通達や事務運営指針の法律的な性質

  さて、前回の記事では、いわゆる「税法」が全法律体系のどこに位置付けられるのかを含めて、法律全体の体系を説明しました。
 ところで、税理士の先生方は、税務判断をする際に、「通達」を参考になさると思います。その他、国税庁のHPに掲載されている「事務運営指針」もご覧になるのではないでしょうか。
 
 今回は、この「通達」や「事務運営指針」が法律的にはどのような性質を持つものなのかという点を解説していきたいと思います。

 

1 通達・事務運営指針の行政法学上の位置付け

 まず、通達や事務運営指針について、理解する前提として、「法律」と「法令」という区分があります。

1.1 法律と法令

 法律とは、まさに法律のことで、税法でいうところの国税通則法や所得税法を指します。
 法令とは、この法律に加えて、法律により委任されて行政が定める命令や規則を含む概念です。この「法律により委任」されて行政が定める命令や規則というのが、税理士の先生方もよくご存知の「施行令」や「施行規則」になります。

 この法令(法律+施行令や施行規則)は、まさに国民の代表機関である国会が定めた法律とその法律が行政に許した命令となりますので、国民(納税者)に対しても拘束力を持つものとなります。

1.2 通達や事務運営指針の性質は?

 
 では、通達や事務運営指針はなんなのでしょうか。

 通達や事務運営指針は、行政(税務分野では、主に国税庁長官)が(勝手に?)定めているもので、これはもちろん法律でもなければ、法律が委任して定められた法令でもありません。行政組織内部におけるものであり、行政の統一的な事務処理等のために行政組織内で定められたものに過ぎません。

 ですので、この通達や事務運営指針は、法令にも含まれません。
国民の代表機関である国会の意思により定められた法令ではなく、行政が作ったに過ぎないものなので、国民を拘束するものではないということになります。

 これを行政法学上「行政規則」と呼ばれています。

2 通達課税の禁止

上記の通り、通達は法律ではないことから、通達による課税はできません。

2.1 通達課税禁止の根拠

 特に税法分野においては、前回解説した法令体系に関する記事からもわかるように、租税法律主義というものがあります。法律によらなければ、課税してはならないというものです。ですので、国民(納税者)の意思に基づかない行政規則である通達によって国民に納税義務を与えることを許されません。

 これが、税理士の皆様もよくお聞きになる「通達課税の禁止」の根拠となっています。

2.2 通達課税に当たるか否か

 もちろん、通達課税に当たるのか否かという論点は別に生じることになります。

 理論上は、①通達によって新たな課税が生じたのか、②そもそも法律が定めた内容に沿ったものが通達で定められていただけで、通達の内容により更正処分等がなされたとしても、それは法律に基づくものであると言えるのかが争点となります。

3 通達に関連する争い方

 さて、以上のように通達や事務運営指針は、法令ではないので、国民(納税者)を拘束するものではありません
それでは、通達の内容等に問題があると考える場合に、この通達を争うことはできるのでしょうか。 

3.1 通達の内容を争点にしたい場合

 例えば、裁判の場面を想定すると、通達内容を争点としたい場合、その通達内容通りの処分(更正処分等)の取消を求める中で、通達の内容について争う方法があります。
 通達自体がおかしいことを争点とするには、 

 ① 通達課税にあたり租税法律主義、つまり憲法違反である
 ② その通達(行政規則)自体が法律に違反しているため、その通達に基づく処分も当然違法である

という2つのパターンが考えられます。
 

3.2 通達によらない処分を争う場合

 上記とは別に、むしろ通達(行政規則)によれば、更正処分がなされるはずがないのになされた等の場合で、通達に反する処分であることを争いたい場合には、

 通達(行政規則)によらない処分は、他の国民に適用される処分とは違う基準でなされたものであり、平等原則(憲法14条)に違反する。

というように主張することになります。

ただし、憲法14条が定める平等原則は、合理的な区別まで許されないというものではありません。

 ですので、実際には、通達の内容によらない処分を争う場合には、その通達とは異なる処分が合理的な区別といえるか否かが争点となります。

4 まとめ

 以上が、争い方を含めた通達や事務運営指針の解説になります。
行政法学的にいうと、これらは「行政規則」といわれるもので、国民を拘束しないという点について抑えておいていただければと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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