貸倒れと法的整理手続きの個別論点・注意点 〜貸倒れの税務と法務③〜

 前回、法的整理手続きの概要と貸倒れの関係について、解説しました。今回は、法的整理手続きと貸倒れの関係で、個別的な論点や注意点について少し見ていきたいと思います。

1 条件付き再生・更生案の認可決定があった場合

 民事再生や更生手続きにおいては、裁判所の認可決定があった時点で、債権者の債権がカットされるということから、その時点で貸倒れということになります。    
 例えば「1000万円の債権のうち、400万円をカットします」というものであれば、600万円分が貸倒れになることになります。

 しかし、現実の再生や更生案の認可決定においては、単純に債権を一部カットするというものではなく、ある一定の条件が成立して、初めて債権カットの効果が生じるものや債権カットの効果がなくなるとするものも存在します。前者を「停止条件付き」債権の切捨て、後者を「解除条件付き」債権の切捨てと呼ばれるものです。    
 このサイトでは、まだ「停止条件」と「解除条件」の意味や違いを解説していませんので、税理士の先生向けの法律サイトですので、そこをまず解説した上で、具体例を見ていきたいと思います。  

1.1 停止条件と解除条件

(条件が成就した場合の効果) 民法第127条  停止条件付法律行為は、停止条件が成就した時からその効力を生ずる。 2  解除条件付法律行為は、解除条件が成就した時からその効力を失う。 3  ・・・省略・・・

この条文の第1項が停止条件、第2項が解除条件を定めたものになります。   
 停止条件は条件が設定されその条件が達成された時に法効果が発生するもので、解除条件は法効果が既に発生しているものに対して、その条件が達成された時にその既に発生している法効果を失わせるものです。
 例えば、不動産の売買契約等で、「移転登記の完了時点で、所有権が移転する」という契約だとすると、移転登記の完了を条件として、所有権移転という法効果が発生するということになりますので、「移転登記の完了」が停止条件ということになります。

 一方、「(当該売買契約により所有権が移転するが)、契約締結後2ヶ月以内に移転登記が完了しない場合には、所有権の移転がなかったものとする」という契約だとすると、売買契約の締結で所有権移転という法効果が既に発生していますが、「契約締結後2ヶ月以内に移転登記が完了しない場合」という条件が達成されると所有権の移転の効果が消滅するということになりますので、「契約締結後2ヶ月以内に移転登記が完了しないこと」が解除条件ということになります。
 なお、余談ですが、「(当該売買契約により所有権が移転するが)」にカッコがついているのは、何も定めがなければ、所有権は契約の成立(意思表示の合致)の時点で、移転するものであるからです。この理解を前提に、下記の再建型の倒産手続きと貸倒れとの関係の具体例を見ていきましょう。

1.2 停止条件付き債権切捨て(カット)

◯X社はY社に対して、1億円の債権を有している

    ◯Y社は民事再生手続きをし、下記の条件の計画認可決定を受けた。

  1.  ➀X社の1億円の債権のうち、5000万円はカット
  2.  ➁残りの5000万円のうち、4000万円は毎年400万円ずつ、10年弁済
  3.  ③10年間弁済を計画通りに行うことを条件に残額1000万円もカット

【質問】
この場合、カットすることとされている。①5000万円と③1000万円は、認可決定時点をもって、貸倒れとなるか?

 まず、①の5000万円の債権カットについては、認可決定の時点で、確定的に債権カットという法効果が発生しているので、この時点で貸倒損失となります。

 問題は、③の1000万円ですが、「10年間弁済を計画通りに行うこと」を条件に債権カットという法効果が生じるとされていますので、これは停止条件付き債権カットということなります。そして、上述の通り、停止条件は、条件が達成された時に法効果が生じるものであるので、10年弁済を計画通りに行って、初めて、1000万円の債権カットの効果が生じるものといえます。  
 したがって、③の1000万円の貸倒れが生じるのは、10年間弁済を計画通りに行うというを条件が達成された時点ということになります(あくまでも、法律上の貸倒れの場合)。        
 なお、②の分割払い4000万円のうち、5年経過後の2000万円は、引当金設定が可能(法人税法施行令96条1項1号・2号)です。

1.3 解除条件付き債権切捨て(カット)

◯X社はY社に対して、1億円の債権を有している。

    ◯Y社は民事再生手続きをし、下記の条件の計画認可決定を受けた。

  1.  ➀X社の1億円の債権のうち、8000万円はカット
  2.  ➁ただし、Y社に追加弁済原資が生じた場合、X社は、3000万円まで追加弁済を受けることができ、追加弁済部分の①のカットは、弁済を受けた時点で効力を失う

【質問】
この場合、①でカット8000万円は、認可決定時に貸倒れとしても良いか。それとも、3000万円分は、追加弁済を受ける可能性があるので、貸倒れとはできないのか?

 ②の計画内容を見てみると、「Y社に追加弁済原資が生じた」という条件が達成されると上限を3000万円として、①の債権カットの法効果を消滅させるということなので、これは解除条件付き債権カットということになります。
 そして、この解除条件というのは、あくまでも認可決定の時点で、①の8000万円の債権カットの効果が生じているということを前提にしいます。この法効果から考えると、解除条件は考慮せず、認可決定の時点において、8000万円全額を貸倒れとして良いと考えられます。  
 裁判所関与の下、行われた計画に基づく認可決定の内容ですし、計上時期の恣意的な操作が行われるという側面も弱いところからも、このように考えて良いでしょう。

 

2 非更生債権等

 前回の記事でも説明しましたが、更生手続が開始されると債権者の届出等に基づき更生債権(更生手続きに参加する債権)の確定ということがされます。このような届出等をせずに、更生手続きに参加しない債権者の債権はどうなるのでしょうか。    
 これは、通達(法人税法基本通達14−3−7)にも記載があるのですが非更生債権等と呼ばれたりします。以下の事例で見ていきましょう。

◯X社はY社に対して、150万円の債権を有している。

◯X社は、平成28年3月21日までに債権を届け出るように通知を受けた。

【質問】
手続き参加にも手間がかかるので、X社として、あえて届出をせずに今期で損失処理をしようと考えておりますが、問題ないでしょうか。

 会社更生法上、更生計画の定めや会社更生法の規定に定めのある権利以外の債権は、更生計画の認可決定があった時点で、法律上消滅します(会社更生法204条1項)。
ですので、届出をしていない債権者の債権も法律上は、認可決定時点で消滅することになりますので、その時点で法律上の貸倒れということになります。ですので、届出をしなかったとしても、認可決定前に法律上の貸倒れとして、損失処理をすることはできません。
 なお、いわゆる事実上の貸倒れとして、全額の回収が不可能として、貸倒れとすることもありえますが、そのような場合には、当然それを基礎付ける証拠が必要でしょうし、更生手続きの中で、一部債権を回収できる見込みがある(少なくとも回収努力として手続きに参加すべき)とされる可能性が高いので、やはり認可決定前に貸倒れとするのは難しいかと思います。

 

3 再生・更生手続きにおける債権放棄

 次に、再生・更生手続きに入ると、債務の弁済や和解は、原則禁止されます(会社更生法47条1項、民事再生法85条1項)。    
 ただし、例外的に裁判所の許可を得て、少額の債権者などに弁済をすることができるという規定が存在します(会社更生法47条5項、民事再生法85条5項)。以下は、同種事例が質疑応答事例にも掲載されていますが、少し見てみましょう。

◯X社はY社に対して、150万円の債権を有している。

◯Y社は、更生手続き中に、裁判所の許可を受けて、次の内容で150万円以下の債権者に対して弁済をする。

  1.  ➀総額が75万円以下の債権は全額を弁済する。
  2.  ➁総額が75万円超え150万円以下の債権は、75万円を超える部分の相当額の債権を放棄することを条件として、75万円を支払う。弁済を受けない場合は、その金額を更生債権として更生計画に組み入れる。

【質問】
②の条件に従って、X社が75万円の弁済を受ける場合、75万円については、債権放棄をすることになりますが、貸倒損失として良いでしょうか。

 この場合、法的には、75万円について、債権放棄をしていることになり、寄附金とならないのかが一応問題となります。法人税法基本通達9−6−1も認可決定を受けた場合とされていることから、認可決定前の債権放棄が貸倒損失と言えるかという問題です。
 寄附金の課税要件については、後日の記事に詳細を譲りますが、この場合、裁判所の許可のもと、上記弁済の条件が出され、もし拒否すれば、更生計画に組み入れられることになり、75万円分の回収ができるという保証もありません。このような状況で、確実に75万円の弁済を取りに行くというのは経済的にも合理性があるものと評価できそうですので、貸倒損失として計上しても良いものと考えられます。      
 なお、上で紹介した質疑応答事例も同様の回答となっています。

 

4 まとめ

 以上が、法的整理手続きの個別論点・注意点となります。破産手続きや特別清算等についても、前回の記事であげたものも含めて注意点はあるのですが、長くなってしまいましたので、またこのサイトで取り上げたいと思います。今回は再建型が中心となりましたが、税理士の先生のご参考になればと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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