相続人の地位が重複した場合の相続分

 最近は相続に関する記事を書いています。前回は、相続人と相続分について、少し特殊な問題を含む養子について解説しました。
 今回は、この養子問題も大きくかかわってくるのですが、相続人の地位が重複がする場合があります。例えば、「配偶者」と「兄弟姉妹」の地位が一人に生じてしまう場合等です(相続の登場人物(相続人)と相続分に関する点はこちらをご覧ください。)

1 子と代襲相続人の地位が重複する場合

相続人重複(子と代襲相続人)

 Bの実子であるXが、同時にBの親Aの養子となっており、Bの死亡後にAが死亡し、Aの相続が発生した場合になります。この場合、Xは、①Bの実子として、既に死亡しているAの子Bの代襲相続人としての相続資格、②Xは、Aの養子としての相続資格が重複します。
(なお、代襲相続人の意味とその相続分及び、養子(子)についての法定相続分については各リンク先をごらんください。)

 この場合、同一順位の相続分の重複となります。学説上、民法自体が重複する場合を認めていることを前提に、特に重複を認めない理由がないということで、両者の相続分を合計して取得するという考え方が有力です。
 また、BがAの死亡時に生存していた場合、XはAはAの死亡時にAの養子としての法定相続分を得た上で、Bが死時にBの子としての相続分を得ていたことになるため、BのAよりも先の死亡という偶然の事情でXの相続分が減るというのもおかしなことです。実際の先例でも、両者の相続分を認めています。

 ですので、子と代襲相続人の地位が重複する場合には、両者の相続分を取得すると考えてもらって問題ありません。つまり、Xは、Bの子の代襲相続人の相続分とAの養子(子)としての相続分を両方取得します。

2 配偶者と兄弟姉妹の地位が重複する場合

相続人重複(配偶者と兄弟姉妹)

 図のように、Bの両親の養子となっているXが、同時にBの配偶者でもある場合に、Bが死亡した場合等に、配偶者と兄弟姉妹の相続人の地位が重複することがあります。
 この場合も、学説上は、「1」と同様に、民法自体が重複する場合を認めていることを前提に、特に重複を認めない理由がないということで、両者の相続分を合計して取得するという考え方が有力です。
 しかし、登記先例では、配偶者としての相続分しか認められないとしています。このように「1」の場合と先例に違いがあるのは、現行民法では、配偶者は常に相続人となるということで、配偶者の地位が厚く保護されている以上、更に血族としての相続を認める必要性がないという価値基準があるものだと考えられます。
 では実際に学説と先例どちらが正しいのかという点は、議論がありますが今回はその部分については割愛し、紹介に留めます。概ね実務は、登記先例に基づいて運用されているということで、今回は解説とさせていただきます。

3 異順位の地位が重複する場合?

相続人重複(子と兄弟姉妹)

 例えば、図のように、Bの両親の養子となっているXが、同時にBの子でもある場合等に、Bの相続について、異順位の相続人の地位の重複するように見える場合があります(Bの兄弟姉妹としての地位とBの子としての地位)。
 この場合、第1順位の「子」としての相続資格が存在する以上、第3順位の「兄弟姉妹」としての相続資格は生じません。当然の結論ですよね。念のためにここに記載しましたが、この場合、そもそも相続資格の重複もありませんので、相続分の重複の問題も生じないことになります。
 つまり、Xは、Bの「子」としての相続分を取得するのみということになります。

4 まとめと考え方

 
 以上から、最後に相続人の地位が重複した場合の考え方をまとめます。

4.1 同順位の地位が重複する場合

 この場合は、重複する両者の相続分を取得することができます。上記「1」の場合です。

4.2 異順位の地位が重複する場合?

 この場合は、先順位の資格に基づく相続分のみを取得することになります。上記「3」の場合です。

4.3 配偶者と他の相続人の地位が重複する場合

 この場合は、先例上、配偶者としての資格に基づく相続分のみ取得すると考えるのが実務の主流です。上記「2」の場合ということになります。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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