債務免除(債権放棄)の有効性と貸倒れの要件 〜貸倒れの税務と法務④〜

 今回からは、法人税法基本通達9−6−1(4)の債務免除による貸倒れについての書きたいと思います。税理士の先生の業務の中で、実務上最も多い貸倒損失計上の仕方だと思います。  
 この記事では、債務免除による貸倒れの要件と、その要件のうちの一つである債務免除の有効性について書きたいと思います。  

1 債務免除と貸倒損失の要件

 まず 債務免除による貸倒損失を計上できる場合の要件ですが、下記になると考えられます。

債務免除の有効性・・・・・・・・・・・・・①
当該債権の回収不能・・・・・・・・・・・・② 
↓ ※②の要件がない場合
寄附金や役員賞与等認定される可能性大・・・③

 まずは、当たり前ですが、「債務免除による」場合ということなので、①債務免除が有効に成立し、債務が消滅している、ということが必要になります(当然ですが、債務免除が貸倒れの法人税法上の課税要件事実というわけではありません。)。  

 また、無条件に債務免除して貸倒れにならないのは当然ですよね。そして、貸倒総論に関する記事でも説明した通り、貸倒れの要件事実は、債権が社会通念上不能であるということなので、②の要件が必要になります。通達上の「債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において」というのも例示となります(実務上は、「事実上の貸倒れ」よりも緩い印象)。
   
 そして、この②の要件が満たさなければ、寄附金や役員賞与等との認定を受ける可能性が高いです。この寄付金等については、また後日の記事で書きたいと思います。
   
 今回は、要件のうち①を見ていきたいと思います。

 

2 債務免除(債権放棄)の有効性!?

 それでは、債務免除が有効に成立する要件は何でしょうか。

2.1 債務免除の意思表示

民法第519条  債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。

 いきなり民法の条文をあげさせていただきました。

 条文そのままですが、債権者の債務者に対する「債務を免除しますよ」という意思表示が債務免除ということになります。  
 そして、この意思表示は、契約ではなく単独の法律行為ですので、債権者が一方的に行えば、その債権(債務)は消滅します。

2.2 効力の発生時期

 民事上は、あまり問題になりませんが、税務上の貸倒れでは、いわゆる期ズレの問題があるため、いつ効力が発生したかが重要になるケースがあります。それについては、民法97条1項に定めがあります。

民法第97条  隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

 「隔地者」については、ここでは「対面ではない場合」と思っていただけれければ良いです。通常、このケースです。実務上は、債務免除した証拠を残すために内容証明郵便を利用すると思いますので。
 条文上、その通知が相手方に到達した時に債務免除の効果(債務の消滅)が生じるということになります。

 

3 債務免除の方法

 上で既に書いた通り、貸倒損失にするために債務免除をする場合、税務調査に備えて、債務免除をした証拠を残しておくことが重要になりますので、内容証明郵便という形式でなされるのが一般的かと思います。
 ただし、内容証明郵便の場合、何らかの事情で、相手方(債務者)の手元に届かないということもあり、その場合の相談を税理士の先生から受けることも多いのです。そうすると上で書いた「意思表示の到達」がないということで、債務免除が有効に成立しないということにもなりかねませんので、以下、原因別に実務上の対応策を書いておきます。

3.1 内容証明郵便の受取拒否または不在が続く場合の対応

 まず、問題になるのが、内容証明郵便の受取拒否がある場合に、上記の民法97条の「到達」があると言えるかです。    
 この「到達」の意味については、下記の判例が先例になります。

最判昭和43年12月17日   相手方によって直接受領されまたは了知されることを要するものではなく、意思表示または通知を記載した書面が、相手方のいわゆる支配圏内に置かれることをもって足りる。

 あくまでも直接受領または了知される必要はないとされており、「相手方(債務者)の支配圏内」に入れば足りるとされています。では、受領拒否や不在の場合、内容証明は戻ってきてしまうのですが、この場合に支配圏内にあると評価できるのかが問題になるわけです。  

判例としては、

大判昭和11年2月14日 数回配達された内容証明を受領拒否した場合、到達が認められた事例
最判平成10年6月11日 不在のため配達されず、差出人に返送された場合、受取人が書面の内容を推知できたであろう状況にあったこと、受領の意思があれば容易に受領できたことの事情があるときには、到達したとされた事例

等があり、認めれるケースも多いですが、結局は事案に応じた事実認定になってしまい安定性があまりありません。

ですので、実務上は下記の方法が適切かと思われます。

①内容証明郵便と同一内容の特定記録郵便を1通づつ送る
②内容証明の文末に「なお、念のため同内容の文書を特定記録郵便でも発送したことを申し添えます。」と記載し、郵便の封筒に日付を記載して、コピーを保存。

 つまりは、特定記録郵便を合わせて送ると、その郵便物は相手の意思にかかわらず、不在であっても、ポストに投函してもらえます。そうすると、債務者が自由に取り出し等可能なポストに郵便が存在しているわけなので、上記の「到達」についての判例の「相手方(債務者)の支配圏内」と評価できるわけです。
 そして、特定記録ですと、到達したこと自体について証拠を残すことができます。一方で、その文書の内容については、特定記録郵便では、証明できませんが、②の文言を追加することで、内容証明郵便と同じ内容の文書だったことの証拠を残すことができるということで、この方法を弁護士等はよく使います。
 債務免除の場合、相手方にとって有利な話なので、民事上で揉めることはあまり想定できませんが、計上時期等が重要になりそうな貸倒事案では、この方法をとることも一案です。

3.2 相手方(債務者)が行方不明の場合

 この場合、貸倒れの課税要件事実からは、社会通念上全額回収不能ということで貸倒損失とするというのが王道(事実上の貸倒れ)かとは思いますが、税理士の先生からは、実務上債務免除なしの事実上の貸倒をするのは、税務調査の兼ね合いで怖いので方法はないかという質問を受けたりもしますし、どこまで行方を追いかけて、証拠をどのように残せば良いのかということも不安な方もいらっしゃるようです。
 税務調査においても、債権を回収する気があるから債務免除しないのでしょうといわれるおそれがあり、大きな貸倒れだと実務上より安全な方法はないか?という趣旨なのでしょう。

 その場合には、民法98条の「公示による意思表示」という制度を利用するということも一案かと思われます。

(公示による意思表示) 民法第98条  意思表示は、表意者が相手方を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、公示の方法によってすることができる。 ・・・以下、省略・・・

今回は詳細を省略しますが、

①相手方が誰かわからないこと
または
②相手方の所在がわからないこと
(相手方が法人の場合は、法人及び代表者の所在)

場合に利用することができます。 概要としては、

◯官報掲載または区役所掲示より2週間で意思表示の効力が発生
◯裁判所が、到達証明書を発行
◯費用は、2,000円程度
◯裁判所に報告書を提出する必要がある

というようなものです。 裁判所が到達証明書を発行してくれるため、債務免除がないという理由で、調査官に反論されることは実務上はあまり想定できないかと思います。 ただし、その後裁判等で、相手方の所在が分からなかったことに過失があると証明された場合には無効になりえますので、あくまでも本当に相手が見つからない場合の証拠作りとして考えていただければと思います。

 

4 まとめ

 以上が、債務免除による貸倒損失の要件とその要件のうち、①債務免除の有効性という点についての解説でした。
 課税要件事実上は、必ずしも債務免除は必ずしも要件ではないですが、実務上いわゆる「事実上の貸倒れ」を利用するケースが少ないと思いますので、重要な部分かと思い解説させていただきました。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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