債務免除(債権放棄)と寄附金の関係 〜貸倒れの税務と法務⑤〜

 前回は、貸倒れとの関係における債務免除の有効性について解説しました。今回は、債務免除が有効に成立しているとしても、貸倒れの要件事実である当該債権の社会通念上回収不能といえない場合に、その債務免除額は税法上どのように扱われるのかを書きたいと思います。
  

1 貸倒れと債務免除の関係

 前回の記事で詳細に書きましたが、債務免除の意思表示があると債務(債権)が消滅します。
 しかし、債務免除があったとしても、貸倒れと認められるためには、当該債務(債権)が社会通念上回収不能と評価できる場合でなければなりません。そのように評価できなければ当然「貸倒れとしては」損失(法人税法22条3項3号)と言えず、損金の額に算入することができません。
 

2 債務免除と寄附金の関係

 そのような場合にその債務免除した額はどうなるのかというと、税理士の先生ならご存知の通り、「寄附金」(法人税法37条)と認定され、損金算入が制限されるケースが多いです。具体的に法人税法の条文から一度見てみましょう。

2.1 債務免除と寄附金の課税要件

法人税法37条
・・・省略・・・
7  前各項に規定する寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもつてするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。次項において同じ。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする。
・・・省略・・・

回収不能でないにもかかわらず、債務免除をした場合は、下線を引いた部分の「経済的な利益」(回収できる債権額)を債権者が債務者に「無償の供与」をしているといえるため、「寄附金」と認定される可能性が高いということですね。

 ただし、債務免除が貸倒れの回収不能の要件を満たさない場合でも、損金算入が制限される「ケースが多い」と表現しているのは、あくまでも「経済的な利益の〜無償の供与」という寄附金の課税要件事実が認定できなければ、寄附金とならない(法人税法22条3項により損金算入が認められる)こともあるということです。

2.2 「経済的な利益の〜無償の供与」該当しないケース

 では、回収不能ではない債務の免除が「寄附金」に該当しない場合とはどのような場合をいうのかという点について、検討していきましょう。
 
 寄附金の損金算入制限の趣旨は、法人が支出する寄附金には、収益を生み出すのに必要な費用なのか、それとも単なる利益処分なのかを判別をすることが理論上も実際性も困難であることから、一律に損金算入を制限し、課税の執行可能性や公平の確保する点にあると言われています。
 
 そうであれば、「経済的な利益の〜無償の供与」に当たるか否かの判断についても、その趣旨を踏まえて、単なる利益処分ではなく、収益を生み出すのに必要な費用と明らかに判別できるような場合。
 つまり、債務免除であったとしても、「通常の経済取引として認めることができる合理的な理由」があれば、「経済的な利益の〜無償の供与」には当たらないと評価されるものと考えて良いということが言えるかと思います(ここでは法人税法37条のカッコ書きの限定列挙説・非限定列挙説等の法理論的な議論には踏み込みません。)。
 
 ただし、回収可能な債務免除は、債権という権利を放棄するのですから、よっぽどのことがないと、「通常の経済取引として認めることができる合理的な理由」があるとは評価しにくいかと思います。
 裁判例上は、その債務免除が①やむを得ず行われるものであること(必要性)②相当な理由があること(相当性)が必要とされています。
 かなり抽象的でわかりにくいですが、税理士の先生がよくご存知の、以下の通達もこの考え方に基づいて作成されています。なお、下線と太字になっているところは筆者の注です。
 

    (子会社等を整理する場合の損失負担等)

  1. 9-4-1 法人がその子会社等の解散、経営権の譲渡等に伴い当該子会社等のために債務の引受けその他の損失負担又は債権放棄等(以下9-4-1において「損失負担等」という。)をした場合において、その損失負担等をしなければ今後より大きな損失を蒙ることになることが社会通念上明らかであると認められるためやむを得ず(必要性)その損失負担等をするに至った等そのことについて相当な理由があると認められるときは、その損失負担等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。(昭55年直法2-8「三十三」により追加、平10年課法2-6により改正)
    (注) 子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる(以下9-4-2において同じ。)。
    (子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)

  1. 9-4-2 法人がその子会社等に対して金銭の無償若しくは通常の利率よりも低い利率での貸付け又は債権放棄等(以下9-4-2において「無利息貸付け等」という。)をした場合において、その無利息貸付け等が例えば業績不振の子会社等の倒産を防止するためにやむを得ず行われるもの(必要性)で合理的な再建計画に基づくものである等その無利息貸付け等をしたことについて相当な理由があると認められるときは、その無利息貸付け等により供与する経済的利益の額は、寄附金の額に該当しないものとする。(昭55年直法2-8「三十三」により追加、平10年課法2-6により改正)
    (注) 合理的な再建計画かどうかについては、支援額の合理性、支援者による再建管理の有無、支援者の範囲の相当性及び支援割合の合理性等について、個々の事例に応じ、総合的に判断するのであるが、例えば、利害の対立する複数の支援者の合意により策定されたものと認められる再建計画は、原則として、合理的なものと取り扱う。

 

3 まとめ

 少し長くなりましたが、最後に債務免除についての貸倒れ・寄附金の関係を整理すると

ということになります。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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