税務判断と民法・会社法の交わりについて

 さて、当サイトでは、税理士の先生が抑えておくべき法律情報を提供しています。その中で、当サイトでは、民法や会社法という私法についても解説していきます。
 では、そもそも税務の専門家である税理士の先生が私法を学ぶ必要性がどこにあるの?
 という点について、税務判断と私法(民法・会社法)という視点から解説していきたいと思います。

1 税務判断と民法・会社法等

 まず、民法・会社法は、税務判断と大きく関連します。

1.1 民法との交わり

 まず、実際のビジネスでは、

①経営判断→②経済的行為→③記帳→④期末決算→⑤申告書提出・・・・

というように流れが進んでいきます。ここで、税務判断の対象となるものは、②の経済的行為ということになります。

そして、②の経済的行為は、契約(取引)によって構成されます。

 ですので、税務判断の前提として、②経済的行為が,どのような契約類型であるのかがとても重要となります。その契約を規律する一般法が、「民法」ということになります。

1.2 会社法との交わり

 例えば、会社法は、合併、吸収分割や事業譲渡等について定めをおいています。
そして、そのルールを前提に法人税法は、適格合併等の要件を定めています。さらにいえば、税務上どのようなスキームを組むことがベターなのかという点についても、会社法を理解していなければ手段選択すら難しいことになります。減資の手続き等も同様に考えられます。
 また、合併、吸収分割や減資自体には、必要な法的手続きがあり、それが実行されなければ無効となってしまうおそれすらあるのです。

 こういう意味で、会社法の大枠だけでも、理解しているということが、適切な税務スキームを組んだりする上でとても重要になってくるのです。

2 借用概念

 「借用概念」とは、租税法上にその言葉の意味について規定がされていなくても、その他の法律に規定があるものは、租税法上に特別な規定がない限り、そのその他の法律の規定にしたがって解釈しようという考え方で、これが現在の判例・通説です。
 ある言葉の意味を、その他の法律では別の意味で解釈されているにもかかわらず、租税法においては、別の意味に解釈するとなると、租税法律主義の主要な機能である国民の法的な安定性と予測可能性を失わせてしまう(不意打ちになる)ということで、このように考えられいます。

 あえて、詳細な説明はしませんが、かの有名な武富士事件(最判平成23年2月18日)においても、最高裁は借用概念について上記の考えを前提に、相続税法上の「住所」は、民法のそれと同じく「客観的に生活の本拠たる実体を具備しているか否かで決」するものとしています。

 このように、税法の解釈を行う場合には、その言葉の意味について、特に私法の一般法である民法に規定される言葉を学んでおく必要があるということです。

3 租税回避論との関係

 次に、よくいわれている租税回避論についても、民法や会社法の私法が大きな影響を及ぼします。

3.1 租税回避とは!?

 簡単に租税回避を説明すると、

法律が想定する通常の取引形式とは異なる不合理で異常な取引形式をあえて選ぶことによって、
通常の取引形式とほぼ同じような経済的効果を実現しながら、通常の取引形式の場合と比較して、税金の負担を減らしたり免れたりする行為

をいいます。
節税でもなく、脱税でもないというある意味でグレーゾーンになる部分です。

しかしながら、税法には、憲法の要請である租税法律主義があるため、このグレーゾーンといっても、法律に規定がない以上は、その税の免減の効果を否認することはできません。どの契約形式を選ぶかは、民法の大原則である「私的自治の原則」(自分のことは自分で選択できる。)から自由だからです。

3.2 私法上の法律構成による否認?

ただし、だからといって、「契約書」の名前が「こうであれば、こうなる!」というものではありません。
 有名な映画フィルムリース事件(大阪高判平成12年1月18日)では、真実の当事者の意図から私法上の法律構成による契約の内容に基づいて課税が行われるべきとされています。
 これは、証拠による綿密な事実認定の下、私法上の法律構成がなんであるかを確定させ、課税判断を行うということとされています。この法律構成を確定させるためには、民法の契約に関する知識と民事訴訟法における証拠法に関する理解が不可欠となります。そういう意味でも、税理士の先生が、税法以外の法律(特に民法)を学ぶ意義は大きいものと言えると思います。

 なお、上記の裁判例は、証拠からの認定のレベルの話をしており、課税効果を実体的に否認するものではなく、あくまで証拠からの事実認定ということで、「租税回避の否認」とは捉えられないと考えられます(ここについては、評価の仕方が学者の先生の間でも異なるところではありますが)。

4 まとめ

 以上より、私法特に一般法である「民法」が、税理士の先生が行っている税務判断にどれほど強い影響があるかということをご理解いただけたかと思います。
 今後、このサイトで、民法等の私法について少し深く解説していきますので、是非、ご覧になっていただけると幸いです。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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