性質から見る証拠の種類〜書証・人証等〜

 前回は、機能面から見た証拠の種類として、直接証拠や間接証拠について解説しました(機能から見た証拠の種類についての記事)。今回は、証拠自体の性質からの証拠の整理をしてみたいと思います。この性質に着目した証拠の分類を「証拠方法」と呼んだりします。

 

 

1 物証と人証

 まず、大きな性質面の違いとしては、「物証」と「人証」という区別があります。

 言葉からイメージはできるかと思いますが、物証とは書面等の物体や物理的現象なんかをいうもので、人証は人の証言などをいいます。
後者は、テレビドラマフォーカスされることが多い裁判シーンの証人尋問等です。「異議あり!」などの場面ですね。
 以下、物証の中で税理士さんが知っておくべき「書証」と「人証」について詳しく見ていきたいと思います。

 

2 書証

 「書証」とは、言葉のイメージ通りですが、文書についての証拠を調べることを言います。文書は、言葉のイメージ通り、契約書等があります。文書をもうちょっと法律的な言い方でいうと、「人の思想内容が文字その他のこれに変わる可読的符号により記載されている有体物」なんて表現されてます。。。まぁ、「有体物」なので、必ずしも紙に書いてある必要はないですよという感じです。この文書、いろいろな視点からの分類の仕方がありますが、税理士の先生が知っておいた方が良いものとして、「処分証書」と「報告証書」という分類がありますので、そちらを解説いたします。

2.1 処分証書

「処分証書」とは、

意思表示その他の法律行為を記載した文書

を言います。意思表示の詳細はこちらをご覧ください。なんか難しそうですが、文書の内容が、意思表示等の契約を成立させるもの等の法律効果を発生させるものを言います。例えば、契約書とか、遺言書とかというものを言います。
 この「処分証書」、詳細な法的な理由は長くなりますのでまた別記事で書きたいと思いますが、契約書等のように押印がある場合には、すごく強い証拠になります。これが、あるとそのような意思表示がなかったと証明することは著しく困難になります。それだけ、契約書などの「処分証書」は証明する効果(証拠力)が強いと思っていただければ良いと思います。

2.2 報告証書

「報告証書」とは、

 作成者の経験した事実認識(見聞、判断、感想)を記載した文書

をいいます。これは直接の法律行為を記載したものではありません。
例えば、領収書・業務日誌・日記・診断書等があります。
 こちらの証拠力は、他の証拠や事実との兼ね合いで、その証拠力を判断することになります(事実の立証構造についてはこちらをご参照ください)。

 

3 人証

 人証とは、上記の通り、人の供述を言います。
 テレビドラマで、よくでてくる裁判所のシーンは、証人尋問で、これは人証ということになります。
 この人の供述(言ったこと)なのですが、その証明力がどのくらいあるのか?という点についてはその供述の内容がどこまで信用できるのかというところによります。大まかに言うと考慮されるのは、以下のような点が代表的です。

 ①供述者の有する利害関係
 ②事実を認識した客観的状況
 ③記憶の喪失や変容が生じるおそれの程度
 ④動かし難い事実や他の客観的な証拠等との整合性
 ⑤供述内容の一貫性

特に③動かし難い事実との整合性や他の客観的な証拠等との整合性が重要となります。なんせ、人は、自由に嘘も言えてしまうわけですから、供述があるということだけではあまり信用できないんです。
 それでは、上記のポイントを少し詳しく見ていきましょう。 

①供述者の有する利害関係

 例えば、訴訟の当事者となっている者、自らの供述はあまり信用できません。自分に有利なことを言っている可能性が高いからです。
 これと同じで、当事者でない者であっても、一方の当事者を勝たせることで自らが利益を受ける関係にあったり、はたまた家族だったりすれば、どちらかに肩入れするおそれは強くなりますのであまり信用できないよねという風になりやすいです。
 一方で、利害関係のある人が、自分が不利になるような供述をすれば、これは真実を言っているのかもとなりやすい側面もあります。

②事実を認識した客観的状況

 これは例えば、交通事故の現場を目撃した人がいた場合に、その人の視力、周りが暗かった、目撃したとされる場所と事故現場の間に電柱等の障害物があったか等の事情から、その供述をした人の目撃状況が、しっかりと事実を認識できたのかというポイントです。
 視力が良い(または眼鏡等をかけている)、昼で周りは明るかった、障害物はなくしっかりと現場が見える状況だったということになれば、そうでない場合よりも供述の信用性が増すことになります。

③記憶の喪失や変容が生じるおそれの程度

 次に、③ですが、かなり昔の出来事であれば当然、記憶が失われたり、変わったりする可能性が高くなります。ただし、その供述した人にとって、関心の高い出来事であれば、時間が経っても比較的に正確に記憶しているという可能性もありえます。逆に、日常の事柄や職業上そのような出来事を大量に経験している場合はそれほど時間が経っていなくても、記憶に残っていない可能性が高くなります。
 つまりは、出来事によって、その供述者の記憶が鮮明に残りやすいものかで評価が異なってきます。

④動かし難い事実や他の客観的な証拠等との整合性

 上記の通り、ここが最も重要になります。この動かし難い事実や客観的な証拠と、供述の内容が矛盾すると一気に信用性がなくなってしまいます。
 この「動かし難い事実」とは、その他の証拠からまず間違いないだろうと認定できる事実を言います。例えば、銀行の通帳に振り込み履歴があるにもかかわらず、それに反する供述をしてしまうと信用性を失うことになります。その他、動かし難い事実と矛盾するわけではないが、合理的に考えたら、そのようなことはないよね?というような場合であっても、信用性が落ちてしまうわけです。

⑤供述内容の一貫性

 供述内容が一貫しているよりも、変遷や矛盾がある場合には信用力が下がるというものです。以前言っていたことと今言っていることが違うとなると信用できないですよね。
 ただし、些細な部分等については、人間である以上変遷することはあります。なので、変遷や矛盾のある点がどこにあるのか、つまり「変遷・矛盾があることが不自然またはおかしいといえる点」に変遷や矛盾があるのかがポイントになります。

 

4 まとめ

 以上が、性質面から見た証拠の分類になります。今回は特に重要な部分について解説させていただきました。結局のところ、客観的な証拠から認定できる事実が何なのかという点が重要になります。書証のところは、法律的に言うと証拠力について細かい理論があるのですが、今回は概要を理解していただくため省略しました。いずれ、その部分についても書きたいと思います。

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弁護士法人 ピクト法律事務所
代表弁護士永吉 啓一郎
弁護士となり、鳥飼総合法律事務所に入所。その後、弁護士法人ピクト法律事務所を設立し、代表に就任。 現在、250名以上の税理士の先生が会員となっている「税理士法律相談会」を運営し、年間400件以上、税理士の先生の法律相談を受けている。 特に法務と税務がクロスオーバーする領域に定評があり、税理士と連携した税務調査支援、税務争訟対応、相続・事業承継事前対策と紛争対応、少数株主事前対策と紛争対応、税賠対応(税理士側)や税理士事務所内部の法的整備などを多く取り扱う他、税理士会をはじめとした税理士向けの研修講師も多数勤める。 主な著書に「非公開会社における少数株主対策の実務〜会社法から税務上の留意点まで〜」(第1版・第2版)、「民法・税法2つの視点から見る『贈与』」、「民事・税務上の「時効」解釈と実務:〜税目別課税判断から相続・事業承継対策まで〜」(清文社)、「企業のための民法(債権法)改正と実務対応」(清文社)がある。

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