 (昭和二十二年法律第二百二十四号)の定めるところにより届け出ることによって、その効力を生ずる。
2  前項の届出は、当事者双方及び成年の証人二人以上が署名した書面で、又はこれらの者から口頭で、しなければならない。

の民法の規定に基づいて婚姻届を提出した者とされています。もちろん、相続開始時に配偶者である必要がありますので、開始前日に離婚した場合には、相続人とはなりません。

 また、いろいろと言われる部分ですが、婚姻届を提出していない事実婚や内縁関係では、ここでいう「配偶者」にはあたりません。

1.2 子(第1順位)

(子及びその代襲者等の相続権)
第887条  被相続人の子は、相続人となる。
2  被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3  前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

 この条文の1項を見ていただければ、わかる通り、被相続人(死亡した人)の子は、相続人になります。子は、第1順位の相続権を持っていると言われていますが、これは相続権が回ってくる順番を指しています。下記の「1.3」、「1.4」を見ていただければわかるのですが、第2順位、第3順位の相続人は自分の上位の相続人がいない(なれない場合を含む)場合に、相続権を持つことになります。

 また、2項の「代襲して」とある部分は、「1.5 代襲相続人」のところを見て下さい。

1.3 被相続人に直系尊属(第2順位)

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
民法第889条  次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一  被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。
二  ・・・(省略)
2  ・・・(省略)

 次に、この民法889条1項1号によって、「直系の尊属」が、相続人となりえます。
「直系」とは、「・・・曽祖父母,祖父母,親,子,孫,曽孫・・・」という親から子に流れていく縦のつながりを言います。例えば、自分から見て、配偶者の父母は、自分とは縦のつながりはないので、ここでいう「直系」ではないことになります。もちろん、自分の子から見ればこの配偶者の父母は直系になります。「尊属」とは、この縦の流れの上のものを言います。

 つまり、「直系の尊属」とは、自分から見た「・・・曽祖父母,祖父母,親」ということになりますので、その者が相続人となりうるということです。

 ただし、上記の民法889条1項の「次に掲げる者は・・・」の部分(これを法律家の中では、柱書と言います。)を見ていただきたいとのですが、「第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には」となっていますよね。この民法887条は、上記「1.2 子(第1順位)」で記載させていただいた条文です。つまり、子がある場合には、ここでいう「直系の尊属」は相続人にはなりません。

1.4 兄弟姉妹(第3順位)

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第889条  次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一  ・・・(省略)
二  被相続人の兄弟姉妹
2  第887条第2項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

 はい。これは、「1.3 被相続人に直系尊属(第2順位)」と同じ条文です。この1項2号により、被相続人(死亡した人)の兄弟姉妹は、相続人になりえます。

 ただし、民法889条1項の柱書で、「第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には」とされていますので、「1.3 被相続人に直系尊属(第2順位)」と同様、子がある場合には、相続人になれません。また、「次に掲げる順序の順位に従って」とされていますので、1号つまりは「1.3 被相続人に直系尊属(第2順位)」がいる場合にも、相続人になれません。そういう意味で、兄弟姉妹は、第3順位の相続権を持つなんて言われたりします。

1.5 代襲相続人

(子及びその代襲者等の相続権)
第887条  ・・・省略
2  被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。
3  前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権)
第889条  次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。
一  ・・・(省略)
二  被相続人の兄弟姉妹
2  第887条第2項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

 この条文は、上の「1.2 子(第1順位)」,「1.4 兄弟姉妹(第3順位)」で引用している条文と全く同じです。

 この民法887条2校の「代襲して相続人」となるという規定ですが、つまりは、子または兄弟姉妹が相続人となるべき場合に、既にこの「子または兄弟姉妹」が死亡しているまたは相続権を失っている場合には、「子または兄弟姉妹」の子が代わりに相続人となるとしています。これを「代襲相続」といいます。

 つまり、「子」が相続人となるべき場合には「孫」、「兄弟姉妹」が相続人となるべき場合には「甥」や「姪」が、代わりに相続人となるとしているのが、民法887条2項で、「子」が相続人となるべき場合には、その3項で、「曽孫」以下も含まれます。

 また、民法887条1項は、「ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。」としていますので、直系の縦の流れの下のものでなければなりません。つまり、配偶者の連れ子等は代襲相続できませんよということです。

 以上が、法定相続人の説明になります。

1.6 相続人まとめ

 以上が、法定相続人の説明になります。

長々と説明しましたが・・・つまりこういうことです。

配偶者 相続人になる
子(代襲相続人含む) 相続人になる
直系尊属 子がいなければ相続人になる
兄弟姉妹(代襲相続人含む) 子、直系尊属がいなければ相続人なる

2 法定相続分

 次に、各相続人の相続分がどうなるかという点を見ていきましょう。

2.1 各相続人の法定相続分

(法定相続分)
第900条  同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。
一  子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各2分の1とする。
二  配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、3分の2とし、直系尊属の相続分は、3分の1とする。
三  配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、4分の3とし、兄弟姉妹の相続分は、4分の1とする。
四  子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。

 法定相続分は、この条文の通りになります。

特に注意すべき点は、同じ地位にある者、例えば「子」が2人いる場合には、その「子」の法定相続分を等分で分けることになります。

配偶者1人、子2人の場合であれば、1/2が配偶者、「子」の法定相続分となる1/2を2名の子で等分で分けるので、結局、「子1人」の相続分は、1/4になります。

 なお、兄弟姉妹が相続人となり、2名以上いる場合は、原則的には同様に等分なのですが、親の片方が違う兄弟姉妹の場合には、親が両方同じ兄弟姉妹の1/2の相続分となります。例えば、両親が同じ兄弟姉妹が1人、父が同じで母が違う兄弟姉妹が1名の場合には、兄弟姉妹の相続分のうち、2/3が両親が同じ兄弟姉妹に、1/3が父が同じで母が違う兄弟姉妹にということになります。

2.2 代襲相続人の法定相続分

(代襲相続人の相続分)
第901条  第887条第2項又は第3項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。
2  前項の規定は、第889条第2項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。

 つまり、代襲相続人の相続分は、本来相続すべきであった者(被代襲者)の相続分で、さらにそれを代襲する相続人が複数いた場合には等分でわることになりますといっています。

 例えば、親が被相続人(死亡した者)で、その子は既に死亡していおり、その子の子(「孫」)が2名いるという場合、その孫1名の相続分は、「子」が相続すべきであった相続分の1/2となります。

2.3 法定相続分まとめ

配偶者 直系尊属 兄弟姉妹 参考
子が複数の場合は子の相続分(1/2)を等分。
1/2 1/2
× 子が複数の場合は子の相続分(全)を等分。
× 直系尊属が複数の場合は、その相続分(1/3)を等分。
2/3 1/3
× × 直系尊属が複数の場合は、その相続分(全)を等分。
○  ×   ×    ○ 両親が同一の兄弟姉妹が複数の場合は、その相続分(1/4)を等分。ただし、両親同一と片親のみ同一の兄弟姉妹がいる場合には、2:1の割合。
 3/4  1/4
 ×  ×  ×  ○ 両親が同一の兄弟姉妹が複数の場合は、その相続分(全)を等分。ただし、両親同一と片親のみ同一の兄弟姉妹がいる場合には、2:1の割合。

※ なお、代襲相続人が複数いる場合は、被代襲者の相続分を等分することになります。

3 まとめ

 以上が、相続人と法定相続分についての説明になります。次回は、この相続人について少し特殊な問題である養子がいる場合にどのように考えるのかについてお話したいと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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