対抗要件とは何か〜物権の取得等を「第三者」に主張するためには〜

 当サイトでは、これまで契約についての解説をしてきました。契約って、物権についてのものと債権についてのものがあるということを解説した記事がありますが、どちらの契約にしろ、契約者(例:売主と買主)のみで決めていますよね。この記事によると債権は、特定の人に対してしかその権利を主張できませんが、物権を取得した場合には、その権利を「誰にでも」主張できるということになっています。

唐突ですが、ここで民法の規定を少し見てみましょう。

(物権の設定及び移転)
民法第176条  物権の設定及び移転は、当事者の意思表示のみによって、その効力を生ずる。

となっています。そうすると、上の説明から物権についての契約者(例:売主と買主)で、契約さえすれば、物権を誰にでも主張できるということになりそうです。

 しかし、この民法176条のすぐしたに以下のような条文があります。

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法第177条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。
(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
民法第178条  動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。

「第三者に対抗することができない。」

 176条では、意思表示のみで物権を取得できるのに、177条、178条では「第三者」には、特定の要件を満たさないと主張できない!?という風な規定になっており、結局物権が誰にでも、主張できるとか言っても、この要件を満たさないといけないかよ。という風にも読めるわけです。これは半分正解で、半分誤りです。

 この177条の登記や178条の「引渡し」は、税理士の先生であればご存知かと思いますが、いわゆる「対抗要件」と呼ばれるものです。

 今回は、この対抗要件について、詳しく見ていきましょう。

1 「第三者」って?

 それでは、まず、民法177条、178条にいう「第三者」とは誰をさすのか見ていきましょう。

1.1 結論的には!?

 結論から言うと上記の通り、民法177条、178条は「対抗要件」を定めたものなのですが、この条文で言うところの「第三者」という意味と物権は「誰にでも主張できる」という時の「誰にでも」というのは意味が異なります。

 例① AさんがBさんに土地を売りました。その土地をCさんが勝手に利用している。
 例② AさんがBさんに土地を売りました。その後、AさんがCさんにも土地を売却し、Cさんがその土地を利用している。

 この2つの事例のCさんの違いが、「第三者」と「誰にでも」の違いになります。
例①のCさんは勝手に土地を利用している人(法律的には、「不法占有者」なんて呼んだりします。) で、例②のCさんは、元の所有者のAさんとちゃんと取引をして土地を購入し、取得した人になります。
 
 結論から言うと、所有権を当事者の意思表示のみで取得したことにより、例①のCさんには、出て行けということができますが、例②のCさんには「対抗要件」を備えない限り、出て行けとはいえません。
 

1.2 理由は?

 ここで、例②のCさんも、すでに民法176条によって、AさんからBさんに土地の所有権は契約のみで、移転しているのだから、その後、無権利者となったAさんから土地を買ったって例①のCさんとかわらないのでは!?というふうにも思えますし、理屈は十分立っています。
 しかし、民法上、「物」の二重譲渡自体は認められています。これがなぜかというと、「実質的に」いうと物権を設定する行為って目に見えないわけです。なので、契約(当事者の意思表示)だけでは、外から見たときに誰が権利者なのかわからないという状況になるわけです。ですので、民法上は「対抗要件」という制度を整備して、これを先に具備したほうが勝つという仕組み(登記の公示力)を採用しました。

 あえて、「実質的に」と表現したのは、かなり細かい話になってしまうのですが、民法は、登記を信じた人を保護しよう(登記の公信力)ということは実は認めていません。なので、学者の先生は、この2重譲渡状態を、対抗要件を備えるまでは、不完全な所有権であり、登記という公示を得て、初めて完全な所有権になるから、それまでは、不完全な所有権は誰に対しても移転させることができるというような説明をして、制度として「対抗要件」という仕組み採用したと説明します。

 すみません。話がかなりわかりにくくなってしまったのですが、一旦まとめると、

対抗要件は、外から見たときに権利者が誰なのかわからないので、制度として必要とされました。
なので、勝手にその「物」を利用しているような人はこの制度で守る理由はありませんよね。

ですので、対抗要件がなければ物権を主張(対抗)できない

「第三者」とは、当事者もしくはその包括承継人(相続人等)以外の者で(ここまでは当たり前ですよね。)、物権の得喪及び変更の登記がさなれていないことを主張することについて正当な利益を有する者

というふうに、法律学上はいわれています。難しいですが、要は例①のように勝手に土地を利用している奴は「第三者」には入んないけど、例②のようにBさんCさんが不完全な物権を両方持っている場合は、「第三者」に当たるよといっています。

 なので、例①のCさんには、対抗要件がなくても、Bさんは不完全でも物権を持っているのだから、出て行けと言えますが、例②のCさんには、対抗要件(この場合は、登記)を備えなければ言えないよということになります。

対抗関係とは?

 なお、例②のBさんとCさんの関係は、対抗関係(対抗要件を備えなければ優劣が決されない関係)と呼ばれます。
当たり前ですが、対抗関係にたたなければ対抗要件を備えなくても権利を主張できます。
 通常は、非両立の物権同士(例:所有権と所有権:物権と債権の違いに関する記事の「3.2」参照)が対抗関係に立ちます。
 ですので、物権と債権、例えば、売買と賃貸借の場合の「買主」と「賃借人」は本来であれば対抗関係には立ちません。ただし、不動産に関する場合は、借地借家法等の特別法で修正がかかっているのは、物権と債権の違いについての記事の「4 売買は賃貸借を破る!?」と同一です。
 ここについては、後日、不動産に特化した記事を書きますので、そちらをごらんください。

2 具体的な対抗要件

 では、対抗要件として、具体的に何が必要なのかということを説明します。

2.1 不動産に関する対抗要件-登記

 まず、不動産についての物権については繰り返しになりますが

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)
民法第177条  不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

ということで、「登記」ということになります。

2.2 動産に関する対抗要件-引き渡し

 次に動産についての物権については、

(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)
民法第178条  動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。

ということで、「引渡し」ということになります。

この「引渡し」とは何かということなのですが、

①現実の引渡(民法182条第1項)
②簡易の引渡(民法182条第2項)
③占有改定(民法183条)
④指図による占有移転(民法184条)

という4つの方法が認められています。これは動産取引についての記事を今後書きますので、そこで詳しく見ていきたいと思っていますので、今回は紹介のみにとどめます。

2.3 債権譲渡に関するもの

 さて、これは物権に関してのものではないですが、債権は債権でも、債権を譲渡する場合には、債権の所有権「的な」ものが移転するということで、物権行為「的」な要素があります。

 そこで、民法では、債権譲渡についての対抗要件も定めています。こちらも詳しくは別記事で紹介しますが、

債務者に債権譲渡を対抗するための①債務者対抗要件
第三者に債権譲渡を対抗するための②第三者対抗要件

というものが存在します。

 ①債務者対抗要件として、譲渡人から債務者に対して債権譲渡の事実を通知するか、債務者から承諾を得るということがなければ、債権譲渡受けた人は、債務者に債務を履行するように請求できません。
 この対抗要件の趣旨は、物権のものとは異なるのですが、要は債務者としては、勝手に債権を譲りうけたという人が出てくると、誰に債務を履行(例えばお金を返す)すれば良いのかわからなくなってしまうので、譲渡した人からの通知か、自分が認めた場合には、そのような危険はないので、債務を履行してねということにしています。

 ②第三者対抗要件としては、譲渡人から債務者に対して債権譲渡の事実を通知するか、債務者から承諾を得るということを確定日付ある証書によって行わなければ、債権譲渡受けた人は、債権譲渡の事実を債務者以外の第三者(債権の二重譲受人・差押債権者・破産管財人など)に対して主張(対抗)できません。
 この対抗要件の趣旨は、物権のものと同じということになります。

3 まとめ

 以上が、対抗要件、つまりは物権等を「第三者」に主張するために必要な要件になります。
なお、合併や分割等の会社法上のものは、別途考慮が必要なので、これはまた後日記載したいと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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