限定承認の効果・方法と注意点

 今回は、相続に対する3つの選択(相続の3つ選択に関する記事)のうち、単純承認と相続放棄の間に位置する限定承認について、民法から解説したいと思います。限定承認制度については、実務上あまり活用されていないということもあり、誤解されている税理士の先生も多いかと思いますので、是非ご参考にしていただければ幸いです。
 なお、次回は限定承認の税務上の注意点を書きたいとおもいますので、税理士の先生はそちらもご覧になっていただけると嬉しいです。
 

1 限定承認とは!?

(限定承認)
民法第922条  相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

 相続の3つ選択に関する記事の復習になってしまいますが、限定承認とは、プラスの相続財産の限度のみで相続債務(マイナスの財産)を負担するという条件付きの相続の方法です。
 実務上は、熟慮期間中(熟慮期間に関する記事)に相続財産の範囲が明確にならないケースが多いので、このリスクを回避するために限定承認を利用したり、債務超過だが居住している家を守りたいという場合にも利用されることが多いです。

2 限定承認の方法

 限定承認は、相続放棄と同様、意思表示のみでは効力を発生しない要式行為となります。また、限定承認をすると、被相続人(死んだ人)から相続人に承継された債務につき、範囲を限定された相続財産を対象として、破産をする時のような清算手続きが行われます。以下、このあたりを詳細に見ていきましょう。
 

2.1 家庭裁判所への申述

(限定承認の方式)
第924条  相続人は、限定承認をしようとするときは、第915条第1項の期間内に、相続財産の目録を作成して家庭裁判所に提出し、限定承認をする旨を申述しなければならない。

まず、相続人が限定承認をする場合には、

① 限定承認する旨の申述書
② 相続財産目録

を、被相続人(死んだ人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出する必要があります(家事審判規則99条1項)。
管轄裁判所は、こちらから調べることができます。

2.1.1 ①限定承認する旨の申述書

 限定承認をする旨の申述書には、

申述者の氏名及び住所
被相続人の氏名及び最後の住所
被相続人との続柄
相続の開始があつたことを知つた年月日
相続の限定承認又は放棄をする旨

を記載し、申述者又は代理人が署名押印しなければならなりません(家事審判規則114条2項)。

2.1.2 ②相続財産目録

 相続財産目録には、相続財産を知ることができた限度で記載する必要があり、財産は具体的に特定するべきですが、価額までは記載する必要はありません。

2.1.3 共同相続人がいる場合

 共同相続人がいる場合、限定承認は、共同相続人全員でしなければなりませんので注意が必要です。

(共同相続人の限定承認)
民法第923条  相続人が数人あるときは、限定承認は、共同相続人の全員が共同してのみこれをすることができる。

 限定承認は、この共同要件がなかなかハードルが高いため、実務上あまり利用されていないという結果につながっているのではないかと言われています。

2.1.4 熟慮期間への対応

 限定承認をするまでの熟慮期間は、「相続の開始があったことを知った時から3箇月以内」になります(詳細は熟慮期間に関する記事)。
 限定承認をするかどうかを判断する場合には、相続財産の特定を慎重にする必要もありますので、実務的には期間の伸長を家庭裁判所に請求するように税理士の先生はお客様にアドバイスなさると良いかと思います。
 

2.2 債権者に対する公告及び知れたる債権者への催告等

(相続債権者及び受遺者に対する公告及び催告)
民法第927条  限定承認者は、限定承認をした後5日以内に、すべての相続債権者(相続財産に属する債務の債権者をいう。以下同じ。)及び受遺者に対し、限定承認をしたこと及び一定の期間内にその請求の申出をすべき旨を公告しなければならない。この場合において、その期間は、2箇月を下ることができない。
2  前項の規定による公告には、相続債権者及び受遺者がその期間内に申出をしないときは弁済から除斥されるべき旨を付記しなければならない。ただし、限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者を除斥することができない。
3  限定承認者は、知れている相続債権者及び受遺者には、各別にその申出の催告をしなければならない。
4  第1項の規定による公告は、官報に掲載してする。 

 限定承認をする場合、相続債権者(相続財産に属する債務の債権者)と受遺者に対して、限定承認をした後5日以内に①限定承認をしたこと②債権に基づく請求の申出をすべき旨を2か月以上の一定の期間、官報に公告しなければなりません。その際には、期間内に申出がない場合には、弁済しない旨を付記します。
 さらに、限定承認者が知っている相続債権者及び受遺者に対して、個別にその申出の催告をしなければならないのです。
 このように、限定承認がなされると、相続財産の清算手続きが行われます。

2.2.1 公告期間満了前の弁済の拒絶

(公告期間満了前の弁済の拒絶)
第928条  限定承認者は、前条第1項の期間の満了前には、相続債権者及び受遺者に対して弁済を拒むことができる。

 限定承認は、清算手続きになりますので、相続債権者及び受遺者(本来相続財産から弁済等が受けられる人)に、清算手続きに参加させ、相続財産による公平な弁済を図ろうとしてます。ですので、公告で、相続債権者等に債権者である申出をさせている期間に、特定の者だけに弁済をするとすると、公平性がなくなります。
 ですので、限定承認者は、公告期間中は、特定の相続債権者及び受遺者への弁済を拒むことができるものとされています。また、公告期間内に弁済したことによって、他の相続債権者及び受遺者に損害を生じさせた時は、限定承認者は損害を賠償するものとしています(民法934条1項)。
 
 なお、相続財産の土地等に抵当権等を有する債権者は、公告期間中であっても、競売を申し当てることが可能です。これらのものは、もとから他の債権者よりも優先的に債権を回収する権利を持っていますので、公平に反することはないからです。

2.2.2 公告期間満了後の弁済

(公告期間満了後の弁済)
第929条  第927条第1項の期間が満了した後は、限定承認者は、相続財産をもって、その期間内に同項の申出をした相続債権者その他知れている相続債権者に、それぞれその債権額の割合に応じて弁済をしなければならない。ただし、優先権を有する債権者の権利を害することはできない。

 次に、公告期間が満了した後は、限定承認者は、以下の順位で相続債権者及び受遺者に弁済をしていくことになります。

 
第1順位 優先権(相続財産に対して質権、先取特権、抵当権、留置権等)を有する債権者(民法929条但書)なお、優先権を行使しても全額回収できない場合は、第2順位にも回る。
第2順位 公告期間内に申し出た債権者と知れたる債権者(民法929条本文)
第3順位 公告期間内に申し出た受遺者と知れたる受遺者(民法931条)
第4順位 公告期間内に申し出ずかつ知れなかった債権者と受遺者(935条)

 第2順位と第3順位については、債権額に応じて配当弁済されることになり、それでもなお残余財産がある場合には、第4順位の者が弁済を受けることができます。

 なお、第2順位について、弁済期至っていない債権であってもこの基準に従い弁済しなくてはなりません(民法930条1項)。また、条件付債権や存続期間の不確定な債権については、その条件等を考慮した上で、家庭裁判所が選定した鑑定人の評価に従って弁済することになります。
 

2.3 財産の処分

(弁済のための相続財産の換価)
第932条  前3条の規定に従って弁済をするにつき相続財産を売却する必要があるときは、限定承認者は、これを競売に付さなければならない。ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従い相続財産の全部又は一部の価額を弁済して、その競売を止めることができる。   

 上記の債権者等への弁済(第4順位は除く)のために必要な場合は、限定承認者は、相続財産(例えば「不動産」)を競売に付さなければなりません。
 ただし、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を限定承認者が自分の財産(相続財産ではない)から弁済すれば競売を止めることができます。これが、自宅にそのまま住み続けたい等のニーズがある場合に、限定承認がされる理由です。
 なお、相続債権者と受遺者は、不当な換価手続きがなされないように、自分の費用で、競売や鑑定に参加することはできます。参加とは、換価手続きへの立会いや鑑定人に意見を述べることです。
 

3 限定承認のその他の注意点

 最後に、限定承認について、その他の注意点を見ていきましょう。

3.1 相続財産管理人の選定

 共同相続人がいる場合には、限定承認は全員でしなければならにのは上記のとおりです。
 しかし、相続財産の管理や清算手続きを全員でやることは困難で煩雑ですので、家庭裁判所は、限定承認の申述が受理されると、相続人の中から1にんの相続財産管理人を選任します(民法936条1項)。そして、その者が、限定承認者本人であると同時に他の限定承認者の法定代理人となります。

3.2 法定単純承認事由のある場合の相続債権者

(法定単純承認の事由がある場合の相続債権者)
第937条  限定承認をした共同相続人の一人又は数人について第921条第1号又は第3号に掲げる事由があるときは、相続債権者は、相続財産をもって弁済を受けることができなかった債権額について、当該共同相続人に対し、その相続分に応じて権利を行使することができる。

 限定承認は、共同相続人全員でしなくてはなりませんが、一部の者が単純承認をしてしまうと限定承認ができなくなるのでは??とも思われます(単純承認についてはこちらの記事)。
 しかし、一部の相続人の行為によって、他の相続人が限定承認をすることができなくなるというのも、かわいそうな話です。
 そこで、法定単純承認事由、つまり「相続財産の処分」及び財産隠匿等、民法921条1号、3号事由があっても限定承認の効果を認め、法定単純承認をした相続人に対してのみ相続債権者は、相続債務の弁済を相続分に応じて、要求できるということにしています。
 

※参考 
(法定単純承認)
第921条  次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。
一  相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第六百二条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。
二  相続人が第九百十五条第一項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。
三  相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。

4 まとめ

 以上、長々と説明してしまいましたが、税理士の先生は、相続のアドバイスとして、限定承認をお勧めすべき場合もあるでしょうから、是非、こちらの記事を参考に限定承認の法的意味や手続き等を知っていただければ幸いです。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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