贈与契約とは!?〜贈与の法務と税務①〜

 税理士の先生からご質問の多い契約として、「贈与契約」があげられます。相続税対策等を含めて、活用する場面が多いでしょうから、当然といえば当然ですよね。

 今回から、しばらく贈与に関する記事を書きたいと思います。ぜひ、このシリーズをお読みいただき、贈与に強い税理士になる一助にしていただけたら嬉しいです。

さて、初回は、贈与契約とはどういうものなのかと基本的な課税関係を、単純贈与を前提に説明をしたいと思います。

 今回は、かなりの基礎編ですがご了承ください。

 

1 贈与契約の基礎

(贈与)
民法第549条  贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

 いきなり条文からになりますが、税理士の先生に説明するまでもないですが、贈与契約が成立すると財産権が移転するということになります。

1.1 贈与契約成立の要件事実

 このサイトでは、要件事実というものの解説もしておりますので、贈与契約の要件事実を挙げてみたいと思います。

 ① 財産を無償で与える意思表示
 ② ①を受諾する意思表示

 ということになります。  

1.2 贈与はあくまでも「契約」である!〜契約書の重要性〜

 親が子供名義の銀行口座を管理しているという状況で、親が独断で、親の口座から子供の口座に入金していたというケース。税理士さんも遭遇することがあるかと思います。

 この場合は、その入金した財産は、名義預金になり、親の財産のままということになるので注意が必要です。つまり、贈与はあくまでも契約であり、契約当事者の子供がそれを②受諾する意思表示があって、初めて子供に財産権が移転します。

 贈与契約をする場合、後に贈与の有無等について、紛争(税務上のものも含む)を起こさないように、しっかりと契約書を締結しておくということがとても重要です。

 生前贈与の有無が問題になった事案おいて、贈与契約書がないということは、贈与の事実をも否定する一つの事情となりえるされた裁判例(東京高裁平成21年4月16日判決)も存在します。

 基礎控除内の暦年贈与等の対策をする場合には、必ずご作成された方が良いでしょう。

 

2 書面によらない贈与

(書面によらない贈与の撤回) 民法第550条  書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

 契約書の重要性については、既に触れましたが、それ以外にも、「書面」によらない贈与については、各当事者がいつでも撤回することができてしまいます。

 これは、安易な口頭での贈与については、本当に贈与の意思があったのか等贈与契約の有無を巡って紛争が多発することが想定されるため規定されているものです。これでは、特に受贈者の立場が不確定になりますので、やはり契約書を作成することが重要でしょう。なお、余談ですが、今回の民法改正では、この「撤回」が、「解除」に変更されます。

 ただし、贈与の履行があれば、贈与の意思があったことが一定程度明確になりますので、この撤回はできなくなります。

 下記の贈与の課税時期と関連しますが、このように書面によらない贈与の場合には、履行があるまでは、撤回できてしまうので、財産の移転という贈与の効果は不確実になります。ですので、課税時期については、書面のある贈与と異なり、履行のあった時に効果が生じたものとして、扱われるのが一般的な課税実務です(東京高裁昭和53年12月20日)。

 

3 単純贈与の課税関係

 ここまで、単純贈与について見てきました。ここからは、単純贈与の場合の課税物件と課税時期の帰属について説明します。税理士の先生にお話するほどのものではありませんが、復習ということでお付きあいください。

3.1 課税物件

 単純贈与に関する課税物件は、その当事者が個人か法人かによってその根拠等が異なってきますので、以下では、場合分けして紹介します。

① 贈与者:個人 受贈者:個人

◯贈与者:個人
 贈与者である個人に対しては、何らの課税もされません。

 ただし、受贈者に対する贈与税については、連帯納付義務があることには注意が必要です(相続税法34条4項)。また、父親が子供に財産を贈与し、子供が負担する贈与税を連帯納付義務に基づいて、納付した場合には、贈与税相当額についても贈与がされたものと理論上はなります。

◯受贈者:個人
 受贈者である個人に対しては、「贈与税」が課税されます(相続税法1条の4)。
 なお、この場合の課税標準は、1暦年間に贈与により取得した財産の価額の合計額となり、「財産の価額」は、財産を取得した日の「時価」となります(相続税法22条)。この「時価」とは、ここでは深く踏み込みませんが、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」をいうものと解されています(東京地裁平成19年8月23日)。

② 贈与者:個人 受贈者:法人

◯贈与者:個人
 贈与者である個人に対して、時価により資産を譲渡したものとみなされて、譲渡所得課税が生じます(所得税法59条1項1号)。
 なお、この場合の時価とは、相続税評価額ではなく、通常の取引価額を言います(最高裁平成4年11月16日)。ここでは、深く踏み込みませんが、この相続税法でいうところの時価と所得税法でいうところ時価は、厳密に言うと定義が異なりますし、考え方の相違があり得るところです。想定されている場面が異なることから生じるのでしょう。

◯受贈者:法人
 受贈者である法人に対しては、贈与された財産の時価相当額の収益があったものとして法人税の益金になります(法人税法22条2項)。

③ 贈与者:法人 受贈者:個人

◯贈与者:法人
 贈与者である法人について、無償の財産の譲渡ですので、その財産の時価相当額が法人税の益金(法人税法22条2項)となり、譲渡益が生じます。
 以前にも解説した2段階説を前提に、①財産の有償譲渡と②そこで上がった時価相当額を贈与したものと捉えることになるからです。
 ②の時価相当額の贈与については、その相手との関係や性質により、役員給与、交際費等、寄附金などどれに該当するのかを検討することになります。

◯受贈者:個人
 こちらも、贈与者との関係により、給与所得または一時所得の収入金額を構成し、所得税が課せられます。

④ 贈与者:法人 受贈者:法人

◯贈与者:法人
 上記③の贈与者と同一になります。

◯受贈者:法人
 上記②の受贈者と同一になります。

3.2 課税時期の帰属

 収益の時期の帰属については、下記のようになります。書面によらない場合に異なってくるのは、上述の通りです。
なお、この場合、財産の評価の時期にも影響があります。

◯書面による贈与
→契約(贈与)の効力が発生したとき
◯書面によらない贈与
→履行のとき

 

4 まとめ

 以上が、贈与についての基本となる法務・税務の話になります。税理士の先生には当たり前の内容だったかとも思います。
 次回は、単純贈与以外の負担付贈与や死因贈与等について解説します。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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