相続の効果〜包括承継と特定承継〜

 さて、今回からは相続について、書いていきたいと思います。相続税の申告等をされる税理士の先生方は、民法の相続法部分をご理解された上で行う必要がありますので、是非ご参考にしていただきたいと思います。また、今後の記事では、民法と相続税法の違い等も意識しながら相続について解説していきたいと思います。

 まず、今回は相続の効果について一般的な内容を書きたいと思います。

1 相続の一般的な効力

(相続の一般的効力)
民法第896条  相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する。ただし、被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。 

と民法上規定されています。つまり、一切の権利義務を承継するという効果があるということです。

 この意味を少し深めて見ていきましょう。
 

2 包括(一般)承継と特定承継の違い

 
 上記の通り、民法896条では、「一切の権利義務を承継する」というように規定されています。これを法律の整理上、「包括(一般)承継」といいます。
 一方で、特定(一部)の財産や権利義務を承継する場合を、特定承継と呼びます。例えば、財産を売った場合を考えると、その財産のみの所有権が移転するだけですよね。これが特定承継です。
 
 以上から、相続の効果は、被相続人から相続人に対する包括(一般)承継を定めたものと言えます。
 
 ここで包括(一般)承継と特定承継で大きな違いがでる場面としては、

①財産等の一部のみの承継ができるか
②債務を承継する場合
③保護される「第三者」に当たるか否か等

があります。

2.1 ①財産等の一部のみの承継ができるか

①については、特定承継の場合には、当然ですが特定された一部のみ承継できるのに対して、一般(包括)承継は、当然に特定の財産や権利のみを引き継ぐことはできません(なお、後日別の記事で説明しますが。遺産分割は、各相続人の共有となった財産をどうするかという議論であり、こことは別の議論です。)。

2.2 ②債務を承継する場合

②債務を承継する場合に、一般承継の場合には、当然に債務者となることができますが、特定承継の場合に、債務者となるには債権者の同意が必要となります。
 債権者としては本来債務者がお金を持っている人なのかどうか(責任財産)が重要となりますので、特定承継では債権者の同意が必要になるのです。
 なお、これは免責的債務引受(債務を元の債務者が負わず、新しい債務者が負う場合)の議論で、併存的債務引受(債務を元の債務者も、新しい債務者も負う場合)には、債権者の同意は不要です。併存的債務引受の場合、債権者は、両者に請求できて、有利になるだけだからです。

2.3 ③保護される「第三者」に当たるか

③保護される「第三者」に当たるか否かについては、特定承継の場合には、当たりますが、包括(一般)承継の場合には当たりません。このような第三者保護の規定は複数存在しますが、こちらの対抗要件に関する記事において、対抗要件を備えなければ権利を主張できない「第三者」には、包括(一般)承継人は含まれません。
包括(一般)承継の場合には、単純に承継される前の者と同じ地位を承継するに過ぎないので、「第三者」とは評価できないということです。 
 
 

3 一身専属権と義務

 上記の民法896条の「ただし」以降に
 

民法第896条但書 被相続人の一身に専属したものは、この限りでない。 

と記載されています。これは包括(一般)承継といえども、その被相続人(死んだ人)にしか持てない権利や義務は承継しないということを明示しています。
このような権利や義務を、「一身専属権」「一身専属義務」と呼びます。

例えば、「身元」保証人である地位、扶養請求権、生活保護受給権等がこれにあたります。これらの権利は、その被相続人(死んだ人)の属性に応じて発生するものであるとされているからです。

その他、税理士の先生の税理士資格による税理士法人の「社員」たる地位も株式とは異なり、一身専属性があるものですので、相続の対象にはなりません。

4 まとめ

 以上が、相続の効力についての一般的な説明です。記事の途中にも書きましたが、この相続の効力と遺産分割で、共同相続人間の相続財産の共有状態をどのように整理していくのかという点は、別の議論になりますので、ご注意ください。後日、遺産分割についての記事をあげますので、そちらをご覧いただければ幸いです。
 次回は、相続は何を原因に開始するのかという点を書きたいと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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