物権(担保物権)の種類②

前回の記事で、物権の種類として「所有権」「用益物権」について紹介しました。今回は、物権の種類のうち、「担保物権」について見ていきたいと思います。
前回の復習になりますが、物権の全体像は下記になります。

物権(所有権・用益物権)の種類①

1 担保物権とは

 例えば、自分が誰かにお金を貸したりした場合、自分はその借りた人に対して、お金を返せという債権(消費貸借契約に基づく貸金返還請求権)を持つことになります。
 ただし、このような債権があっても、相手がちゃんと返してくれなければ、日本の法制度では、裁判をして回収するという面倒な手続きを経なければなりません。また、仮にそのお金を借りた人が、複数の人からお金を借りていて返済ができない場合、最終的には、お金を貸した人(債権者)の間で、債権額に応じた比率で回収する(債権者平等の原則)ということになります。そうすると、現実的には、債権があっても、お金を回収できないという事態が生じてしまうわけです。
 それを防止するために、実務では、保証人をつけたりするわけですが、この「担保物権」も同じ趣旨で、債権の回収をより確実なものとするために必要になります。保証人を付けるというのは、あくまで「人」に着目したものなので、人的担保と呼ばれたりします。一方、「担保物件」は、物に対する権利である物権ですから、物的担保と呼ばれます。

 「担保物権」の中には、法律に規定のある典型担保物権と呼ばれるものと、そうではなく慣習上認められている非典型担保物権という区別があります。さらに典型担保物権の中には、当事者間の契約によらないで法律上当然に発生する法定担保物権と、契約が必要な約定担保物権という区別があります。図にすると下記になります。

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2 典型担保物権と非典型担保物権

まず、典型担保物権とは、民法上法律の定めがあるものを言います。上の図で言うと、「抵当権」、「質権」、「先取特権」、「留置権」になります。
 一方で、非典型担保物権とは、法律の定めがなく、慣習等で認められるにいたったものです。

2.1 約定担保物権

 まずは、約定担保物権からそれぞれの権利の概要を見ていきましょう。この「約定」の意味ですが、当事者間の合意によって、物権を設定するものであるため、「約定」というように呼ばれます。

抵当権

 これは、多くの税理士の先生がよくご存知の銀行でお金を借りる時に不動産につけるものです。

 抵当権とは、債権者(例:お金を貸した人)が債権を担保するために、債務者(お金を借りた人)や第三者が所有する不動産に対して、その占有を移転することなく設定する担保物権をいいます。
 債権者は、債務者がちゃんと約束通りにお金を返してくれない場合、抵当権を実行し、その不動産を競売手続きにかけることにより不動産を金銭に換えて、競売代金から他の債権者に優先して債権の回収を図ることができます。この意味で、抵当権には「優先弁済的効力」があるといわれます。
 逆に債務者は、抵当権の場合、占有を移転する必要がないため、これまで通り、その不動産の使用、収益をすることが可能です。これは下記の質権との大きな違いになります。

質権

 質権は、債権者が債権を担保するために、債務者や第三者から提供を受けた財産を債権者が占有する担保物権です。債権者は債務者がちゃんと約束通りにお金を返してくれない場合には、その財産の所有権を債権者が取得したり、その財産を売却することにより金銭に換えて、他の債権者に優先して弁済を受けることができます。ですので、質権にも「優先弁済的効力があるということになります。

 一方、質権を設定するには、質権を設定した債務者又は第三者は、質権者にその財産を引き渡さなければなりません(占有させなければなりません)。さらに、質権者は、その財産を質権を設定した債務者又は第三者に占有させることがもできません。これが抵当権との大きな違いになります。つまり、質権の場合は、債務者や第三者は、質権の使用、収益をすることができない点に注意が必要です。
 なお、債権者が、その物の占有を持つことで、それを取り返したければ、債務者は約束をちゃんと守ってくれるだろうという間接的に債務の履行を促す力も質権にはあります。これを「留置的効力」なんて呼んだりします。

2.2 法定担保物権

 法定担保物権は、約定担保物権と異なり、当事者の合意などによって発生するものではなく、一定の条件が備われば、法律上当然に発生する権利になります。そういう意味で「法定」という言葉が使われています。

留置権

 法定担保物権で最もポピュラーなものになります。留置権は、法定担保物権の一つであり、他人の物を占有している者がその物に関して生じた債権を有している場合に、債権の弁済を受けるまで、その物を留置する(自分の手元に留めおく)ことができる権利のことをいいます。ただし、その物に生じた債権を有していたとしても、その債権の弁済期(お金を返す期限)がまだ到来していない場合には、債権者は留置権を主張することはできません。

 留置権は、債務者がお金を返さないからといって、その物を処分してお金に換える等の行為はできません。そういう意味で、抵当権や質権に認められた「優先弁済的効力」はありません。一方で、質権にあって、抵当権にはなかった「留置的効力」は認められます。上の留置権の説明からもわかる通り、ちゃんと債務が守られなければ、その物を自分の手元に置いておくことができるので、債務者としては、ちゃんと約束を守らなくては。。。ということになりやすいということです。

 例えば、携帯電話を修理に出したとします。修理の依頼主が修理費を払わないときには、「留置権」により、修理の終わった携帯電話を修理の依頼主に返さずに手元に置き続けることができます。

先取特権

 先取特権は、法律の定める「特別な債権」を有する人が、債務者の財産から法律上当然に優先的に弁済を受ける権利です。つまり、優先弁済的効力が認められるものとなります。
 先取特権には、様々な種類がありますが、ざっくりまとめると以下のようになります。

◯ 一般の先取特権(債務者の総財産に対する先取特権)
・ 共益の費用・雇用関係
・ 葬式の費用・日用品の供給
◯動産の先取特権(債務者の特定の動産に対する先取特権)
・ 不動産の賃貸借・旅館の宿泊
・ 旅客又は荷物の運輸
・ 動産の保存
・ 動産の売買
・ 種苗又は肥料の供給
・ 農業の労務
◯工業の労務 不動産の先取特権(債務者の特定の不動産に対する先取特権)
・ 不動産の保存・不動産の工事
・ 不動産の売買

以上が、典型担保物権についての解説になります。

 

3 非典型担保物権

 慣習上認められている非典型担保物権について解説します。このような担保「物権」を認めるのは、物権は法律によって認められたものではならないという物権法定主義(民法175条)に反するのではないかと古くから言われていますが、判例・通説とも認められおり、実務上もそのように扱われています。

3.1 譲渡担保

 譲渡担保とは、譲渡担保を設定する債務者または第三者の財産の所有権を、債権の担保として債権者に譲渡し、債務が弁済された場合はその所有権を設定者に返還し、債務不履行の場合はその権利を債権者に帰属させることで、債権の回収を図るという約定による担保物権です。

 担保の目的で、形式上は所有権を債権者に移転して、債務者がちゃんと債務を履行(約束を守れば)返してあげますよということをするわけです。

 なお、税理士の先生であれば、この譲渡担保の税務上の処理等も気になるかと思いますが、税法上は、譲渡担保は、担保目的の形式上の所有権移転に過ぎないため、譲渡担保契約をしたのみでは「譲渡」を観念しないということにされています(通達上は課税庁への、一定の行為を要求されていますが、税法上要求されているものではありません)。

3.2 所有権留保

 所有権留保とは、売買契約の売主が,その代金の完済を受けるまで,目的物の所有権を留保することで、代金の完済という買主の債務を担保する性質を持ちます。つまり、売主は,買主が約束通りにお金を支払わないときに,留保している所有権に基づいて目的物を引き揚げて,そこから、物を換価したり、別の利用方法をしたりということを通じて債権を優先的に回収します。自動車の販売等ではされることが多いですよね。

 税務上の話をすると、所有権留保の場合、譲渡担保と異なり、実質的には所有権を買主に移転しているが、形式上所有権を売主に留保しているというように捉えられるため、原則として、「引渡基準」によって譲渡所得の課税時期が決まることになります。もちろん、一定の条件のもと、延払条件付販売等については例外的な処理が可能な点は言うまでもありません。

 

4 まとめ

 以上、ざっくりではありますが、担保物権というものの概要をさらっていきました。もちろん、各物権ごとにより細かな深い議論がある部分ではあります。今回は概要を知っていただくために、担保物権全体を見ていただければ良いかと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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