寄与分とその計算方法を含む留意点

 さて、前回は、相続分の計算について、特別受益がある場合にどのように考えるのかという記事を書きました。今回は、相続分の計算に影響を与えるもう一つの要素として「寄与分」というものが存在していますので、解説します。税理士の先生はご参考にしていただければと思います。

 

1 寄与分とは

 共同相続人の中に、被相続人(死んだ人)の財産の維持・増加に特別の寄与をした者がいる場合には、この特別の寄与を考慮して、その者に特別に与えられる相続分の持分を言います。
 つまりは、被相続人(死んだ人)の介護とかで貢献した人が、何もしなかった相続人と同じというのはかわいそうだし、相続財産である被相続人の家とかを修理するのにお金を出した人が、相続財産の価値を維持(または上げ)ているのだから、そこは考慮しないと不公平だよね!?という趣旨で生まれた制度です。
 共同相続人間で、協議により寄与分を定め、協議では、定まらない場合には審判で決定することになります。
 ここで、条文を引用します。

(寄与分)
第904条の1  共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。
2  前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。
3  寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。
4  第2項の請求は、第907条第2項の規定による請求があった場合又は第910条に規定する場合にすることができる。

 

2 相続分の計算方法

 では、「寄与分」がある場合の計算方法を見てみましょう。

① 相続開始時点で、被相続人(死んだ人)が有していた財産の価額から寄与分を控除したものを相続財産とみなす。
② その財産価額に相続分を乗じる。
③ ②により算出された寄与分を有する相続人の相続分に寄与分を加算する

となります。

○被相続人(死んだ人)が、配偶者と長男・次男がいる場合に、相続財産が5000万円あり、配偶者に1000万円の寄与分が認めれる。

 法定相続されたことを前提にすると、

① 相続財産5000万円から配偶者の1000万円の寄与分を控除する=4000万円
② その4000万円×相続分を乗じる=配偶者(2000万円)・長男(1000万円)・次男(1000万円)
③ 配偶者の2000万円に寄与分1000万円を加算する=3000万円

→ 配偶者3000万円、長男1000万円、次男1000万円

が、各相続人の具体的な相続分となります。

 

3 どんな行為が「特別の寄与」となるのか?

 それでは、どんな行為が「特別の寄与」と評価でき、寄与分とされるのでしょうか。
 条文上は、「被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与」とされています。
 典型例を上げているのは良いのですが、「その他の方法」も入っているため、基準はかなり不明確となっています。

3.1 法律基本書等でよく言われていること

 「特別の寄与」については、基準が不明確であり、その判断はかなり曖昧な事実認定となります。ただし、よく法律学の基本書等では以下のことが述べられています。

①相続人となる者が、被相続人の介護等を行ったとしても、法律上の義務としてなされた場合には、その義務により通常期待されている範囲を超える行為でなければ特別の寄与とは言えない。

つまりは、相続人となる者は、被相続人に対して、同居義務、扶養義務、扶助義務等を負う場合が多いのですが、そのような義務を普通にしていただけでは特別の寄与とは言えませんよということです。ただし、この通常期待されている範囲を超えるかは、身分関係や生活関係による等とも一緒にかかれていますが、結局わかりにくいと。。。

②寄与行為は無償のもので、対価や補償を受けいないことを要する。

 お金をもらって、介護したらそれは、もはや「寄与」ではないということです。

③被相続人の財産の維持・増加と因果関係にあるものである必要がある。

 条文上そのような構造になっています。

3.2 寄与分の実務

 寄与分の趣旨は、上の「1」で述べた通りですが、「3.1」の通り、何が「特別の寄与」にあたるのかがわかりにくいということもあり、公表されている審判例等も少ないため、実務上もよくわからない制度として、扱われている感は否めません。
 現実論としては、寄与分があるということで、相続分を大きくしようとして主張されたりするというよりは、遺産分割の内容が不都合(誰かがとてもかわいそう等)な場合の調整弁として利用されているというのが、実態ではないでしょうか。
 見かける例としては、遺産分割によると高齢の配偶者が住んでいる家に住み続けることが困難になるような場合に、寄与分を配偶者に認めることで、他の相続人に家の持分の代償金を支払う際の金額を実質的に少なくする等のケースがあります。

 

4 寄与した者が特殊な場合

 上記の条文を見ればわかるように、寄与分は、「相続人の寄与」である必要があります。
以下のような場合に、「相続人の寄与」と評価できるかが民法学上は議論されます。

4.1 推定相続人でなかった(であった)者の寄与

 上記の条文上、寄与分が認めれるのは、「相続人」とされいます。これからすれば当然ではありますが、寄与行為があった時点で、相続人となる地位を有していなくても、相続開始時に相続人であれば、その者の行為は、寄与分の対象になりえます。逆に、どれだけ尽くしたとして、相続開始前に離婚していれば、寄与分自体は認められません(財産分与で調整しましょう。)

4.2 相続人の配偶者・子等の寄与

 相続人の配偶者や子は、「相続人」ではありません。ただし、相続人の補助者として寄与を行ったとみて、「相続人の寄与分」として考慮するべきというのが多数です(東京高決平成元年12月28日)。

4.3 代襲相続の場合

 「祖父」が死亡する以前に、「父」が死亡しており、祖父の相続について、「子」が代襲相続をするという例を前提に説明します。
 まず、被代襲者である「父」が「特別の寄与」をしていた場合には、代襲者である「子」は、「父」の寄与分を主張できるとされています。代襲者である「子」は、被代襲者である「父」の相続分を代わりに得るということになるというのが理由です。
 次に、代襲者である「子」が「特別の寄与」をした場合についてですが、その場合も、相続開始時点で、「子」は代襲者であるとはいえ、「相続人」でありますので、上の「4.1」の考え方に従い、「子」自身の寄与分も主張できるといえるでしょう。

 

5 寄与分の決定

 寄与分があるとしても、実際どれくらいか?という問題が生じます。これについては、共同相続人間で協議が調えば、その金額とりますが、そうではない場合は、家庭裁判所が、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他「一切の事情」を斟酌して決定されるとされています。

 

6 税務上の扱い

 寄与分は、上記の通り、対象となる行為も金額も不明確です。ですので、未分割状態で申告をする場合には、計算上無視して良いということにされています(相続税法55条括弧書き)
 なお、後に遺産分割において寄与分が認められた場合には、認められた者は寄与分を加えた相続分を前提に相続税が計算されます。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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